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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

じゃあ、私は世界を救わない

作者: ヘキサフルオロケイさん

じゃあ、私は世界を救わない



私が生まれたのは、王国の東部にある閑散とした農村だった。

五人家族でボロボロの服を着て生活しているほど貧乏でも、分け与えた農地で他の農家から上納があるほど裕福でもない、極普通の農家だ。


私たちの村は地理的に他の町村から離れている為に二ヶ月に一度しか外の世界を知ることは出来なかった。

度々行商人の方々が王国の西ではモンスターの被害が増大している、とは言っているけれど私たちの村は少なくともそんなことはなかった。

勿論モンスターの被害に遭うことは多々あったが、例年通りだった。



ある夏、行商人が久し振りに村を訪れた。

いつもより護衛についている冒険者の数が多いと思えば、王国の西部の村々が幾つかモンスターに攻め滅ぼされたらしい。

モンスターの被害も西部に留まらず、中央、南部に進出して来ているそうだ。

私の父が聞いた話によると、先代の勇者が王国中を奔走してモンスターを討伐しているとのこと。

この時初めて私は勇者という存在を知った。


二ヶ月後、顔馴染みの行商人は来なかった。

その一ヶ月後にようやく行商人が来たが、顔馴染みの行商人はやはり居なかった。

以前、その行商人と一緒にいた行商人はに話を聞くと、彼は二ヶ月前に南部に行商に出ていたところ、モンスターに食い殺されたらしい。

最近、徐々に東部にもモンスターが進出しているという情報を聞いた時は納得した。

村の自警団に所属している兄が以前、モンスターが大量発生していたと言っていたからだ。


その冬、行商人は来なかった。

しかし、前回行商人が来なくなる可能性を踏まえて多めに食糧を仕入れていたから問題はなかった。

寒く厳しい冬が明けた後、役半年振りに行商人がやってきた。

けれど、行商人が仕入れてきた品々は前回よりも高額なものとなっていた。

村長がこんなものは買えないと言っていた。

ただ、陸の孤島とも言われるこの村に行商人が来なければ村は滅亡するかもしれない。

最終的に村長が折れて行商人から品々を買い取った。


また夏が来た。

六人の行商人がやってきて、その護衛の数は三十人ほど居た。

鉄は値下がりしたが、岩塩の値段が急上昇していた。

夜に酔った冒険者に話を聞いたところ、南部の岩塩の採掘場がモンスターの被害で閉鎖されたらしい。


秋になった。

ある日、夜になって兄が帰ってこなかった。

翌日、獣に肉を貪られた兄の遺体が家に運び込まれた。

その日中に兄は埋められた。


冬の直前に行商人がやってきた。

訪れた行商人のうち、半数がこれ以上は村に来れないと言った。

モンスターの活動がいつにも増し、護衛の冒険者が確保できない。とも言っていた。


兄を亡くして四人家族で暮らし始めて初めての春、怪しい集団が村にやってきた。

彼らが言うには、私たちはヒカリ教の教徒で勇者を捜しに来たそうだ。

ヒカリ教といえば、この国のみならず周辺国が信仰している宗教だ。

他の村人が先代の勇者がどうなったのか聞いたところ、このあいだの冬に知能を持ったモンスター──魔族──に殺されたらしい。

魔族の出現から教会は魔王の復活を推測し、魔王が復活したのなら今代の勇者は生まれているかもしれない、ということで全国の町村を巡っていると、彼らは説明した。

勇者の特徴は、体のどこかに天使の羽根の形をした痣があることだった。

村の中で痣がある人と言えば、それは私だ。

でも、私の体にはどこにも天使の羽根の痣は見られなかった。


結局、ヒカリ教徒は帰って行ったが、直ぐにまた来た。

今度は偉そうな男と豪華な装飾がついた剣を持った男達とヒカリ教徒の一人がやってきた。

男達はどうやら私を捜しているようだった。

私が家で夕食の手伝いをしていた時、彼らは私達の家にやってきた。

薄い壁越しに耳を立てて聞くと、ヒカリ教は古代の資料を精査したところ、新たな記述を発見したらしい。

曰く、魔王には蛇に羽根が生えたような痣があるということだった。


私は逃げた。

同年代の中で聡明で、運動神経が良いと言われていたが所詮十二歳の子供。

訓練を受けた教会の聖騎士に捕縛された。

