第24話 かすかな違和感
この屋敷に昔からいる老齢の使用人の顔を思い浮かべて、気持ちが少し沈む。
そんな私の顔色を読んだのだろう。
「出過ぎた事を言いますが……あの方は、人の道から外れる者の事が嫌いですから」
「それは、確かに納得だわ」
トールに反論の使用のない理由を述べられては、大人しく反省するしかない。
関連して思い出すのは、先日の事だった。
「置物と言えば、この間トールの部屋の前にイオニス教の本が置いてあったのを見たけど、誰かに貸したりでもしたの?」
用があって彼の部屋を訪ねた時に、トールの部屋の扉の所に本が立てかけてあるのが見えたので、気になったのだ。
勉強家でもある彼は読書家でもあり、色んな本を読んでいると聞いた事があるのだが、宗教の本を読んでいるなどという話は初めましてだ。
私に問われて彼は、若干気まずそうな表情になって答える。
「え? ……ああ、はいそうです。元は使用人頭のハーリィさんにもらった本なんですけど、例の最近入った新人が屋敷に来てからそういうものに興味が湧いてきたというの事だったので、貸し出したんです。お嬢様が見たのは、ちょうど返却された時のですね」
「そうだったの、彼は真面目なのね」
「いえ、それほどではないと思いますよ。仕事も例のようにミスしますし」
花瓶の話や置物の話を思い出す。
ふと思ったが、私を殺そうとした人間は本当に攻略対象者なのだろうか。
ゲームの内容通りに、と考えて私は行動しているのだが、もしそうでは無かったら、かなり見当はずれの事をしているのではないか。
「彼は……お嬢様の事が嫌いなようで……。いえそんな事を言うものではありませんね、何でもありません。忘れてください」
トールは何かを言いかけるのだが、途中で止めてこちらに謝って来た。
大体聞いた後なので内容は推測できたのだが、その言葉が本当だったら、私は行動を変えなければならない。
とりあえず私は彼が望む様に何も気づかなかった事にした。
「どうしたのトール?」
「い、いえ、何でもないですよ」
トールの顔色は悪い。
それは仕事による疲労のものなのか、それとも別の理由……何か隠し事でもしているからなのか。
考え出したらキリがない。
疑心暗鬼になりそうだ。
私は己の心の中にわだかまっているくらい闇を払うように、意識して明るい声を出し話しかけた。
「お仕事の事で何か困っている事があったら、私に言ってね、相談ぐらいには乗ってあげるわ。貴方には普段から世話になっているんだもの」
「お嬢様……。私は、いいえ、なんでもありません」
何かを言いかけるトール。
しかし、彼は何も告げることなく、その口を閉じてしまった。
彼の口は想像以上に固いらしい。
これ以上何かを聞いても無意味だろう。
無理矢理問いつけても、この一か月の頑張りで上がった好感度が下がるだけだ。
私は大人しく諦める事にした。
とりあえず次は、私が突き落とされた日の攻略対象者達のアリバイを調べてみる事にした。
本来なら最初にやっておかなければならない事だったが、ゲームと同じだと思っていた為、あまり深く調べてこなかったのだ。
だが、もしもそうでなかった事の場合を考えると、念入りに調べておいた方が良いに違いないだろう。




