表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/43

続編-予約済み・9-

――翌朝。




「高本さん」


経理部の伊藤部長に呼ばれ、顔を上げると部長とその少し後ろに一人の女性が立っていた。




「今日から西川さんの後任で来てくれる事になった、派遣の大伴さん」




「大伴です。よろし……千莉っ?」




「……佐緒里っ」


伊藤部長の紹介で私の目の前に現れたのは、かつての親友・大伴佐緒里だった。




以前、私が付き合っていた彼・遠野隆也とおの たかやが二股を掛けていた相手だ。


彼女とはその時以来、一切連絡を取っていなかった。


それがこうして、また私の前に現れるなんて――。




「高本さん、大伴さんと知り合いだったの?」




「は、はい、高校の同級生です」




「そうか、それなら部は違うけど大伴さんにいろいろ教えてあげてくれ。


 それと、彼女に臨時社員用のセキュリティーカードを貸し出してあげて欲しいんだが」




「はい、わかりました」


私はキャビネットの鍵を開け、臨時社員用のセキュリティーカードを一枚取り出して佐緒里に渡した。




「ありがとう、これから宜しくね」


佐緒里はあの頃とまったく変わらない笑みを私に向けた。


こんな風に接する事が出来るって事は、きっと隆也との事を私が知らないと思っているのだろう。






     ◆  ◆  ◆






「千莉と大伴さんて知り合いだったの?」


その日の夜、賢さんのお店で一夜さんにも伊藤部長と同じ事を訊かれた。




「……高校の時に付き合ってた彼が二股を掛けてた相手の女の子」


私がそう言うと、一夜さんが驚いた顔で固まった。




「……それって……、クリスマスにツリーの下でバッタリ会ったあの彼?」




「うん……」




「そっか……朝礼が終わった後に伊藤部長に『今回は元カノじゃないだろうね?』って耳打ちされて、


 そんな偶然、そうそうある訳ないだろって思ったけど……こういうパターンの偶然もあるのか……」




「だけど、佐緒里の方は私が何も知らないと思ってるみたい」




「だから千莉に対してあんな風に親しそうに接するのか……」




「……」


私はまた佐緒里に一夜さんを取られてしまうんじゃないかって不安になった。




「千莉?」


すると、不意に一夜さんに顔を覗き込まれた。




「どうしたの?」


私を優しく見つめる一夜さん。




「……ううん、なんでもない」


私がそう答えると一夜さんは柔らかい笑みを浮かべた。




私は一夜さんの隣にずっといたい、一夜さんとずっと一緒にいたい。




佐緒里に取られたくない――。






     ◆  ◆  ◆






――翌日、昼休憩。




「前園さん、ここ空いてますよ、どうぞ♪」


佐緒里と一緒に社員食堂で昼食を摂っていると、一夜さんの姿を見つけた彼女が嬉しそうに声を掛けた。




「あ、あぁ、うん」


特に断る理由もない一夜さんは、少し戸惑いながら返事をして私の隣に腰を下ろした。




「前園さんて、今彼女とかいるんですか?」


佐緒里の質問に一瞬、箸を止める。




「うん、いるよ」


笑顔で即答する一夜さん。




「もう長いんですか?」




「いや、まだ半年も経ってないくらいだよ」




「へぇ~」


佐緒里は何かを考えながら返事をすると、


「千莉は?」


私に視線を移した。




「遠野くんとまだ付き合ってるんでしょ?」




「……隆也とは、大学の時に別れた」




「そうなんだ? それからは連絡とかは? 会ったりしてないの?」




「……去年のクリスマスに偶然会ったけど……一言二言話しただけ。


 連絡も別れてからは全然ないし、私からもしてない」




「あんなに仲が良かったのに?」




「……」




「私、絶対二人は結婚すると思ってたけど?」




「……」




「昔の恋人話が酒の肴って言うのはよくあるけど、ご飯のおかずにするのは珍しいね?」


私が黙っていると、一夜さんが苦笑いしながら言った。




すると、そこへ――、


「ここ、いいかな?」


林田くんが来た。




「どうぞ♪」


佐緒里がにっこり笑って言う。




「大伴さん……だっけ? 高本さんとは高校の同級生なんだって?」




「はい」




「じゃあ、俺とも同い年だね。同じフロアにいるから知ってると思うけど総務部の林田です。


 高本さんとは同期なんだ。だから敬語なんか使ってくれなくていいよ」


そう言って佐緒里に自己紹介をした林田くん。




「千莉と同期で同じ部署って事は仲もいいの?」


その流れで佐緒里は私の元彼話から別の話題に移った。




「うん、まぁそれなりね」




「じゃ、社内で誰が千莉の事を狙ってるかとかも知ってたりして?」


佐緒里がにやりとしながら言う。


そういえば、彼女は昔からこういった話が“大好物”だった。




「そりゃあ、高本さんは社内で『恋人にしたいランキング』ナンバーワンだからね。


 ほとんどの男性社員が狙ってると思うよ?」


林田くんは笑いながら言うけれど……そんな事はないと思う。


それにだいたいその『恋人にしたいランキング』って何?




「実は俺も狙ってるけど、一度玉砕したしね?」


自虐的な笑みを私に向ける林田くん。




「は、林田くん……っ」




「え、何? その話聞かせて?」


案の定、喰い付いてくる佐緒里。




「今年の三月に経理と総務合同で『ボーリング大会』があったんだけど、裏企画で一位の男性社員には


 女性社員の人気ナンバーワンとホワイトデー限定の『ロイヤルディナークルーズ』に招待っていうのがあったんだ。


 で、女性社員の人気ナンバーワンはもちろん高本さんで男子の部の優勝者が俺だったんだけど、


 いざ、高本さんを『ロイヤルディナークルーズ』に誘ったら『恋人がいるから』ってあっさり断られたんだ」




「えー、もったいない。てか、千莉ってやっぱり彼氏いたんだ?」




「う、うん」




「今度紹介してよ」




「……そのうち」


本当は紹介なんてしたくないって思った。


だって、また隆也の時みたいに取られてしまいそうだから――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