第16話 新しい約束を交わしました
一時間後。
倒れた女性は大事を取って入院するそうだが、怪我はなかった様なのでほとんど心配はないらしい。
その事にまずほっとする。
同じように安心していたアリオを見て私は確信した。
やはり倒れていた女性を害したのは、彼ではないのだ。
同時に、恨みのあった私を殺そうとしたのも彼ではないのかもしれないと思う。
過去の私に大変な目に遭わされたはずなのに、たった数言謝っただけで私を赦してくれて部屋に入れてくれた彼なのだから。そこはもうほぼ確実なのではないだろうか。
関係者達にできる範囲で私達も聞き込みをしていけば、殺人未遂事件の犯人はアリオではありえないという事がほぼ確定していった。
こちらがそうして聞いていった際に、冷静に現場の状況を思い返した者達の多くも、控室にいるはずのアリオが犯行に及ぶなど不可能だという事が分かってくれたようで、彼に謝罪してくれたようだ。(その時はまだ知らない事だったが、女性に危害を加えた犯人が後日判明して、ケンカをして脅かそうとしていただけの仲間だった事が判明して事なきを得た)
その日の帰り際、アリオが話しかけて来た。
「お嬢、今日はありがとうね、何だか嬉しかったよ、昔みたいに話せて」
「アリオ……。私も」
見送りに来てくれたアリオは小指をこちらに向けて差し出した。
「覚えてる? 昔、俺がお嬢の書いた似顔絵が下手すぎて笑っちゃった時の事、あんまりお嬢が泣くものだから約束しちゃったんだよね。大きくなったらお嬢を笑顔にするような凄い楽団を作るって」
ああ、思い出した。
確か屋敷にやって来たばかりのトールに上げようと似顔絵のプレゼントを作ったのだが、自信が無かったのでアリオに見てもらったのだ。
「覚えてるわ、あの時のアリオ……凄く必死だったわね」
「そりゃね。ね、また約束してもいいかな、お嬢に」
「また?」
どうして、と思うがとりあえず己の指を彼のそれに絡める。
「相変わらずお嬢の指って、ほそくて柔らかくて頼りないなぁ」
アリオは軽く指を揺らした。
「次はもっともっと、今より凄い楽団にするよ。だから楽しみにしてて、俺お嬢を笑顔にしたいんだ」
「そう、ありがとう」
彼はこれでも足りないと思ってくれているようだ。
アリオの覚悟や決意に水を差したくなくて、十分笑顔にしてくれているとは私は言わなかった。
けれど、優しいアリオの遣いに、胸の内が温かくなる。
「きっとできるわ。応援してる」
「うん、ありがとうねお嬢」




