番外編 -バレンタイン・デー 2-
「いつの間にお店予約してたの?」
「ふっふーん♪一週間前。」
一夜さんは一週間前からすでに今日、
会社の帰りに私と会う事を決めていたらしく、
最近、新しくできたお店を予約していた。
私、一夜さんが今日会ってくれるかどうかわかんなかったから
なんにもしてなかったのに。
「ここってね、料理はもちろん、チョコレートを使った
デザートが美味しいって噂なんだよ。」
「えー、全然知らなかった。」
「逆チョコ♪」
「へ?」
「バレンタインに男性が女性にチョコを贈るってアレ。
けど、フツーにチョコを渡したんじゃ面白くないし、
それなら二人で美味しいチョコのスィーツを
食べたいなーっと思って。」
えー、うそぉー?
「千莉ちゃん、固まった。」
一夜さんは口を開けたまま驚いている私に
クスクス笑いながら言った。
「うー・・・なんか、私、一夜さんにやられてばっかりー。」
「そんな事ないよ♪」
そう言って、両手で頬杖をついてニコニコしている顔は
勝ち誇った感じが滲み出ていた。
一夜さんが言っていた通り、料理もそしてデザートの
“タルト・オ・ショコラ”もすごく美味しかった。
でも、でも、でも・・・っ!
ここからは私が絶対、一夜さんに“サプライズ”するんだもんっ。
食事の後、一夜さんに“本気チョコ”と一緒に、
とある物を渡した。
一つはスターリングシルバーのジッポーライター。
もう一つは・・・
「千莉ちゃん、この鍵・・・」
一夜さんは予想通り、“もう一つのプレゼント”を見た瞬間、
目をパチパチとさせていた。
「私の部屋の鍵。」
「え?」
そして今度は一夜さんが固まった。
「一夜さん、口開いてる。」
一夜さんて、こういう顔もするんだ?
かわいい♪
「・・・い、いいの?」
「だって、一夜さんは私の彼氏だし。
持ってて貰いたいから。」
「てことはー・・・」
一夜さんは顔をあげ、手に持っていた鍵と私の顔を交互に見て、
「つまりー・・・」
そして、ニッと笑うと、
「それって、毎日“夜這い”に行ってもいいって事?」
と、周りのお客様に聞こえないように小声で言った。
「えっ!?」
ええぇぇぇぇぇっっ!?
なんでそうなっちゃうの?
「やった♪」
「え、ちが・・・っ。」
「でも、毎日行けるかなぁ〜?」
「一夜さんっ、私、そういう意味で渡したんじゃ・・・」
「ありがと、千莉ちゃん♪」
「だ、たから・・・ちがうってば〜っ。」
それから一夜さんはずっとニコニコしていた。
私の“サプライズ作戦”はある意味成功、ある意味失敗に終わった―――。