第21話 少しだけ歩み寄られてる気配がします
一度で済むとは思っていない。
私は彼女が納得するまで、何度も管理墓地へ通った。
人間である私にその能力はないのだが、エルフやハーフエルフが葬儀の時にするという楽器葬送の真似事などもしたりした。
できる事は何でもしたかった。
だが、なれない手つきで、ウルベス様の得意であるフルートを奏でてみたりしたけれども、うまく演奏はできなかった。
「お嬢様、雨が降ってきましたよ」
「ごめんなさいもう少し」
トールの気遣いの言葉を受け取って、私はその日も墓石の元へと似通って演奏を続けていた。
だが、続いて聞こえてきたのは仕事をしていたはずのウルベス様の声だ。
「元婚約者殿、風邪を引いたらどうする。意味は一応女子だろう、体は冷やさない方が良い」
彼は小さなタオルを持ってきて、私に手渡してくれた。
「お仕事はよろしいのですか」
「大丈夫だ、と言いたいとところだが、少し溜まっている。だが君の事が気になったので、ここに来た」
どこまでも言葉を飾らない人だったが、過剰に気遣われるよりも、正直な分だけ有難い。
「毎日お邪魔してしまってすみません」
「いや、謝らなくても良い、君の行動はまっとうで当然のものだ。それに、私はそれほど不快ではない」
そう言った彼は、普段の何の感情も窺わせない表情を少しだけ優しげなものにした。
そしてウルベス様は、私に手を差し出してきた。
「貸してみなさい」
一瞬何を言われたのか分からなかったが、すぐにフルートの事だと気が付いて手渡した。
ウルベス様は、女性用に作られた小さなその楽器を角度を抱えたりしながらよく観察する。
「ふむ……中々に良い楽器だ。良い職人に作られたな。私のフルートには及ばないが、かなりの上物だろう、大事に扱うと良い」
「はぁ、ありがとうございます」
とりあえず脈絡もなく所有物を誉められて、どうしていいのか分からないが、お礼を言っておいた。
もしかして、演奏を指導してくれるのだろうか。
彼は楽器をこちらに返して、自分の所有するフルートで先程私が奏でていた曲と同じ物を、数秒ほどだけ、見本を与える様に演奏してみせた。
私が奏でた物と同じ物だとは思えない曲だった。
同じ曲だと言うのに、強弱の付け方や間の取り方で、かなり印象が違ってきている。
「手つきがおぼつかないな。曲を奏でる時は、もう少しなめらかに動かすべきだろう。旋律が泣いてしまうぞ」
「聞いていらしたんですね」
自分が奏でた下手な音を、と思うと恥ずかしくなる。
そんな私の様子を彼は不思議に見つめるのみだ。
「何を今更ずかしがる必要がある、聞いてほしくて奏でていたのだろう」
それはそうだなのだが、ウルベス様にではなく墓石に眠る彼女に向けてだというところで、大分意味合いが変わってくる。
素人演奏を、知らない間に人に聞かれている事ほど恥ずかしい事はない。
「まあ、いい。息抜きの時間が欲しかったところだ、君の演奏の指導にもう少しだけ付き合うとしよう」
「よろしいのですか」
「良いと思ったから提案してるのだが?」
「ありがとうございます、ウルベス様」
心の底から有難いと思ってそう言えば、頬を染めてウルベス様がわずかに視線をそらした。
「君はいつでもそうやって素直にしていれば良かっただろうに。……いや、今は関係ないだろう。では、指導を始めるぞ」
「はい、お願いします」




