続編 -チケットは二度彼女の手に届く 5-
――午後10時30分。
打ち上げがお開きになり、お店から出るといつの間にか
一夜さんとあの三人組の姿が消えていた。
(一緒に帰っちゃったのかな?)
それとなく一夜さんを捜していると林田くんが傍に来た。
「高本さん、送っていくよ」
「あ、ううん、大丈夫」
「でも、こんな遅い時間に一人じゃ危ないよ?」
「え……と、ちょっと寄りたい所があるから……」
一夜さんはもしかしたら賢さんのお店に行っているかもしれない。
「今から?」
「う、うん」
「じゃあ、そこまで送っていくよ」
「ううん、ホントに大丈夫だから……それじゃ、おやすみなさいっ」
あそこは一夜さんの隠れ家みたいな所だから他の人に知られるのはマズい。
私は林田くんから逃げるように踵を返した。
賢さんのお店に向かう途中、一夜さんの携帯を鳴らしてみたけれど
散々コール音が鳴った後、留守番電話に切り替わった。
(出ない……)
「こんばんはー」
賢さんのお店に入ると、すぐに賢さんの顔が見えた。
「いらっしゃい♪」
「一夜さん、来てます?」
一夜さんはいつもカウンターの席に座る。
でも、カウンターに彼の姿はなかった。
「ん? 来てないけど? 待ち合わせ?」
「あ、いえー、約束はしてないんですけど、もしかしたら来てるかなー? って」
「携帯には電話してみた?」
「はい、でも出ないんですよ」
「そう。じゃあ、とりあえず何か飲みながら待ってる?」
「はい」
……で、待つ事一時間。
一夜さんはまったくもって来る気配すらない。
「おかしいなぁー、なんで出ないんだろ?」
賢さんも一夜さんの携帯に掛けてみたらしく眉根を寄せた。
「もう帰って寝てるのかも」
「えー、千莉ちゃんを置いて?」
「うーん、今日は結構飲んでたみたいですし、他にも女の子がいたから送って帰ったのかも」
「まったく……同じ酒の席で飲んでたにも拘らず彼女を放っておいて他の女と帰るなんて」
賢さんはなんだか私より怒っていた。
――翌朝、ロッカールームに入るとあの三人組がいた。
「うぇ〜、気持ち悪い〜っ」
「最悪……」
「休めばよかったー……」
ポカリスエットやミネラルウォーターを片手に辛そうな顔をしている。
どうやら二日酔いみたいだ。
「ねぇ、昨日前園さん、いつの間に帰ったの?」
「えー、知らない。気がついたらいなかったよねぇ?」
「うんうん」
制服に着替えながら聞こえてきた会話を何気なく聞いていると一夜さんの事を話していた。
彼女達がこんな会話をしているという事は、昨夜は一緒に帰った訳ではなさそうだ。
打ち上げの時、一夜さんがあちこちの席に移動してもずっとくっついて回っていたから
帰りも一緒だったのかと思っていたけれど、まんまと撒かれたらしい。
(じゃあ、一人で帰って酔い潰れて寝ちゃったのかな?)
デスクに座ってパソコンの電源を入れながら一夜さんの方をちらっと窺うと
いつも通りの顔で仕事をしていた。
(あれ? 昨夜は結構お酒を飲んでいたはずなのに)
不思議に思いながらメールボックスを開くと、林田くんからメールが来ていた。
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おはよう。
明日のディナークルーズの事なんだけど、
18:00に浜松町駅北口で待ってるから。
チケット持って来てね。
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(あ……そういえば)
一夜さんの事で頭がいっぱいですっかり忘れていた。
(どうしよう……)