続編 -初めての… 6-
せっかくだから、一人でお買い物にでも行こうかな?
そう思っていると、携帯が鳴った。
私は着信表示も見ずに通話ボタンを押した。
「もしもし。」
『俺。』
ん?
あ・・・
「一夜さん?」
『うん。』
「・・・今、どこ?」
自分の部屋かな?
『千莉ちゃん家の前。』
「えっ。」
『実はうっかり一方通行の道に入っちゃってさ、抜けるのにちょっとね・・・
早めに家を出たんだけど、結局遅刻しちゃった。ごめんね。』
「あ、ううん。」
一夜さん、憶えてたんだ・・・?
コートとバッグを持って急いで部屋を出るとアパートの前に
黒いセダンの車が停まっていた。
あの車かな?
会社の帰りに一夜さんと会った時はいつもタクシーで
送ってくれていた。
だから、一夜さんの車を見るのは今日が初めてだ。
運転席には一夜さんの姿があった。
一夜さんは私に気がつくと車から降りて、
助手席側のドアを開けてくれた。
「おはよう。」
そう言って小さく笑った一夜さんはいつもと雰囲気が違っていた。
「おはよ・・・。」
私が一夜さんの顔をじっと見ていると、
「?」
一夜さんはどうしたの?と言った顔をした。
「なんかいつもと雰囲気が違って見えたから・・・」
「今日はスーツじゃないからね。」
「あ、そっか。」
だからなんだ。
一夜さんはニットにジーンズとラフな格好だ。
黒に近い色のブルージーンズに少し濃いグレーのニット。
もっと明るい色を着る人なんだと思っていたから意外だ。
だけど、全然地味に見えないのはどうしてだろう?
一夜さんは私を先に助手席に乗せた後、
運転席に座った。
一夜さん、こーゆーの慣れてそう。
なんか、さらっとやっちゃってるけど。
「千莉ちゃん、もう初詣行った?」
「ううん、行ってない。」
「じゃあ、俺もまだだから今から行く?」
「うん。」
私が返事をすると一夜さんはアクセルを軽く踏み込み、
ハンドルを切った。
運転も意外に安全運転だ。
急にハンドルを切ったり、車間を詰めたりしていない。
もちろんスピードだって周りの車に合わせているから
出しすぎなんて事もないし、急ブレーキなんて事もない。
―――出発して1時間。
一夜さんは今日はまだ煙草も吸っていなかった。
「一夜さんって、煙草あんまり吸わないの?」
「うーん、仕事中は1,2時間に一本かな。
でも今みたいに運転してる時はほとんど吸わないよ。」
「どうして?」
「車の中が煙草臭くなっちゃうでしょ?だから。
渋滞してる時は窓全開にして吸う時はあるけどね。」
わりと派手目の服にアクセサリー。
運転も荒くてヘビィスモーカー。
私の中のそんな一夜さんのイメージが見事に覆された。