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閑話 とある男の追憶


俺はあの時のことをきっとこの先、何があっても忘れる事はないだろう。

......................................................




「今日からこちらで働くことになった、ユン・ワートです。よろしくお願いします。」

「おお、よく来たな。私は魔法省の長官のハワード・マイティーだ。こちらこそよろしくな。」

案内の人に連れてこられた部屋。

にこにこと人の良さそうな人が出迎えてくれたと思ったら、まさかの長官だった...。


え?そんな偉い人がなんで新人の出迎えなんかに?長官って暇なのか?と若干失礼なことを考えてしまった。

戸惑った気配が伝わったらしく、説明してくれた。


「長官の私がわざわざ出迎えたから驚いたかな?確かにそこそこ忙しい身分なんだがまあ、これから君の配属先に案内するのは私じゃないと少々面倒でな。」

そう言って苦笑した。


「面倒...とは?」

「新人は皆総じて2〜3年ほど一人の上司の元で働くのは知ってるな?実はその...、君の上司になる者が少々特殊でな。君のことを連れていくのも他の者では荷が重いという事で私が君の案内がてら連れて行くことになったんだ...。」

「...。」


一体どんな上司なんだ。

特殊だからといってわざわざ長官が案内&説明って。

「とにかく、移動しようか。」

「はい。」

ここ、魔法省へ就職するため必死で勉強してきて、無事に就職することが出来て嬉しかった気持ちが若干しぼんでゆく。努力が報われたと思っていたが、どうやらまだまだ前途多難なようだ。



俺は1ヶ月前に学校を卒業し、今日から魔法省で働くことになった。

この国にとって魔法省とはとても重要な役職だ。

名前からはそんなに重要そうには感じられないが、この国は他国と違い魔法省に勤めている魔法使い達が軍隊のような役目を果たしている。

理由は他国の人種と比べるとこの国、オルガントの国民たちの身体能力がかなり低いせいだ。


例えば竜人と比較してみよう。

彼らは強靭な身体と身体能力を持つ。そんな彼らと普通に戦うことになっても瞬殺されて終わる。

じゃあどうするのかと言うと、オルガント国の者達はその差を魔法で補っているのだ。

竜人は確かに強いが、魔力量はさほど多くはない。

対してオルガント国の人々は最低でも竜人の約2倍(竜人の中でも魔力量の多いと言われる者と比較してだ)あると言われている。


もちろん魔法省の者達は武術も使える。

魔法に武術。この国の魔法使いはそれらを駆使して戦う。

そして魔法省に入るには魔法についての研究も行うため、頭も良くなくては入れない。

故に国民たちからはエリート職として尊敬されている。

かく言う俺も学校では首席になれる程強く、頭も良かった。でなければここに就職なんて出来ないが...。


しばらく歩き、長官がドアの前で立ち止まった。

「ハワードだ。入るぞ。」

ドアをノックして返事を待たずに開ける。

「...長官。返事がないのにドアを開けないでくださいよ。」

部屋の中から少し恨めしげに声がかかった。

見たところかなり若い。同い年ぐらいだろうか?しかもかなりの美人だ。

「君のことだからノックしても気が付かないかと思ってな。」

長官は悪びれもせずにそう言って、部屋へ入っていく。

俺はどうしていいのか分からず、とりあえずドア付近で待機する。


「私はちゃんとノック音に気が付きますよ?たまーに無視するだけです。」

「今回がそのたまーにになるかもしれないからな。大体一応私は上司なんだが?」

「威厳が足りないですね。」

「...酷い言い草だな。」


俺のことを放置してどんどん会話が進んでいく。

...俺のことを忘れてないだろうな?


