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世界は決して優しくなんかない

 穏やかな光が色鮮やかなステンドグラスを通して降り注ぐ。教会の机に腰を下ろし、カラフルな光を浴びながら、ぼんやりと今代の勇者のことを考える。

 今代の勇者はただの一般人だった。武勇伝のある兵士でもなく、姫を守る騎士でもなかった。ただの果樹園を運営する夫婦の息子だった。

 剣を振ったこともなければ、戦闘向けの魔術を唱えたこともない。モンスターとも遭遇することなく育ったのだろう。

 そんな彼も、幾度の死亡を乗り越えて、剣技を扱えるようになった。今も魔王の配下である謎の仮面の男と戦闘している。

 仮面の男の剣技に振り回されているが、しっかりと食らいついている。

 それもこれも、もう5回も死んでやり直しているのだから、すこしは行動パターンなどを学習できているのだろう。謎の男は今までの敵よりもずっと考えも行動も読みやすいはずだ。今のお前では勝てるわけもないが、お前が負ける道理もない。

 キラキラ輝く実体を持てない精霊たちがラズールをこの教会へと連れてくる。

 光に包まれながらゆっくりと姿を現したラズールは気を失っていた。無理もない。さっき仮面の男に殺されたところなのだから。

 ぺちぺちと顔を叩いてやれば、意識を覚醒させ、勢いよく目を開けた。

 肩を上下させ、勢いよく呼吸する。手を胸にあて、何かを確認するような素振りをすると、叫んだ。

「あーーーーーーーー!!!くそ!!あとちょっとだったのに!!」

「なーにがあとちょっとだバカもの」

「いでえ!」

 思わず頭にチョップを叩き込めば、悲鳴が響いた。

「わざわざ仮面の男が必殺技を使う前に宣言してくれていたというのに、つっこむやつがいるか!?」

「いや、あと一発だと思って」

「その結果が?」

「このざまです。すみません」

「もういい。次はきちんと防御しろよ。セレナに結界はらせろ」

「はい……」

 不満げなその顔は自分の力でなんとか敵を退けたいのだと語っている。だが、お前の今の力ではどうにもならない問題だ。退けられるかも怪しい。

「今のお前では退けるのも精一杯だろう。

だが、俺はお前が仮面の男に勝てないとは思わない。力をつければ勝てるさ」

 途端にラズールは笑みを浮かべた。

「おっし。もう少しがんばってくる!」

 ゆらり。ラズールの体は陽炎のように揺らめいて消える。仮面の男との再戦を挑みに行ったのだろう。

 頑張って頑張って戦い続けて魔王を倒したその先でお前は何を思うのだろうか。世界は決して優しくなんかはないのだから。

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