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続編-予約済み・8-

「千莉ちゃん、今夜泊まってもいい?」


賢さんのお店をいつもより早めに出ると、一夜さんが珍しくそんな事を言った。




一夜さんは週末、私の部屋に泊まる事が多くなった。


切欠はホワイトデーのプレゼントだと言ってシングルサイズだった私のベッドをダブルベッドに買い換えてくれた事だ。


その時はなんだかとっても“してやられた感”でいっぱいだったけれど、今はそれでよかったと思っている。


しかし、今日はまだ水曜日だ。




「うん、大丈夫だけど、みちるちゃんとケンカでもしたの?」




「違うよ。俺が千莉ちゃんと一緒にいたいだけ」


優しい口調でそんな事を耳元に囁かれ、思わず顔が赤くなった。






     ◆  ◆  ◆






一夜さんは私の部屋に入るなり、玄関のドアに鍵を掛けて私の腰を強く引き寄せた。




「一夜さん……?」




「ごめん……もう、我慢出来ない……」


そう言って私の肩を抱いて顔を埋めた一夜さん。




「ずっと、こんな風に千莉に触れたくて……だけど、冴子の事がちゃんと解決しない限り、


 感情だけで千莉に触れたりなんかしたらきっと傷付けるだけだと思って……出来なかった。


 だけど、千莉が俺の事を嫌いになったら……どうしようかと思ってて……」




「そんな……私の方こそ、一夜さんが……また……」


一夜さんに抱きしめられた瞬間――、


今まで我慢してた感情やさっきまで残っていた少しの不安が一気に涙と一緒に溢れ出した。




「千莉……ごめん」


より一層強く私を抱きしめる一夜さん。


そのまま彼の唇が私の唇と重なる。




私はその後、彼に抱きかかえられてベッドへ運ばれた――。






     ◆  ◆  ◆






一頻り愛し合った後――、


「……ねぇ、一夜さん」




「うん?」




「……水沢さんとは……どうして別れたの……?」


私は一夜さんの口からちゃんと聞きたくて思い切って訊ねてみた。




「……俺が冴子にプロポーズして結婚が決まって……彼女のご両親に挨拶に行った時に


 『冴子は一人っ子だから婿養子になってくれ』って言われたんだ……だけど、俺も長男だし、


 すぐには返事出来ないって言って、俺の両親に相談したんだけど、当然両親は大反対した。


 でも、冴子のご両親も『嫁には出せない』の一点張りで……そしたら、冴子のヤツ、


 『駆け落ちしよう』なんて言い出した。


 だけど俺はそれじゃあ、なんの解決にもならないって反対をしたんだ。


 そしたら今度は冴子のヤツ、先に子供を作ろうって言った。


 でも、俺はそれにも反対をした。


 周りに祝福されない結婚なんて……絶対に幸せになれないと思ったから……。


 そしたら、冴子のご両親が今の旦那さんと冴子を無理矢理見合いをさせて、


 相手が冴子をとても気に入ったって事もあってすぐに縁談が纏まった。


 冴子は俺にその縁談を止めて貰いたかったみたいなんだけど……俺には出来なかった。


 今の旦那さんはね、大きな病院の次男で旦那さん自身も開業医をしている優秀な人なんだ。


 それで、そのうち、冴子が妊娠して“出来ちゃった結婚”っていう形ではあったけれど、


 二人はそのまま結婚した……。


 冴子は優柔不断だった俺に嫌気がさしたんだと思う。


 でも……今は俺はそれで良かったと思ってる……だって、こうして千莉と一緒にいられるから……」




「一夜さん……」




「そりゃあ、さすがにね、冴子にフラれた後は荒れたよ?


 だけど、それがあるから今の千莉との時間が……幸せがあるんだと思う」




「私との時間が幸せ……?」




「そう……俺、冴子は今の旦那さんと結婚して良かったと思ってる。


 負け犬の遠吠えみたいに聞こえるかもしれないけど……今日、二人の姿を見てそう思った……。


 今はあの時、冴子にフラれて良かったんだって心の底から思える」




「……そか……あのね、もう一つ訊いてもいい……?」




「うん、何?」




「あの、ね……前から思ってたんだけど、一夜さんてどうして普段は私の事、“千莉ちゃん”て呼ぶの?


 ベッドの中では……“千莉”って呼んでくれるのに……」


私はずっと抱いていた疑問を口にした。




「だって……“千莉”って呼ぶ度に俺の気持ちがどんどん膨らんでいって抑えられなくなって……、


 先走る気がするから……今よりも、もっともっと千莉にがっつく気がするから……。


 でも、そうしたら千莉に嫌われる気がするし……」




「私……一夜さんの事、好きよ? だから……」




「それって、がっついても平気って事?」




「え、と……その“がっつく”って……?」




「こんな風に突然、千莉の部屋に押しかけて抱いたりしてもいいの?」


一夜さんに真っ直ぐに見つめられ、動けなくなった。


でも、私は恐怖を感じていた訳ではない。




「一夜さん……今までずっと我慢してたの?」




「実は、結構……」


苦笑いを浮かべる一夜さん。




「……我慢、しないで?」




「千莉……」


「水沢さんの時と同じ様に……」


「それは、無理」


「……っ」


一夜さんの言葉に私の胸がズキンと痛んだ。




(やっぱり……一夜さんの中にはまだ……)




しかし――、


「だって……俺は冴子の時よりも真剣なんだ」




(え……っ?)


私は思わず一夜さんの顔を見上げた。




「冴子と同じ様になんて出来ない……だって、それ以上に千莉を愛しているから……」


すると、真剣な目で彼が見つめ返してきた。




「だから、“千莉ちゃん”て呼ぶ事で自分を抑えてるんだ。求め過ぎて嫌われないように……」




「……そんなの、気にしなくていいのに……」




「抑えなくていいって事?」




「うん」




「……後悔しても知らないよ?」




「後悔なんてしない……だって……私も一夜さんの事、愛しているから……」




「挑発してるの?」




「え……っ? そ、そんな、挑発なんて……っ」




「嘘だよ……」


一夜さんはそう言うとそっと私の唇にキスを落とした――。

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