続編 -チケットは二度彼女の手に届く 3-
「佐々木も下手だなー」
右隣のレーンにいる佐々木達が一足先にゲームを始めた。
それを見ていた高木さんがプっと吹き出した。
(確かに……)
佐々木も松本同様、いきなりガターを出していた。
松本も佐々木も去年入社したばかりの新人。
「最近の若いモンは……」じゃないけれど、あまりボーリングをした事がない世代なのか、
それとも二人ともただコントロールが悪いだけなのか。
どのみち俺様の敵ではない事だけは判明した。
だが、林田はというと第1フレームの第一投目でいきなりストライクを出しやがった。
(む、やるな)
「前園さんの番ですよー」
「あー、はいはい」
西川さんに呼ばれて立ち上がると視界の端に千莉ちゃんが見えた。
あんまりガン見するとなんかいろいろとバレそうだったから、
顔の向きは変えずに横目でちらり。
千莉ちゃんもこっちを見ているみたいだ。
頑張らねば。
ボーリングは結構ハマっていた時期もあったからよくやっていた。
調子が良ければ150くらいはいける……かな?
俺が投げたボールは真っ直ぐにヘッドピンに当たった。
「よっし! ……て、あら?」
しかし、運悪く7番と10番のピンが残り、いきなりスプリット。
(パワー不足だったか?)
「あー、惜しいねー」
「でもこれ頑張ればスペアー取れますよ」
そう言ってくれた高木さんと西川さんにうんうんと頷きながらイスに座ると、
林田と目が合った。
(なんかちょっと余裕かましてねーか?)
そしてその林田の第二投目はなんと……っ!
ガター。
(えーっ?)
手元が狂ったのか?
次は俺の第二投目。
7番ピンの左側を狙うか、10番ピンの右側を狙うか……
(右だな)
特に根拠はない。
“迷ったときは右”
理由は実に簡単、俺は右利きだから。
コントロールが重要だから少し抑え気味に投げた。
するとボールは見事10番ピンの右側を掠め、7番ピンに向かって弾き飛んだ。
スペアーだ。
高木さんと西川さんにハイタッチをすると、林田が微妙な顔をしていた。
完全に俺の事をライバル視しているみたいだ。
その後も林田はストライクを出したかと思えば、ガターを連発したり
上手いのか下手なのかよくわからないが第9フレームが終わった時には
148点というスコアを叩き出していた。
一方、俺のスコアは155点。
高木さんと西川さんが投げている間、ちらちらと他のグループの
男性社員のスコアを見てみたが、最終フレームの第一投目あたりで
だいたい120点前後だった。
となると、いよいよ俺と林田の一騎打ち、最後の第10フレームが勝負だ。
ここで林田がストライクかスペアーを出したら厄介な事になる。
――そして問題の最終フレーム。
林田の第一投目。
(ガター出せー)
ひたすら心の中で念じながら林田に“呪いの視線”を送った。
すると、俺の呪詛が効いたのか林田は見事にガターを出した。
(よっしゃーっ!)
心の中でガッツポーズ。
まだ勝負はわかんねぇけど。
で、俺の第一投目。
小さく息を吐き出して投げたボールはヘッドピンの右へ僅かにずれ、
またも7番と10番のピンが残り、残念なスプリットとなった。
「ぐはぁ……っ」
林田のガターを喜んでいる場合じゃなかった。
(マズい、次で絶対スペアーを取らないと)
林田は俺をちらりと見て立ち上がった。
でも、その顔に余裕はない。
ここで確実にスペアー……つまり、第一投目がガターだったから
絶対にストライクを出さないと勝負がついてしまうからだ。
林田が投げたボールは勢い良くヘッドピンめがけて転がっていき、
全てのピンを弾き飛ばした。
(な、何ぃーーーーっ!?)
意外とこいつは“やる時はやる”男なのかもしれない。
「「「前園さぁ〜ん! 頑張ってぇ〜っ!」」」
第二投目の前に集中しようとしていると、あの三人組の声が聞こえた。
気がつくと俺と林田のグループ以外はすでにゲームが終わっていた。
高木さんと西川さんが座っているすぐ後ろを例の三人組が陣取り、
きゃあきゃあ言っている。
おかげでさっきまで見えていた千莉ちゃんの姿がまったく見えなくなっていた。
「……」
(邪魔だなぁー)
そして、いまいち集中しきれないまま第二投目。
ボールは10番ピンの右側に当たった。
しかし7番ピンには当たらず、ピンセッターの奥へと倒れた。
「……」
スペアーにならなかったショックで声すら出ない。
という訳で俺のスコアは164点で終わった。
後は林田が6本以上倒さなければ俺の勝ちだ。
しかし、6本倒すと同点になる。
その場合はどうなるんだ?
祈るように……いや、呪うように林田の第三投目を注視していると、
“やる時はやる”男がはまたしてもやりやがった。
乾いた音を響かせて倒れたピンの数は……
7本。
林田のスコアは165点になり、同時にヤツの優勝と千莉ちゃんとの
『デート権』獲得が決まった――。