私は痣がある部分の服を着られ、両手を縄で縛られ、首輪を取り付けられた。


つい先日まで可愛がってくれた隣の家に住むおばさんが私を憐憫の視線で射抜いた。

つい先日まで仲良くしていた友達も私を罵倒する。

今まで私を育ててくれた両親からも、仇を見る目で睨んできた。


魔王認定を受けた私は木に縛られたまま、暫くの間晒され続けた。

石を投げ込まれたこともあった。


意識が朦朧として来て、死を覚悟した時、ある転機が訪れた。


村が襲撃されたのだ、盗賊に。

今思えば、あの村に住んでいて盗賊に襲われたのはアレが初めてだったかもしれない。

村人は嬲り殺され、私を含めて女子供は盗賊に連れて行かれた。


盗賊のアジトである洞窟の牢屋に私達は閉じ込められた。

肉つきのいいお姉さんは別の部屋に連れて行かれた。

お姉さん達がその部屋から戻ってくるたびに異臭がした。

体中に白い粘液をこびりつかせ、また連れて行かれて。

最初のうちは、私を罵倒し続けていたが、やがて静かになった。

生きているのだけれど、まるで生気を感じない目つきをしていた。

そう、例えるならば人形だ。


村を滅ぼされて一週間が経ち、洞窟に醜悪な面をした肥満男がやってきた。

恐らく、奴隷商人だ。

その予測は正しかった。


次の日私達は街へ輸送された。

二週間ほどで王国東部有数の街に辿り着き、直ぐに私達は売りに出された。

容姿が優れたものから売れていく。

そんな中、私だけが売れ残った。

私の処分が決定し、私こと暫定魔王が在庫処分されようとした時、私の買い手が見つかった。

私を買ったのはとある魔導師だった。


彼女は狂っていた。

向かいの檻を見ると、何人もの人間が結合した奇妙な生き物がいた。

彼女が言うには、キメラというモンスター出そうだ。

キメラはどんな環境にも適応できると言われ、それを人工的に作り出すのを目的としているようだった。


私にもキメラ化が施された。

背中を切られ、異形のモンスターを移植される。

ここで一つ問題が起きた。

体が拒否反応を起こして移植しても移植してもその部位が欠落し、再生する。

私の再生能力に目をつけた研究者は、私を使ってキメラを作ろうとしたが失敗した。

また処分される、そう思ったが彼女は別のことに目をつけた。

はじめに私の背中を切りつけ、少し切り取って彼女は“細胞”を培養し始めた。


動物に私の一部を適用することに成功した彼女は人に適用することを考えた。

しかし、人はなかなか手に入らない。

研究に多くの人を必要とした彼女はやり過ぎてしまった。

具体的に言うと、私の一部を適用したキメラで周辺の村を襲撃したのだ。

結果、私のご主人様は騎士団に処刑されてしまった。


庇護者を失った

私は暫く国の研究機関に預けられることとなった。

ここでも私に関する研究が行われた。

そして驚異的な生命力も露見した。

国の優秀な諜報機関によって私が何者かなのかを調べ上げられる。

ここで、私が魔王であるという事実が国家に、研究機関にバレてしまった。

国家にバレたとなれば、それに密接である教会にも生存を気づかれたのと同義で、私の身柄は教会に移されることになった。


しかしここに来て問題が起きた。

魔王の痣なんてなかったのだ。

それどころか、背中から両翼の天使の翼の痣が見つかった。

西部南部の国土を失って、まだ勇者の姿が見られずに焦っていた王国は荒れた。

ついでに、その巻き添えで教会でも荒れた。

今代の勇者を魔王扱いした責任を誰に押し付けるのか、というのが争点になっている。

王国の内紛が落ち着いて、私には聖剣が押し付けられた。

今まで散々私を人間として見なかった奴らが何を言いやがる、と思った。


彼らが言うには現在、世界を救えるのは今代の勇者である私だけらしい。


“なら世界を滅ぼせるのは私だけだ”



じゃあ、私は世界を救わない。



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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者が戦わないと、最後はどうなるんでしょうか? 勇者以外に本当に世界を救うことはできないのか? 決して動くことのない勇者にすがり付き続けるのか、それとも動かぬ勇者にしびれを切らし、自ら勇者を…
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