しばらく2人で話をしていたが、ようやく声がかかった。

「で、長官。そのドアのところにいる人はどちら様で?」

「ああ、忘れてた。今日から君の部下になるユン・ワート殿だ。これから2〜3年ほど面倒を見てやってくれ。」


...ほんとに忘れられていた。


「はあ!?聞いてないんですけど!」

「ああ、言ってないから初耳だろうな。」

『えっ!?』

俺と彼女の声が重なる。


驚く俺をよそに、彼女は長官に畳み掛けるように言葉を発した。

「こういう事は事前にちゃんと説明しておいてくださいよ!長官がそんなだから影でほわほわ長官とか言われるんですよ!?」

「ちょっとまて、誰だそんなこと言ってるのは。」

「今はそんなことどうでもいいです!何故言わなかったんですか!?」

「そんなことって...。」

あ、長官が少し泣きそうになってる。

かなりお怒りの彼女を見て、俺は徐々に落ちついてきた。


「ごほん。君に言わなかったのは事前に言っておくと逃げられると思ったからだ。」

思い当たる節があるのか、そう言われて彼女はすっと視線をそらした。

もしや逃げたことがあるのだろうか。


「君は前科があるかなー。普段なら他のものに君への説得と説明を頼むところをわざわざ私が出てきたんだ。ここまでされて、また逃げたりはしないだろう?」

「...はあ。ついに新人教育が回ってきてしまった...。わかりましたよ。やればいいんでしょう。」

少し唇を尖らせながらも渋々承諾する。

そんなに新人教育はいやなのか。

「ああ、君もここに務めて長いだろう。そろそろ新人教育をしてもいい頃合だ。新人教育はいい経験になるからな。」

「はーい。わかりました。とりあえず新人君。そこにいないで入っておいでー。」

「は、はい。」

「じゃあ自己紹介するわね。私はサフィラ、サフィラ・ルグレよ。年は16歳で、性別は女。ここへは6年ほど勤めていて、そこそこ詳しいから分からないことがあったら聞いてね。」

「サフィラ・ルグレって...え、あ、あの天才魔法使いの!?」

「まあ世間ではそう言われてるわね。」

「は、はじめまして。ユン・ワートです。よろしくお願いします。」

まさか史上最年少で魔法省に入った天才魔法使いと言われる人の部下になるなんて!


「よし、無事に自己紹介も終わった事だし私はもう行くぞ。サフィラ、新人教育の方法は君に任せる。あと今度からはちゃんとノックされたら返事するんだぞ。」

「わかりましたー。」

またしても驚いている俺をしりめに長官は出ていった。


「さて、君のことはユン君と呼ばせてもらうわね。年もそんなに変わらなさそうだし、君も私のことは好きに呼んで。あと敬語は使わなくていいわ。」

「いえ、そういう訳には...。」

そう言うとサフィラはじっとこちらを見てきた。

変わった人だとはいえこんな美人に見つめられると気恥しくなってくるな...。

「まあいいわ。もし、仕事の邪魔をしそうだったら問答無用で叩き出すからそのつもりで。」

「...わかりました。」

...その発言で気恥ずかしさは掻き消えた。



彼女の下で働き始め、今まで噂で聞いていた天才魔法使いのサフィラ・ルグレへの認識が変わった。

天才と謳われるほどに優秀だというのは訓練中の彼女を見ていて分かる。

だが性格が想像していたものとはまるで違った。

噂ではサフィラ・ルグレは決して驕らず、常に努力をやめない人と聞いていた。

だが実際の彼女はかなりの自信家だった。所詮噂は噂だったということか。



勤め始めてようやく落ちついてきた今日この頃。サフィラとも普通に会話する様になった。

彼女はかなりの自信家ではあったが、共に行動しているとおっちょこちょいだということが判明。

普段は優秀なのに、気を抜くとすぐ何かしらトラブルを起こした。

何も無い所で躓く、書類を窓から飛ばす、街の警邏中犬の尻尾を踏むなどなど。

...そしてユンがフォローするようになると、ますます気を抜き、やらかすという悪循環に陥りかけていた。



そんな毎日を過ごしていた明くる日の朝。いつものように出勤し、サフィラへ挨拶をする。

「おはようございます。」

「おはよう。ユン君。あ、そうだ。今日の午前中は模擬戦やるって連絡が来たから今から演習場に移動するわよ。」

「模擬戦ですか?」

「ええ。今日は訓練じゃなくて模擬戦。模擬戦は約2週間間隔で行われるから覚えておいて。」


魔法省に所属する人々は普段午前、午後に別れて訓練を行う。

それぞれ分かれて訓練するのは街の警邏をするからだ。それも魔法省の大事な仕事。訓練をしていない時間は警邏を交代で行う。

それ以外の非番の人々は研究室等で魔法の研究などをしながら日々を過ごしていた。


「模擬戦の形式はどのようになっているんですか?」

魔法省で模擬戦をするとは初耳だったのでサフィラへ質問する。

「魔法使用可の形式と魔法使用不可の二パターンあるわ。武器は特に決まりはないけど、殺傷能力の高いものは不可。剣なんかを使う場合、刃を潰してあるものじゃないと使えないわ。」

「武器はいいとしても魔法はちょっと不味いのでは?」

「魔法のみを弾く結界を張るから大丈夫よ。魔法で勝敗をつける場合はその結界を壊した時点で勝ちになるわ。結界が壊れた時点で危ないからね。結界自体もそこそこの強度があるし、そう危なくはないわ。あとは相手の戦意喪失、継続不可能へ追い込む、気絶させる、まあとにかく続行不可能にすればいいの。」

