第20話 ウルベスの心境
ウルベス・ジディアラーツは例の貴族令嬢が帰った後に、過去の事を思い返していた。
元婚約者、アリシャ・ウナトゥーラと最初に出会った時の事はすぐに思い出せる。
彼女は他にはいない印象深い少女だった。
最初に会って変わった人間だと、おかしな人間だと思って、実際接してみればその通りだったのだから。
私が正常に彼女と交流した時間はそれほど長くはなかったが、その思い出はどれも興味深いものばかりだった。
時に無邪気に、時に思慮深く、懸命であり、愚かしくもある。
様々な面を見せる彼女に、私はすぐに引き込まれていった。
話はそれるが、ハーフエルフとして生まれた私は幼い頃にほんの少しの差別を経験している。
仕方のない事だったのだろう。
森の奥に人目から隠れる様にして住んでいる、「変わり者」のエルフの血が混ざっているのだから。
人はよく知らないもの、理解が及ばないものを排斥しようとする傾向がある。
はっきりとした害意にならなくとも、エルフ達の行動を考えれば人々がハーフエルフである私を敬遠するには十分な理由だった。
『可哀想に、怪我をしているようですね』
『ふむもう長くはないだろうな、せめて安らかに眠れるように祈るか、苦しみが早く終わる様に手を貸すくらいしかできないだろう』
『それは、ナイフ……? 殺してしまわれるのですか。その子、逃げようとしてますけれども』
「ああ、彼等にとっては私達の慈悲など理解できないだろうしな。しかし、どうあっても助からないなら、早く終わらせてやるべきだ。……ひどいと思うだろうか。エルフ達の間ではよくある事だ。大抵の場合、その現場を人間に見られると引かれる事が多いのだが。私はハーフエルフだし、君がそう思ったとしても無理はない』
『いいえ。貴方がエルフであろうとも、ハーフエルフであろうともこれは関係のない事ですわ。ここにいる私達の問題ですもの。それに……私は、あえてその子の為に憎まれ役を買って出ようとしているウルベス様の事を、ひどい方だなんて思いませんわよ?』
だがアリシャ・ウナトゥーラは違った。
出会ったその時から、彼女は私という一人の人間を見て判断してくれた。
エルフやハーフエルフという大きなくくりの中の一部ではなく、私そのものを見て判断してくれたのだ。
私にとって彼女が特別になるのは、そう時間のかからない事だった。
だが、彼女はいつからか変わってしまった。
悲しいくらいにひどくて愚かしくて、そして心の醜い人になってしまったのだ。
当然私は、よく交流してこなかった関係であった事を理由に挙げて、「所詮はその程度の人間だった」と彼女を見限り、距離を置くようになった。
以来、彼女の顔を見る度に私の心臓は形容しがたい痛みに襲われる。
確か、この痛みの正体が成すべき事を成せなかったゆえに生じた罪悪感だと教えてくれたのは、アリシャの行動を止める為に断罪の行動を起こした、現婚約者である彼女だったか……。




