第7話 良い方法が思い浮かびません
散歩から戻って、私は自分の部屋の中を行ったり来たりしながら考える。
貴族の女性として部屋の中でいつまでも動き回っているというのは、かなり落ち着きがなくみっともないのだろう。
だが、今は誰もいないので好きにさせて欲しいのだ。
今まで苦労をかけて、傷つけてきたトールにできる事をしてあげたい。
……そう思ったものの、どうするべきなのか分からなくてかなり迷った。
子供の頃ならともかく大きくなった今、破った似顔絵を描いてまたプレゼントしなおすという事は微妙だ。実際それはどうなのだろうか。
かさばるだろうし、保存も面倒のはず。
それにあきらかに、良い年をした青年に贈る物ではない。
「うう……。困ったわ」
だが、他にトールが欲しがっている物を知らないのだ。
ピアノを弾くのは好きらしいのだが、楽器を贈ると言うのもありえない。
それは謝罪に選ぶ様な物でもないだろうし。
「そもそも、似顔絵を描くにしても……私の絵って結構アレなのよね」
自分で言うのも悲しくなるが、人から聞いた私の絵の感想は良く言って「前衛的」、悪く言って「意味不明」らしいのだ。
幼なじみであった知り合いの少年に見せて爆笑された時の事を思い出して、私はうなだれるしかない。
さすがにその感想が本当だったら、大人になってまでそんな物を贈れば、むしろ嫌がらせだと思われるだろう。
「本当に。どうしようかしら」
頭を悩ませてみるが一向に良い案が浮かなばなかった。
トールの好き嫌いも、好みも私は全く知らない。
今まで長い時間をずっと傍にいたというのに、私は彼を事をほとんど何も知らないのだ。
アリシャ・ウナトゥーラの人生は人から見てもらう事はあっても、人を見つめる事はしてこなかった。
「だから、周りの人の気持ちが分からなかった。……のかもしれないわね」
前世の記憶も含めて知っている人間の記憶が増えた為か、今の私が視野を狭くする事は無いはずだが、私はそもそもどうしてそんな自己中心的な性格になってしまったのだろうか。
子供の頃はもっと普通だった気がするのだが、ある時を境に自分の事しか考えられなくなったような……。
ともかく、一人で考えても良い方法が浮かばなかったので、誰かに相談してみるべきだろう。
人一人の脳みそで考えられる事もできる事も、たかが知れているのだから。