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第18話 とりあえず謝罪の機会は用意しれくれるそうです



 一体どれだけ以前の私は我が儘だったのか。

 前世の記憶を思い出した事で、改めて客観的に己を顧みられるようになってから、私はそう思わずにはいられない。


「本当に申し訳ありません」


 謝罪の言葉を口にして頭を下げる。

 固まってしまったウルベス様は、しかし数秒経ってから重々しく口を開いた。


「謝る相手が違うのではないか?」

「分かっております。墓の主にもちゃんと謝ります」


 私が暴いてしまった墓。

 そこに眠る女性にもこれから頭を下げに行くつもりだと、そう返せばウルベス様は無言になった。


「……」


 そして、射る様な視線とはまさにこの事。

 穴が開くほどじっと見つめられて、私は少し居心地が悪くなった。


「あの……駄目でしょうか?」

「いいや、謝罪をすること自体に私の許可は必要ない。好きにすると良い。管理墓地に入るには私の判断が必要となるが……」

「ありがとうございます、でも……」


 私が暴いてしまった墓を管理しているのは、他の誰でもない目の前にいる彼……ウルベス様なのだ。

 エルフは墓の扱いにはかなり厳しい。

 墓の管理で不手際があった場合は、彼も罰せられていておかしくないはずなのだ。


 そう思えば、ウルベス様は思った通りの事を言った。


「君を墓の場所を教えて情報を漏らしたのは、間違いなく私の不手際だ。それは私がこれから先、成長していくには必要な出来事だった。私の不手際の分まで君に背負わせるつもりはない」


 厳しく責められなかったはずはないにもかかわらず、彼は自分の責任だと言って引かないようだった。


 私が発端となった事なので心苦しくあったが、こればかりは彼の意地に関わる問題なので、どんなに言ったところで譲りはしないだろう……。


 それに、彼は自分の行う仕事に誇りを持っている。

 心苦しいこと極まりないが、私の中途半端な善意や謝意で、ウルベス様のその気持ちを汚してしまうのは良くない事だ。


「では、あの。管理墓地へ向かう為の許可を下さったという事でよろしいのでしょうか」

「ああ、まあ……見張りに三人ほどつけさせてはもらうが」

「はい、分かってます」


 さすがに、殊勝な態度を少々見せたくらいの私を、全面的に信用する程ウルベス様は甘くはなかったようだ。

 それでこそウルベス・ジディアラーツ。堅物で真面目と評される事の多い彼だ。


 前回すんなり上手く言ったのは、アリオの人が好過ぎたからだ。


 普通なら、こんなにうまくは行かない。

 やはり攻略対象者ぐらいになると、できた人達ばかりなのだろう。

 そういう意味で言えば私は恵まれていた。


 部屋を出て行く時に、声をかけられた。


「ところどころすまなかった。まさか君の口から本当にそんな言葉を聞くとは思わなくてね。少々驚きのあまり思考が停止してしまっていた」


 何を言うかと思えばそんな感想だった。

 彼にしては珍しい雑談だ。

 私はそれに何と言えば良いのか分からない。

 中々、返答するのに難しい事を言ってくれる。


 とりあえず無難に一言。

 

「はぁ」


 それ以外に思いつかなかった。


「いつもより大人しいな。大抵の場合、君が来たならば……、とにかく婚約を元に戻せと煩くこちらに迫って来て、私の今の婚約者殿の聞くに堪えない罵詈雑言を聞く羽目になるのが常だったのだが。何か心境の変化でも?」

「も、申し訳ありません」

「なぜ、謝る? 別になじったわけではないのだが」


 いや、それはさすがに多分ちょっとはなじっているのではなかろうか。

 彼は少し天然の所があって、自分の心の動きを把握しきれていない所がある。


 子供の頃にいじめられた事があったとかで、その影響を受けて、私情を挟む事を良しとせず、何事も合理的に考えようとして生きてきた弊害だろう。


 心境の変化についてはちょっと死ぬほど苦しい熱にうなされて己を省みる機会を得た……とか言って誤魔化しておいた。




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