表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

最終話

◇◇


 ここは江戸から遥か離れた島。八丈島。

 大坂の陣から一年もたてば、この島にも天下で何が起こっているのか、正しく伝わるものだ。


――知っておるか? 徳川と豊臣が手を握って、平和な世が訪れたんだって。

――京の学府を『仙台』にそっくりそのまま人も建物も持っていったそうだ!

――へえっ! 伊達様も豊臣様もやることが豪快だねえ!

――しかし、島の生活にはなんも関係あるめえ。

――はははっ! そりゃそうだ!


 人々が大きな声で笑いながら、今日も海へ山へと、その日の暮らしのために仕事に出て行く中、一人の男は高台でじっと海を見つめていた。

 

 宇喜多秀家であった。

 今では『久福』と名乗っている。

 離ればなれとなった妻、豪姫の実家の前田家などからの援けを受けながら、悠々自適な毎日を送っていた。

 

 ふと、そこに彼を慕う小姓がやってきた。

 

「殿! 今日はこんなところにおられたのですか!? いつもとは違う場所なので、探してしまいました!」

「おうよ。これからは『こっち』の海を見たくてな」

「こっちの海? はて?」

「はははっ! おめえには分からねえだろうがよ。『友』が新たな戦いへ旅立っていった方に目を向けたいのだ」

「はあ? その『友』とはいったいどなたのことでしょう?」


 秀家はその問いに答えなかった。

 特に理由はなかったが、早く会話を切って海面を見つめていたかった、というのが本音であろう。

 

 『友』である明石全登に想いを馳せながら――

 

 なお、明石全登は豊国学校が仙台に移設されるとともに、学長として仙台藩に家族とともに移された。

 そして新居にゆっくりと落ち着く間もなく、外交目的で太平洋を渡っていったのである。

 また、彼の娘である明石レジーナもまた、医学を学びに父と同じ船に乗っていったのだった。

 

 今日も穏やかな海。

 遠い向こうの大陸側も同じように穏やかであろうか。

 病気などしていないだろうか。

 異国で困ったりしていないだろうか。

 

 心配をすれば尽きることはない。

 しかし彼は知っている。

 

 明石全登という男を。

 地中から出てきた『もぐら』は、這いつくばってでも前に進む、諦めの悪い男であると。

 

「なんも心配することなんてねえよな」


 そうつぶやくと、彼は右手に視線を移した。

 

 そこには……。

 

 一本の真紅の番傘――

 

 雲一つない晴天にも関わらず、それを大きく広げる。

 傘越しとは言え、太陽は眩しく思わず目を細めてしまった。

 

「てめえがこの傘で守ったものを、俺が確かに見届けてやろう! へへっ。こんなところでも、人の噂ってのは聞こえてくるもんだからよ」


 波の音に混じって、海鳥の鳴き声が響き渡っている。

 彼は紺碧の空を見上げてつぶやいたのだった。

 

 

「今日もいい日だねぇ」



 と――

 

 

 太閤を継ぐ者 大坂の陣後、それぞれのストーリー

 (了)




ありがとうございました。

またいつか、どこかでお会いしましょう。

皆さまとの『縁』がいつまでも続きますように――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本編『太閤を継ぐ者』は下記よりご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n6568dl/

書籍版が2018年1月27日(土)に発売となります!
特設サイト公開中! ぜひご覧ください!
http://www.cg-con.com/novel/publication/05_treasure/11_taiko/index.html
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