続編 -初めての… 11-
「・・・?このお粥、お兄ちゃんが作ったの?」
一夜さんの妹さん・みちるちゃんは私が作ったお粥を
一口食べて怪訝な顔をした。
もしかして、口に合わなかったかな?
「いや。」
そして、一夜さんがそう答えると「だろうね。」と、笑った。
みちるちゃんはあの三人組が言っていた通り、
可愛らしい子だった。
口元が一夜さんそっくりだ。
「お兄ちゃんが作ったお粥なら、もっと不味いもん。
だからきっと千莉さんが作ってくれたんだと思った。」
みちるちゃんにそう言われ、一夜さんはちょっとムッとした顔をした。
「おまえ、そんな文句言えるようになったんなら
もう大丈夫だな?」
「うん。」
「じゃあ、明日は俺、会社に行くからな。
でも、ちゃんと治るまで出歩くなよ?」
「はぁ〜い。」
みちるちゃんはバツが悪そうに返事をすると
一夜さんが食べているコロッケをつまみ食いした。
ちなみにコロッケは私がお粥を作っている間に
一夜さんが私と一緒に食べようと買って来てくれたものだ。
「あ、こらっ。」
「お兄ちゃん、スープも食べたい。」
みちるちゃんはにんまり笑って一夜さんに言った。
『本日のスープ』は、私が作ったミネストローネだ。
「んぁっ?なんだよー、俺が作った時なんてそんなに食べないくせに。」
「だって、お兄ちゃんのお粥は“作った”と言うより
“温めた”だけのレトルトじゃない。
うどんだって火にかけるだけのだし。」
「しょうがないだろー、俺は料理苦手なんだから。
ところで、千莉ちゃん、スープってまだ残ってる?」
「うん、明日のお昼の分まで作っておいたから、
まだあるよ。」
「じゃあ、俺もおかわりしよっと♪」
一夜さんは嬉しそうに言うと、自分とみちるちゃんの分のスープを装った。
―――1時間後、
「んじゃ、俺は千莉ちゃんを送ってくるから、
お前はちゃんとおとなしく寝てろよ?」
一夜さんが私をアパートまで送ってくれることになった。
「は〜い、ごゆっくり〜♪」
みちるちゃんは一夜さんににやりと悪戯っぽい顔を向けた。
「“ごゆっくり”って、おまえ・・・」
一夜さんはちょっと眉間に皺を寄せ、ビミョーな顔をした。
「みちるちゃん、熱も下がって食欲も出てきたみたいだし、よかったね。」
「俺は熱出して黙って寝てるくらいのがいいけどなー。
千莉ちゃんも聞いたでしょ?あの文句の言い様ったら。
俺がこの数日間、あいつの為に作ったお粥やうどんを
不味いだのなんだのって・・・」
「でも、一夜さん心配で堪らなかったんでしょ?
会社にいる時もそんな顔してたし。」
「う・・・」
一夜さんは運転しながら前を向いたまま言葉を詰まらせた。
「・・・まぁ、あいつの面倒見てやれるのはこっちじゃ俺しかいないしな。
でも、今日は千莉ちゃんが来てくれてホント助かったぁー。
ありがとね。」
「私、別にたいした事してないよ?」
「いやいや、俺が作ったお粥やうどんじゃ、みちるは
後2,3日は寝込んでた。」
「あはは、大袈裟。それは一夜さんが病院に連れて行ってあげたからよ。」
「ホントだって。」
「一夜さんて、そんなに料理苦手なの?」
「うん、俺の唯一の弱点かな。」
一夜さんはそう言うとニカッと笑った。
―――そして、一夜さんのマンションから
20分くらいで私のアパートに着いた。
「一夜さん、うちでお茶でもどう?」
いつも送って貰ってばかりだし、思い切って言ってみた。
「いいの?」
「だって、いつもそのまま帰っちゃうから・・・」
「じゃあ、遠慮なく。」
一夜さんは小さく笑うと駐車場に車を停めた。
部屋の鍵を開けて中に入ると、一夜さんはすぐにドアを閉め、
いきなり私を抱きしめた。
「い、一夜さ・・・ん?」
「夜這い。」
そして私の耳元に甘い声で囁いた。
「へ?」
「この間メールで言ってたでしょ?」
「え・・・いや、あれは・・・」
「本当の“夜這い”って言うのは、こういう事を言うんだよ?」
一夜さんは意地悪な顔つきでにやりと笑うと、
「・・・千莉。」
と、優しく私の名前を呼んだ後、唇を重ねた―――。
これにて続編「初めての・・・」は終了デス。
明日は番外編「バレンタイン・デー」をUPします!(^-^)