第4話 原作ゲーム最後までやってないんです
とりあえず三日ほど寝込んだ後に復活した私は、犯人捜しをする事にした。
幸いにも悪役令嬢と言われるだけあって、今までの所業を考えれば、人に殺意を抱かれる要素を挙げていくのに困らなかった。
ざっと思いつく限りで例を挙げれば、器物破損の罪を誰かになすりつけたり、手柄を横取りしたり、気に入らない人間に嫌がらせしたり……とキリがない。
これぞ悪女、といった所業の数々である。
主な攻略対象には、大事な思い出の品を破損させたり、殺人事件の濡れ衣を着せたり、管理する墓を暴いたり。
後、ざまぁしてくれたヒロイン様へは、イジメたり、暴言を吐いたり、不良にお金を握らせて襲わせ怪我をさせたりと……。
「……とんでもないわね」
どこからどう考えても、鬼畜の所業であるとしか思えない。
誰に恨まれていてもおかしくないのだがら、周囲にいる人間の全てを疑っていけるという、実に分かりやすい構造で助かった。
助かるだけで、心理的には願い下げな状況ではあるが、無理矢理にでもポジディブに考える事にするしかない。そうじゃないとやっていけないだろう、この状況は。
「お兄様に相談できたら、少しは知恵も借りられるんだろうけど」
私の兄弟であり、三つ年上であるイシュタルお兄様は、騎士団に勤めていて優秀ゆえ仕事に忙しいのだからそういうわけにもいかなかった。
崖から落ちて怪我をした件については、手紙を書いて送っておいて、無用な心配をかけまいと犯人捜しの事はまだ触れないでおいた。
お兄様はここ最近は碌に屋敷に帰って来れていない。
おそらくかなりの重要案件を抱えているのだろう。こちらが困っているとはいえ、そんなお兄様の気を散らしたくはなかったのだ。
というわけで、突き落とされた怪我や、長時間雨に晒されていてなった熱から回復した私は、寝込み過ぎで鈍った体を動かす為にも屋敷を散歩する事にした。
部屋を出て廊下を歩いてみるが、私に突き刺さる視線、視線、視線。
「さっそく部屋に引きこもりたくなってきたわ」
その私に対する、通りすがりの使用人達の視線は冷ややかなものばかりだ、中には……ほんのごく一部であるが、こちらを見るなり舌打ちをする者までいる始末だった。
崖から転落した時は大騒ぎしてくれたようだが、それらはあくまで主人としてだ。
そこに友好的な意思は全く含まれてなかった。
「困ったわ。ゲーム、最後までちゃんとやっておけば良かった」
そこかしこから敵意を向けられているこの状況で、私は前世の怠惰を恨めしく思う。
実を言うと「ブラッディ・ラブ」は最後までプレイしていないのだ。
分かっているのは、攻略対象三人についてのイベントに関してだけ。
犯人捜しのイベントについてはまったく分からなかった
ストーリーは進めていたものの、めぼしい犯人の当てなどはなく、イベントは「ついに犯人が分かるか……?」というところの前までしかやっていなかった。
だから私を突き落とした人間が誰なのか、私は分かっていないのだ。