第3話 乙女ゲーム「ブラッディ・ラブ」について
とりあえず、乙女ゲーム「ブラッディ・ラブ」の内容を頭の中で復習していこう。
このゲームは種類こそ乙女ゲームと区別されているが、内容は一般に呼ばれるそれと比べて、少し変わっていた。
よくある日常や学園生活を送って、攻略対象と絆を深め、最後に結ばれる……という様な話ではない。
そもそも、主人公は善人の少女ではなく悪人の令嬢(いわゆる悪役令嬢というやつだ)であり、ストーリーの開始が、想っていた攻略対象(婚約者)が他人の少女(ヒロイン風)にとられ、その少女に嫌がらせをした後に攻略対象に婚約破棄され、かつ最後に嫌がらせの証拠をつきつけられ「ざまぁ」された……後から始まるのだ。
ーーまさかの悪役目線の物語。
開発スタッフは「悪役だって活躍して良いじゃないか」、「その境遇をよく掘り下げたっていいじゃないか」とそんな感じでゲーム製作を始めたらしいが。活躍するどころか再び酷い目に遭っているという事に気が付かなかったのだろか。
そこまで考えて頭を手で押さえる。
「……そのゲーム会社、大丈夫なのかしら」
そんなとんでもない内容にも関わらず、人気は一応あったらしいから経営的には大丈夫なのだろうが。
話がそれた。
とにかくそこまで聞けば誰もが思うだろう。
それは乙女ゲームではない、と。
犯人捜しだったら、甘くなる要素がまるでないではないか、なんて具合に。
しかし実際はそうではないのだ。
少しは……ある。
「ざまぁ」された悪役令嬢は、ある大雨の日に屋敷の裏手にある崖の前に呼び出され、攻略対象の誰かに突き落とされ、軽い怪我を負う。
そしてストーリーの中身は、その後これまでの悪事を反省した悪役令嬢が、攻略対象と新しい関係を築きつつ犯人を捜していくというもの。
その中では個別に攻略対象のイベントが用意されていて、しっかり会話する機会や触れ合う機会も用意されている。
話の進行しだいでは、破棄された婚約が再び……なんて事もあり得なくはない。
「私がしなくちゃいけないのは、身の安全の確保と贖罪、そして犯人捜しね。はぁ、……そんな世界に転生って嘘でしょう?」
そこまで内容を思い返した私は、思わずため息を付いた。
あえて再び関係者の顔や使用人たち、屋敷の光景を思い出してみるが、それはやはりゲームの画面越しに見たものとそっくり。
ここは正真正銘変わり種乙女ゲーム「ブラッディ・ラブ」の世界と見て間違いないだろう。
トラックに引かれただけでなく、殺伐とした世界で第二の人生を送らねばならないとか……運が悪過ぎである、この私。