第8話 お母様に相談します
そう思った後、さっそく尋ねて行ったのはお母様……リオナ・ウナトゥーラの部屋だ。
相談相手としては、いろんな事を知っているマクギリスお父様の方が良いかもしれないが、仕事でいつも多忙な為に仕方がない。
私はお母様に一部だけ事情を説明した。
トールに迷惑をかけた謝罪をしたい、けれどどういう物を贈れば良いのか分からないという具合に。
「という事なんですの。何か良い案はありませんか、お母様」
いつでもニコニコしながら、どんな我が儘でも私の言う事を聞いてくれたお母様は、今も微笑みながら優しく話を聞いてくれていた。
「アリシャの好きにするといいわ。あの人もきっとそう言うはずよ」
あの人、とはマクギリス・ウナトゥーラ。
私のお父様の事だろう。
お父様もお母様と同じように、私に甘くて色々な事をしてくれるし、話を聞いてくれる存在だ。
二人は私が今まで勝手な事をやってきても見放さずにいてくれる、愛情深い人達。
昔はそれほどでもなかったけれど、今では私のやる事に意見をする事をほとんどしなくなっていた。
それはこちらも同じで、こうして二人に何かを相談するという行為も久しぶりだった。
迷惑をかけたというのなら、まず彼等にもお礼やら謝罪やらはしなければいけないのだが、今は危険度の高い攻略対象に専念するしかないだろう。
一応「今まで苦労をかけてごめんなさい」ぐらいは言ったが、「あらあら」と微笑まれてそれで終わり。本気にされていない様だった。
こちらについての本格的な行動は後にした方が良さそうだ。
「でも、あの。好きにすると言っても……贈りたいと思った品が相手にとって迷惑な物だったら、逆効果なのではないかしら」
「あら、そんな事ないわ。貴方が贈った物を嫌がる人なんてこの屋敷にはいません、そんな事言わせません」
強い断定口調で言われてしまって、私は途方に暮れる。
私の両親はちょっと過保護なのだ。
確かに、この屋敷の主で、彼等の雇い主である私がわざわざ贈った物を拒む人間などいないだろう。
そう両親が教育しているから。
だが、私がしたいのはそういう事ではないのだ。
望まない事をしたいわけではないし、押し付けたいわけではない。
そう思っていたら、逆に怪しまれたようだった。
「どうしたの? アリシャ? 貴方が他の人を気にするなんて珍しいわね」
「ええ、まあ。その……たまにはこういう事も良いかなと」
あまり深く聞かれたら困るので、そういう適当な事しか言えない。
罪悪感が湧いてきたが、今は色々突っ込まれたら困るのだ。
「そう……、まさか」
お母様はそれきり黙り込んで、深い物思いに沈んでいってしまった。
いつまで経っても、こちらに意識を戻さないので、私は声をかけた。
「あの、お母様?」
「あら、ごめんなさいね、ちょっと考え事してたわ。まあ……、他の使用人ならともかくトールなら大丈夫よ。あの子は貴方の事が大好きですもの」
「そ、そうなのかしら……」
私は「トールは表向きは忠実な使用人をしているが、私の事は内心では嫌っているはず」なのだ。だが、使用人に厳しい態度を見せる目の前の母親に、そんなことを正直に言うわけにはいかないので、曖昧に頷いておくしかできなかった。
「貴方の好きなようにしなさいな。あれこれ考えるより、貴方なら行動する方が早いでしょう」
「分かりました。ありがとうございますお母様」
礼を言って部屋から出て行く。
不安は払拭できないし、教えられたことが正解とも言えないが、じっとしていて無下に時間を使うのが一番駄目だ。
何はともあれやってみる他ないようだった。