第29話 攻略対象者達を物騒な場所に案内する事になりました
「もしかして、アリオはその途中でウルベス様と?」
「うん、そうだよ。俺びっくりしちゃった。獣道歩いてたら怪我した子熊がいたからさ、手当てを手伝ってもらったんだ」
「そう……」
「本当は自然の生き物にお節介焼いたらいけないけど、子供だったし放っておけなくて」
アリオらしい話だった。
ともあれ、それでいくつかの疑問はとけた。
エルフの者達は大抵は森の中でひっそりと暮らている。
そんな血が入ったウルベス様は、ハーフエルフという事もあって、森の動物にも親しみがある。
動物の扱いなどは手慣れたものだったのだろう。
けれど、二人が私の目の前で並んでいるのは初めての事態だった。
話でこそ互いの事は知っていたものの、直接顔を合わせる事は、おそらくこれが初。
陽気で賑やかしいところがあるアリオと、寡黙で真面目なウルベス様が一緒にいられるのか不安があったのだが、見ている限りには特に険悪な雰囲気にはなっていなようだった。
ゲームでは完全に個別ルートのシナリオで、攻略対象者どうしの横の繋がりはあまりなかったから、こうして並んでいるのを見るのは、かなり珍しい場面となる。
思考が横道にそれてしまった。
私は話を戻す様にウルベス様に尋ねた。
「それで、ウルベス様はどうしてこちらにいらっしゃたんでしょうか」
彼はアリオの方を見て、「すまない」と一言謝った。
そう言われても、私にはその意味がどういう事か分からない。
「君にはちゃんと話すべきだろう。誤魔化すべきではない。私は……、墓の件で用があってここに来た」
「え? 私、また何か失礼な事でもしてしまいましたか?」
墓と、言われて思うのは先日謝罪に奔走した例の女性の件についてだ。
だが、ウルベス様はそんな私の言葉を首を振って否定した。
「いや、その事ではない。この周囲にある墓……埋葬跡地に、だな」
「周囲の……、埋葬?」
そう言われても、心当たりとなる様な者は思い浮かばなかった。
ぱっと思いつくのはお父様とお母様の用事とか、だ。
ウナトゥーラ家は、それなりに名前のある家なので、二人には結構な数の知り合いがいる。
私の知らない所で、誰か知人が無くなっていたという話なら、珍しくはなかった。
だが、ウルベス様が気にしているのはその件ではなさそうだった。
それならば、夜中にこうして私と会話せずに、日を改めるはずだからだ。
つまり……ウルベス様の言う事情は、私に関係があるのだろうか。
彼は珍しく無表情の顔を、苦々しいものへと変化させていた。
「元婚約者殿。私を屋敷の裏手に案内してほしいのだが、頼めるだろうか」
「は、はぁ……」
そこは私が突き落とされた場所だ。
まさか彼等が犯人で、共謀して犯行を行っていたのではないかと思う。
他の楽団員や部下達に口裏を合わせていたという可能性を忘れていた。
それならばアリバイの話は意味をなくしてしまう。
「どうしたのお嬢? 顔色が悪いよ。もしかして、何か思い出したの?」
「体調がすぐれないなら、部屋で休んでいても良い。場所さえ教えてもらえれば、用事を済ませて君には後で話をしよう」
けれど、それにしては二人の態度は腑に落ちないものだった。
向けられる視線はこちらを労わるようなものにしか見えず、かけられる言葉はこちらを心配するようなものにしか聞こえなかった。
「いいえ。大丈夫よアリオ。ウルベス様も、ご心配なさらないで。案内いたします」
首を傾げながらも、一応用心しつつ彼等を案内する事にした。