「結構アバウトですね...。」

「そうね。はあ...私ほど強いと相手を瞬殺出来るけど、模擬戦は好きじゃないのよね...。」

つまらないから。そうボソリと呟きそういって溜息をつくサフィラ。

ユンはその呟きを聞かなかったことにした。


それから、サフィラと共に演習場へと赴く。

魔法省の人数を把握していないが、結構な人数が集まっていた。

「広い...。」

「広くないと結界を張るとはいえこっちまで魔法の余波がくるからね。今回は魔法可の模擬戦らしいわ。あなたは初めてだろうから今日は見学ね。あそこの観覧席へ移動して。観てるだけでもいい勉強になるからよく観ておいてね。」

「わかりました。」

そう言ってサフィラは集まっている人々の中へ入っていった。


ユンは学生の時、魔法の訓練はしてきたが、こういった魔法可の模擬戦はしたことがなかった。

サフィラは乗り気ではなかったが、ユンは少しわくわくしていた。


模擬戦はトーナメント式になっていた。

順調に試合は続き、しばらくするとサフィラの番になった。

彼女は特に武器らしいものを持ってはおらず、魔法を使うための媒体も持っていなかった。


普通魔法使いは魔法媒体を持つ。だがサフィラは媒体を介して魔法を使うのを嫌い、媒体を持っていないのだ。

彼女曰く、魔法媒体は自身の魔法を使う邪魔をするだけのものだそうだ。

媒体とは魔法を制御しやすくするものなのだが、その制御しやすくするというのが彼女にとっては余計らしい。

別のもので例えると、粘土を使い、何かを作ろうとする。魔法媒体は何かを作るための型。ただ粘土を型に入れれば完成する。そして彼女がしていることは自らの手だけで粘土を形作ると言ったところか。

つまり何が言いたいかと言うと、媒体を使う行為は自身の魔法の自由度を下げるだけだと言うことらしい。

俺にはそこら辺はまだ理解出来ていないが...。


訓練の時もサフィラは媒体を使わない。

それを見てたまに馬鹿にしたような態度をとる者もいた。

だが彼女は自分のスタンスを変えようとはしなかった。


そんな彼女の試合。

ユンは自身の試合ではないにもかかわらず、少し緊張してきていた。


「各自、所定の位置につけ。」

審判が声をかける。

サフィラの相手は訓練の時、馬鹿にしたように彼女を見ていた男だった。

それぞれ移動して位置につく。



「では、はじめ!」

声がかかった瞬間、演習場が凍った。

観覧席はとても頑丈な結界で守られているため凍らなかったが、相手の男は足まで凍り、さらには鋭く尖った氷塊が首元に押し当てられていて身動きがとれなくなっていた。

いつの間にか結界が壊れていたが、結界を壊したであろう初撃は全く見ることが出来なかった。


「あ、やりすぎたわ。」

そう言ってサフィラは即座に氷を全て消す。

相手の男は氷が消えた瞬間膝から崩れ落ちた。

余程ショックだったようだ。


「審判さん、判定は?」

声をかけられ、我に返った審判。

「こ、この試合、サフィラ・ルグレの勝ち!」

審判のその声に観ていた人々は騒ぎ出す。

「やっぱ、天才は伊達じゃないよな。」

「けどさー、今まであんなに早く決着ついたことなかったよな?」

「確かに。今までは今日と比べると少し時間がかかってたな。」

「つまり、今までは手加減してたってことか!?」

「俺あいつと試合したことあるけど、手加減されてたとしてもめっちゃ強かったぞ...。」

「怖っ!」

「化け物じみてんなー。どうすれば勝てるのかさっぱり思いつかない。」

「今回はトーナメント式だから勝ち進むとあいつと戦うことになるな...。」

『......。』

次第にざわめきは小さくなっていったが、皆がサフィラの強さに恐れおののいた。

「そ、それにしても今まで手加減していたとして、どうして今日は本気だしたんだ?」

「さあ?俺は彼女と付き合いないし、知る由もないな。」

「俺もだ。」


(まさか、部下が出来たからなんて言わないよな?)

彼らの会話を聞いてそう思いはじめた。

(でも部下が出来たからといって本気を出すものか?)

自惚れないように意識を今の試合へ向ける。しばらく観ているとサフィラがやってきた。

「ユン君。私の試合どうだったかしら?」

「...確かに言っていた通り瞬殺だったとおもいました。」

「ふふふー、ちょっと頑張ってみたの。」

そういって少し嬉しそうにはにかんだ。

その笑顔を見た瞬間、ユンはドキッとした。

(今までこんな笑顔見せたことなかったのに...何故今見せるんだ!)

今、周りには男ばかり。

というか魔法省に勤めているのは今はほぼ男しかい。

だというのにこの笑顔を大人数の前で見せるなんて...なんて無防備なんだ!

心の中で罵倒しつつ曖昧に頷いておいた。こっそりと周りを見ると今の笑顔にやられたのが数人。

他の男達はぽかんとした表情をしていた。

(そうだった、この人は美人だった...!しかも見ている限り自分が美人だと自覚してないっぽい。)

彼女への認識がまた変わった瞬間だった。



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