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続編-予約済み・15-

「きゃあっ!?」




「……千莉っ!?」


林田と一緒に川釣りをしていた千莉の叫び声が聞こえ、彼女に視線を移すと川の中で転んでいた。




「高……」


「千莉っ」


彼女を助けようとしている林田より素早く駆け寄って体を支えながら立たせると、


「男の子が……」


千莉はこれまた川の中で転んでわんわん泣いている小さな男の子に視線を移した。


彼女はどうやらこの子を助けようとして、川の中に入ったところで自分も転んでしまったようだ。




「大丈夫?」


その男の子を俺が抱き起こすと、


「あっちゃん!」


男の子の母親と思われる女性が駆け寄って来た。




「ママ……ぼうし……」


男の子は泣きながら川のど真ん中で岩に引っ掛かっている麦わら帽子を指差した。


さっき少し強い風が吹いたからその時に飛ばされたのだろう。




「あれを取りに行こうとしてたの?」


母親がそう訊くと男の子はコクンと頷いた。




「危ないから俺が取りに行きます。川から上がってて下さい」


川の中は流れは緩いけれど石や苔で足元が悪い。




(これじゃ千莉がコケたのもわかる気がするな)


用心しながら麦わら帽子に近付く。


すると、岩に引っ掛かっていた麦わら帽子が水流に乗って流れ始め、


「……っと」


間一髪でそれをキャッチした。






「ありがとうございました」


俺が川から上がると母親がホッとしたように言った。




「いえ」


軽く笑みを返して男の子の目線に合わせてしゃがみ、麦わら帽子を差し出す。


「はい、今度からはちゃんと大人の人に取って貰うんだよ? 危ないからね」




「……うん」


男の子は顔を上げて麦わら帽子を小さな手で受け取った。




そして、俺に一言こう言った。


「ありがとう、おじちゃん」




(おじ……っ)




……グサ――ッ!




男の子言葉が胸に刺さった。


子供は時に残酷だ。


いや、実に……。




「……どういたしまして」


引き攣る顔で笑いながら言うと男の子と母親は濡れてしまった服を着替える為にその場を離れた。




「前園さん、大丈夫ですかっ?」


その直後に大伴さんが駆け寄って来た。




「びしょ濡れじゃないですかっ。私、タオル持って来ましょうか?」




「いや、ちゃんとタオルも着替えも持って来てるから。プリントに用意しとけって書いてあったしね。


 高本さん、着替えに行こう」


これ以上大伴さんに絡まれたくない俺は千莉と一緒に車に置いている着替えを取りに行った。






「前園さん、どうしたんですか?」


車に向かう途中、“おじちゃん”と言われた事にまだ立ち直れないでいると、


俺の隣を歩く千莉が不思議そうな顔をした。




「いやぁ……あのぐらいの子にとっては俺は“おじちゃん”なんだなぁー、と思ってね」




「でも“おじいちゃん”て言われるよりはマシじゃないですか」


そう言って可愛らしい笑みを浮かべる千莉。




(いや、そうだけど……)






     ◆  ◆  ◆






「「「前園さんっ」」」


千莉と一緒に再び経理部と総務部のみんなの所へ戻ると例の三人娘が一斉に駆け寄って来た。




(な、なんだっ?)


俺が足を止めると同時に千莉も足を止めた。




「「「前園さんと高本さんて、付き合ってるんですかっ?」」」




「「……え」」




「前園さん、さっき高本さんの事を“千莉”って呼んでましたよねっ?」


「それって一体、どういう事なんですかっ?」


「ただの同僚なら咄嗟だとしてもそんな呼び方なんてしないですよねっ?」




「ちょ……っ」


三人の勢いに圧倒される。


同時に千莉も顔を引き攣らせながら後退りしている。




「「「前園さん、答えて下さい!」」」




「俺……、“千莉”って呼んでた……?」




「「「呼んでました!」」」




「……いつ?」




「高本さんが川で転んだ時」


「高本さんに駆け寄った時」


「二回も!」




(しまった……気が動転してて気が付かなかった……)




「前園くん、本当なのか?」


経理部の伊藤部長もバーベキューの準備の手を止めた。




「いや、あのー……」


(参ったなぁー……)




「前園さん、もう観念して認めちゃった方が楽になりますよ?」


そう言ってクツクツと笑いながら三人娘の後ろから近付いて来たのは林田だった。




「う……」




「高本さんはどうなんだ?」


しかも、今度は総務部の長谷川部長が千莉に訊ねた。




「……はい、お付き合い、してます」


すると、千莉は観念したように少し小さな声で答えた。




(千莉っ?)


俺は驚いて彼女の方を振り返った。




「部署内で恋愛が禁止されてるのは知ってますっ、で、でも……、それで、もしも、


 どちらかが異動という事になるのなら……、私を異動にして下さいっ」


千莉はそう言ってぺこりと頭を下げた。





「いえっ、それなら俺が異動しますっ」




「まぁまぁ、君達落ち着きなさい」


苦笑いしながら俺と千莉を宥める長谷川部長。




「確かに“同じ部署内”では恋愛は禁止されているが、君達は経理部と総務部だろう?


 何か問題があるかな? 伊藤部長はどう思われます?」




「フロアは一緒と言っても別の部署だから、このままで問題ないんじゃないですかねぇ?


 それに前園くんがいなくなったら困るし」


……と、伊藤部長。




「うん、うちも高本さんがいなくなるのは困るんですよねぇー」




「じゃ、このまま異動なしって事で」




「ですね」


そう言って伊藤部長と長谷川部長は再びバーベキューの準備を再開した。


一瞬、『そんな簡単でいいんですか?』と突っ込みたくなったが、それで済むならいいと思ってやめた。




「やっぱり、付き合ってたんですね……」


「相手が高本さんなら勝ち目ないなぁ……」


「……あれ? でも、いつかの女子大生は?」


そして三人組がそんな事を口にした時――、


「それってこの子?」


大伴さんが携帯を取り出した。




「あ……、この子だったと思う。チラッとしか見てないけどこんな感じの子だった」


三人組の一人・木内さんが大伴さんの携帯の画面を見ながら言った。


他の二人もその携帯を覗き込む。




「前園さん、この女の子は誰ですか?」


「この画像を見る限り、一緒に住んでるみたいですけど?」


「高本さんと二股を掛けているんですか?」


三人組に言われ、大伴さんに携帯を見せてもらう。


すると、そこに写っていたのは俺が林田に見せられた写メと同じ物だった。




「前にも言ったけど、それ、妹だから。信じられないなら、今度連れて来ようか?」


そこまで言うと、流石に信じたらしく、大伴さんと三人組は黙り込んだ。

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