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第27話 優しい幻想



 書庫に置かれている机に歩み寄って私はそこに身を伏せた。


 叶うのならば、この考えこそが嘘に代わって欲しい。

 流れ星が奇跡を叶えてくれるというのなら、この考えこそを否定して欲しい。


 私はいつしか眠ってしまっていた。

 狙われている身でありながらも、無防備に。


 ここのところ命の危機に瀕する事態は夜には無かったから、油断していたのだろう。


 気が付いた頃には、おそらくほんの数分程度の睡眠をとってしまった後だった。


 背後に人が立つ気配。


「……?」


 明らかにまずい状況だったが、眠気を引きずる私は、頭が上手く働かなかった。 


 相手が害意を持ってそこに立っていたならば、私は死んでいただろう。

 だが、そうではなかった。


 背後に立った何者かは、私の耳を己の両手で塞いだ。

 そして私の頭を軽く押さえて振り返られないようにした。


「誰……?」


 問いかけに応える気配はない。

 しかし別の言葉はもたらされた。


『こんな所で眠っていては風を引いてしまうよ。アリシャ、私のお姫様』

「っ! お兄様っ!」


 私は振り返ろうとして、しかし相手にその動きを止められてしまう。

 なぜ、どうしてと思っている内に背後の人物は話を進めていってしまう。


『――お前が感じるノイズを見破れ。そこに突破口がある』

「え……?」


 意味が分からなかった。


『いるはずのない者に目を向けなさい。そうすればきっとお前の求める答えは得られる。愛しているよアリシャ。さようならだ』

「お兄様、待って……」


 制止の声をあげて、呼び止めようとする。

 ここで行かせてしまえばもうあえなくなるという断定の思いが浮かんできたからだ。


 けれど、それは叶わない。


 頭上から布の塊が降って来たからだ。

 それに気を取られている間に、背後の人物は部屋から出ていってしまった。


「っ!」


 強引に振りほどいたそれには布の端に細いワイヤーのようなものが括りつけてあった。

 あらかじめ仕掛けておいたのだろう。


 私がここに来ると予想して。


 部屋から去って行った気配の事を考えながら、取り残された私はようやく自分が眠っている間に泣いていた事に気が付いた。

 目元に違和感があって、触ると幽かに湿っていた。


「ノイズ……」


 私は、一旦は蓋をしたものについて再び考え始めていた。




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