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続編-予約済み・6-

――翌朝。




「……え、水沢さん、辞めちゃったんですか~?」


経理部の朝礼で冴子が辞めた事が知らされ、西川さんが気の抜けた声を出した。




「ご主人と話し合って決めたそうだ……それにしても、前園くんと水沢さんが付き合っていたなんて


 全然知らなかったなぁ」


――と、伊藤部長。




(知ってて冴子を経理部に配属したんだとしたら、相当な鬼だぞ……)




「あの……それで後任の人はどうなっちゃうんでしょう?」




「その事なんだが、今大至急捜して貰っているから、すまないがまた一から引き継ぎを頼むよ」


西川さんの質問に苦笑しながら答える伊藤部長。




(冴子が辞めたという事は、とりあえずは一件落着……かな?)






そして、朝礼が終わると――、


「前園くん、次の後任の子もまた元カノだったらすぐに言ってくれよ?」


伊藤部長が俺に耳打ちをした。




「は、はぁ……」


(そんな偶然有り得ねぇっつーの……)






     ◆  ◆  ◆






その日の夕方――、




「前園くん、ちょっと一緒に来てくれ」


定時を過ぎた頃、伊藤部長に言われた。




「はい」


何かと思いながら席を立ってついて行くと、


「下に水沢さんがご夫婦で見えているらしい」


と、小声で言った。






部長と共に一階ロビーの横にある応接室に入ると、冴子と冴子の旦那さんが待っていた。




「「この度は大変申し訳ありませんでした」」


俺と伊藤部長に二人揃って深々と頭を下げると、


「主人ともよく話し合いました」


冴子が落ち着いた様子で話し始めた。




「前園さんにも大変なご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。


 息子を置いて冴子が突然家を出て行ってしまった後、水沢の両親に相談したら、


 おそらくあなたの所じゃないかと言われまして……それで興信所に調べさせたら


 恋人だったあなたの会社に派遣社員として働いてて、おまけにあなたのマンションに


 買い物袋を提げて入っていく写真を見せられて……、


 それで、つい勘違いを……本当に申し訳ありませんでした……」


旦那さんの方も“俺が冴子を誘惑した”という誤解が解けたらしく、ばつが悪そうに言うと、


改めて頭を下げた。




「いえ……、それよりお子さんを置いて出て行ったって……一体、どうしてそんな……?」




「実はお恥ずかしい話……私は次男という事で水沢家には婿養子で入ったのですが……、


 私の結婚と同時に兄夫婦がちょうど実家に戻る事になりまして母の事は全て任せたんです。


 ところが、一年前、母が『兄嫁とはどうしても反りが合わない』と私達夫婦の所に転がり込んで来た上、


 冴子に家事のやり方だけでなく、子育ての事にまで口を挟み始めて……、


 おまけに水沢の両親からは『私達とは別居しているのに……』と言われまして……。


 冴子が相当なストレスを抱えていたのに、私は忙しさを理由にちゃんと話を聞かなくて……、


 それで耐え切れなくなって離婚を覚悟で出て行ったんです」




「“嫁姑問題”か……どこも同じだな」


それを聞いた伊藤部長が軽く溜め息を吐いた。


どうやら部長の家庭にも“嫁姑問題”があるらしい。




「ですが、それも全て解決しました。


 母には兄夫婦の所へ追い帰さない代わりに、二度と冴子に口出しはしないように約束させましたし、


 水沢の両親にもちゃんと話して了解も得ました」




「これからは主人もちゃんと話を聞いてくれると約束してくれましたし」


そう言って穏やかな笑みを浮かべた冴子。


その瞬間――、目の前に並んで座っている二人がものすごく“お似合いの夫婦”に見えた。




(やっぱり、冴子は俺じゃなくてこの旦那さんと結婚してよかったんだ――)






     ◆  ◆  ◆






冴子達夫婦が帰って、席に戻った俺はすぐに千莉ちゃんにメールを送った。




--------------------


さっき、冴子と旦那さんが来た。


全て解決したから。


今夜、会いたい。


賢の店で待ってて?


--------------------




パソコンに向かっていた千莉ちゃんはすぐに社内メールが来た事に気が付いた。




--------------------


うん、私も会いたい


--------------------




彼女のレスに俺は驚いた。




“うん、私も会いたい”




(千莉ちゃんも俺と同じ気持ちなんだ――)


そう思うと今すぐにでも彼女を抱きしめたくてその衝動を抑えるのに俺は必死だった。

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