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ノイズ ~乙女ゲーム世界で婚約破棄でざまぁされた悪役令嬢に転生したら、崖から突き落とされて殺されかけたので犯人探すことになりました~  作者: 透坂雨音
第五章 実行犯正体

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第34話 決着



「トール、心配かけてごめんなさい」


 アリオに組み敷かれるようにして、地面に押さえつけられながらも暴れていたトールだが、私の声を聞いて身動きを止めた。


 私は彼に近づいていきその頬に触れる。


 土汚れがついていて、夜の冷えもあってか冷たかった。


「お嬢」


 心配そうにアリオが見つめてくるが、私は彼にこのままでいさせてほしいと懇願した。


「ごめんなさいアリオ、でもお願い」

「ん、分かった」


 拘束するままだが、近づく事は許してくれたらしい。

 彼は、トールの行動に注意を向けながらも、私が話しやすいようにと自分の位置を変えてくれた。


 私はトールの瞳を覗き込むようにして、じっと顔を見つめる。

 疲れ切っている、と思った。

 彼のその顔は、長い間眠っていないような、ずっと働き続けて来た人の様なそんな顔だった。


「貴方の心をこの僅かなひとときで変えられるとは思わないわ。だって貴方は私が駄目だった全部の時間を見てきて、きっとたくさんの時間を悩んでくれたんでしょう? そんな貴方の苦労を、こんな短い時間で台無しになんてできるわけはないもの」

「お、お嬢……様」


 苦し気に言葉をこぼし、顔を歪めるトールの瞳からは涙が溢れてきた。


 彼は意外に涙もろい所がある。

 私の傍にいる時は特にそうだった。

 最近はそうでもないが、子供の頃はそうだったのだ。

 特に似顔絵を上げた時などは。


「だから、せめてチャンスを頂戴。そしてその時間で、ずっと私の事を見ていて。私はもう大丈夫だから。お父様もお母様も、私が励ますから。使用人達も友達も、皆も力になってくれるから。だから、もう貴方が頑張らないで良いの。背負おうとしなくても。私の為に頑張ろうとしてくれてありがとう。罪を被ろうとしてくれて、手を汚そうとしてくれてありがとう」

「お嬢様……私は……っ」


 アリオに視線を向けると彼は分かってくれたようだ。

 拘束していたトールの体を解放した。


 私はその場に膝をついたトールの頭を抱えて抱きしめる。


「優しい幻想をくれてありがとう」

「っ!」

「今度は私が貴方を助ける番だから」

「ごめんなさい、お嬢様……」


 彼とはしばらく会えなくなるだろう。

 協力者がいる。

 関わった人間が多すぎた。


 この事件を完全に誤魔化すなんて事は、きっとできない。


 罪を明らかにすればトールはきっと、何らかの贖罪の為に時間を費やなくてはならなくなる。

 けれど、それでも良いのだ。

 まだ。


 だって、決定的な過ちは起きていない。

 誰も死ななかった。

 私達はここに生きているのだから。


 どんなに辛くても、生きていればまた歩き出せる可能性が残っているはずだ。

 私の様に現実から逃げても、トールの様に歩くべき道を間違えていても、死ななかったから、最悪の事態にだけはならなかったから。


 だから、明日の事を考えることができるのだ。


 私達は過ちに気づき、さらなる災いを防ぐ事ができる。

 きっと気付けたなら、やり直す事が出来るだろう。 




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