短編 アリシャの画力について01
久々に私室を掃除してみたら、私の書いた前衛的芸術作品が山のように出てきた。
それらは、私の独特なセンスを控えめに指摘してくれるトールが、この屋敷にまだ来ていなかった頃に書いたものだ。
私には一時期、絵を描くのが好きな頃があった。
そのため、あちこちを探せば、幼い頃に大量に描いた作品が山のようにあるのだ。
普通なら、過去の駄作として見なかった事にしつつ、そっとしまっておくものなのだが、あいにくと今回はそんな風に隠蔽する事ができない事情があった。
「あれ? これってひょっとしてお嬢の書いた絵? うわぁ、懐かしいな」
掃除の続きを後でやろうと、他の者と分別して部屋の隅に置いておいたのがいけない。
部屋を訪ねて来た彼等にそれらが見つかってしまったのだ。
第一発見者であるアリオが懐かしそうに、作品に目を通している。
「これ、見た事ある。お嬢、まだとってあったんだね」
それを注意するのはウルベス様だ。
「女性の私物に無断で手を付けるとは感心しないな」
「あ、そっか、ごめんねお嬢。つい昔遊びに来たみたいな気持ちになっちゃって……」
わざわざ遊びに来てくれたのは嬉しいけど、ウルベス様の言う通りだ。
手をつけないか、見つけたとしても見なかった事にしてほしかった。
とはいえ、反省している彼にそれ以上怒るのも気が引ける。
「だ、大丈夫よアリオ。でも、恥ずかしいからそれ以上は見ないほしいわ」
私は大人の態度でそう、述べるにとどめた。
私としては、そこにある絵は力作ばかりだと思うのだが、自分の感覚や美的センスが他人とズレている事はすでに知れている事だ。
私は、好き好んで人から笑われたい人物でもない。
すると、お茶を用意してきたトールが部屋にやってくる。
彼は、アリオが広げた紙類を見て、おもいきり顔をしかめてみせた。
「アリオ、またお嬢様に迷惑をかけたんですね。まったく貴方ときたら……」
そして、器用にお茶の用意をしながらくどくどとアリオに説教をし始める。
止まらないトールの言葉を耳にするアリオは、悄然とした様子だ。
「だから、ごめんってば。ちゃんと謝ってるじゃんか」
さすがに気の毒になったので、ここらで助け舟を出す事にした。
「トール、私はもう気にしてないから大丈夫よ。それよりせっかく、ウルベス様やアリオが来てくれたんだから、のんびりお話しましょう」
そういうと、トールはようやく怒りの矛を収めてくれた。
お客様用に用意したお茶菓子と、お茶を味わいながら話す内容は互いの近況について。
色々あった怒涛の事件が過ぎた後でも、こうしてつきあってくれる彼らの人の好さに頭が上がらない。




