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続編-予約済み・13-

翌日――。




--------------------


今夜、食事に行きませんか?


--------------------




朝一でそんな内容の社内メールが来た。


差出人は大伴さん。




(千莉なら二つ返事でOKするのになぁー)


とりあえずそのメールは無視。




すると――、




--------------------


昼休み、大江戸屋で待ってます。


--------------------




今度は林田から社内メールが届いた。


『大江戸屋』とは俺達サラリーマンがよく利用している定食屋だ。


ヤツがこんな男くさい定食屋なんかを指定したとなると――、




--------------------


わかった。


--------------------




俺はそう返して目の前の書類に手を付けた――。






     ◆  ◆  ◆






「……前園さん、単刀直入に訊きます。高本さんと付き合ってるんですか?」


とりあえず、世間話をしながら大江戸屋で食事を済ませた後、俺が煙草に火を点けたところで林田が口を開いた。




「……やっぱ、そうきたか。女子社員が来そうにない定食屋をチョイスしたから、


 そんな事を訊かれるんだろうと思ってた」


俺がそう言ったところで林田も煙草に火を点ける。




「付き合ってるよ」




「……」


俺が素直に白状すると林田は何か考えているみたいに黙り込んだ。




「じゃあ、水沢さんのご主人が部署に来た時に言ってた“真剣に付き合っている相手”って……」




「あぁ、千莉の事」


林田は俺が彼女の事を“千莉”と言った事に耳をぴくりとさせた。


だが、林田はすぐに真剣な顔になった。




「……高本さんの方も真剣みたいですし、それなら、俺や他の誰かがつついたくらいじゃ何ともないとは思いますが……、


 一応、一つだけ忠告があります」




「ん?」




「大伴さんには気を付けた方がいいです。


 彼女……、昨日俺を食事に誘い出して『高本さんを誘惑してくれ』って言ったんです」


林田は少しだけ身を乗り出して小声で言った。




「っ」


俺はその言葉に驚きを隠せなかった。




(そんな事までして……)




「あの時、俺が『高本さんを狙ってる』なんて言ったもんだから、手っ取り早く俺にそう言って来たんでしょう。


 もちろん、俺は『そんなのフェアじゃないから』って断りましたけど。


 でも、ぶっちゃけ高本さんを狙ってる男は大勢いますからね」




「『ボーリング大会』の人気投票もダントツだったもんなぁー……」




「彼女が高本さんを狙っていそうな男性社員全員に声を掛けるとは思いませんけど、


 歓送迎会の時も酔ったフリをしていたみたいですからね。


 前園さんが高本さんを連れて帰った後に、しれっと一人で帰って行きましたし」




「てか、あの時、俺が送って帰らなかったら千莉をどうするつもりだったんだ?」




「……確かにあの時はもう喋れないくらい潰れてましたからね。


 かと言って、俺の部屋は流石にマズいですしね。


 ホテルもどうかと思うし……だから正直、タクシーに乗せたものの困ってました」




「そか」




「……でも、まさか高本さんがあんなに日本酒に弱いとは思わなかったです。


 いつもそんなに飲まないし、けどあの時は珍しく途中から高本さんのピッチが早くなったから、


 調子こいて『利き酒セット』をオーダーしたら……あんな事になりました」




「んー? なんでピッチが上がったんだろ?」




「今考えてみれば高本さん、前園さんの方を気にしていたみたいですから、


 大伴さんとうちの三人娘に前園さんが囲まれてたのが面白くなかったんじゃないですかね?」




「むぅ……でも、とにかく忠告ありがとう」




「いえ、俺はあくまで高本さんの為を思って言ったんです。


 それに、前園さんが『高本さんとは真剣じゃない』って答えたら忠告じゃなくて


 “宣戦布告”しているところでしたけど」




「……」


(こいつ……やっぱり、俺、嫌いかも)






     ◆  ◆  ◆






数日後――、




(また来た……)


ここのところ毎日のように来る大伴さんからの社内メールにうんざりしていた。


林田から忠告を受けたその日も昼休憩が終わってデスクに戻ると社内メールが来ていた。


内容は『食事に行きませんか?』


そして、今来たメールの内容は『今度のお休みに二人きりでどこかへ行きませんか?』


もちろん、俺は一々断るのも面倒臭いから無視し続けているけれど。




そして、翌日――、




--------------------


今夜、時間ありますか?


--------------------




再び林田から呼び出された。


内容を見た瞬間、また大伴さんからだと思った俺は危うく無視するところだった。




--------------------


大丈夫だけど、何かあったのか?


--------------------




--------------------


大伴さんがまた妙な事を言ってきたんです。


俺も腑に落ちないので前園さんに直接確認したくて。


--------------------




(妙な事?)




--------------------


わかった。


なるべく早く仕事を切り上げるから。


--------------------




--------------------


はい。


でも、あんまり早過ぎると大伴さんや三人娘が乱入して来るかもしれないので


十九時くらいで。


--------------------




--------------------


OK


--------------------




大伴さん、今度は一体何を仕掛けてきたんだろう――?






     ◆  ◆  ◆






午後七時半――、


俺と林田は大伴さんや総務の三人娘が帰ったのを見届けてから会社のすぐ近くにある居酒屋に入った。




「さっそくだけど、大伴さんが妙な事言ってきたってのは?」


オーダーした物が揃ったところで、俺は前置き無しに切り出した。




「それが今日の昼休みにいきなり呼び出されて、こんな画像を見せられたんですよ」


そう言って携帯の画面を俺に見せる林田。




「っ!?」


その携帯の画面を見た俺は絶句した。




「大伴さん曰く、前園さん、この画像に写っている女性と同棲しているって。


 だから、俺に協力しろって……そうすれば高本さんも傷付かなくて済むからって」


そう言いながら更にもう一枚画像を俺に見せる。




「……」


俺はもう呆れて声も出なかった。




「この女性って……」


林田は核心に触れるかのように俺の顔を窺った。




「それ……妹だから」




「えっ!?」


思いもよらなかったレスなのか、林田はやや素っ頓狂な声を上げ、携帯の画像をマジマジと見た。




「一枚目は昨日、俺が帰った時にちょうと妹も帰って来てマンションの前で一緒になったんだ。


 それでその時に妹が買い物袋を持ってたから、俺が持ってやってたところ。


 二枚目はその数分後に宅配が来て妹が出たところ。


 だから大伴さんが言ってるように“他の女と同棲”しているんじゃなくて、“妹と同居”してるだけだから。


 ちなみに千莉にも会った事があるよ」




「妹さんて大学生なんですか?」




「あぁ、大学四年生。元々俺とは一緒に住む予定じゃなかったんだが……、


 まぁ、いろいろ事情があって一緒に暮らしてるんだ」




「そうだったんですか。全然知らなかった」




「別に直隠しにしてた訳じゃないんだけど、特に誰にも話してなかったからなぁー」




「だけど、この画像……隠し撮りっぽいですよね?」


そう言うと林田はもう一度携帯の画面を見つめた。




「昨日、尾行されてたって事か……」




「今まで耳にしてた『前園さんが夜な夜な女を部屋に連れ込んでいる』っていう噂の真相がわかりました……。


 みんな妹さんの事を勘違いしてたんですね」


苦笑いの林田。


確かにそんな噂がある事は知っていたが、まさかそれを真に受けていたとは……。

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