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Access-22  作者: 橘 実里
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第二章 ボクと夕食の相談

 ボクもバランスを取るのが難しいため、それほど重い物を持つのが得意ではないのですが、そこはアキラ様に作られたネロイドですから、見栄を張って色々な食材を買い込んでみました。とは言っても三キログラムほどで持てる重量の限界ですが…。

 買い物籠の液晶では表示がようやく千円を超えましたが、予算が有り余っているので五百円ほど余分に買い足しました。野菜をたくさん買えば倍ほどの値段になるのかも知れませんが、ボクが食べられるわけでもないですし、買い置きになってしまうので辞めておくことにします。

 この店に訪れた理由の一つとして、五階には太郎様が勤めているはずです。いつも家にいるアキラ様とは違い、太郎様がどこに住んでいるのかも知らないため、挨拶をしておこうかと思いました。

 ふらりと倒れそうなのを我慢し、修理受付の看板を目指してゆっくりと歩いていきました。ここまで遅いと人間と比べて劣っていると見られてしまいそうですが、そこは仕方ありません。

「太郎様、こんにちは」

 途中から気が付いていたらしい太郎様は、到着するまでの間、ずっと見守ってくれました。もし転んでしまったらアキラ様に顔向けできないですから、焦らずにいて正解だと思います。

「今日は一人?」

 作業をするわけでもないのにパソコンから手を離さずにいる太郎様は、挨拶よりもアキラ様の行方を探りました。恐らくですが、ネロイドとは割り切った関係を維持したいのでしょう。

「アキラ様に色と味のバランスが良い創作料理を作るよう言われました」

「ここには参考になるようなものはなさそうだけど」

「今日の料理は決めてあるのでいいのですが、太郎様の考えも一応聞いておこうと思いました」

 しばらく考える表情を見せた後、太郎様はボクの後ろへ視線を移したので振り向いてみると、買い物籠も一緒に動き、重さにつられて姿勢を崩してしまいました。気が付かれないよう体裁を整えましたが、籠の中身が音を鳴らしてしまったので誤魔化しきれていないかもしれません。

 視線の先は3Dプリンターコーナーの一角でした。買い置きを足しておくべきでしょうか。

「あいつはよくピザを食べているだろ。少し前まではポテトパイとかキッシュなんかも食べていたけど、あれは円形だから3Dプリンターで作りやすいっていう理由で、別に丸が好きとかそういう理由じゃない。ゴミがあまり出ないとかはあるだろうけど」

 カナデ様と話す時もそうなのかは分かりませんが、話し方が少々不器用に感じました。元々一途な方ですから、もしかするとカナデ様以外の女性と話すのが抵抗あるのかも知れません。

 とはいえ急に距離を置くのも不自然ですから、わざとらしいかも知れませんが目を逸らして話しかけてみました。考えているように見えるポーズを取った方がいいかなとも思いましたが、少しでも買い物籠を離そうとするとふらりと傾いてしまうので顔だけそっぽ向いている形です。

「実際には食べた事ありませんが、本来のピザは塩分と油分がとても濃そうですね」

「確か味覚って五つ要素あったよね。それらをそれっぽく仕立てたらなんでもいいと思うよ」

「甘味酸味塩味苦味うま味のバランスを考えるなら、みかんと昆布をミキサーにかけたらそれでよさそうだと思いますが」

「あいつならそれでも喜んで食べるだろ」

 太郎様は興味がないのか、それとも負担を減らそうとしてくれているのかは分かりませんが、簡単な料理を勧めてくれました。ボクがある程度は絵を描けると知らないので仕方ないです。

 目を逸らすついでに3Dプリンターコーナーの一角を見ると、やはり買い物籠の重さに負け、ふらりと身体が傾いてしまいました。何事もなかったかのように太郎様を見ると無表情でした。

「それにしても重そうだな。一人分にしては多すぎないか?」

「いいえ、大丈夫です。今日は友達の分も作ろうと思いまして」

 どこか不器用ですが、太郎様に気を使われてしまいました。もし次に買い物する事があれば手押し車でも用意しておくべきなのでしょうか、若い人間に見えないので恥ずかしいですが……。

 帰りも同じ道を通りましたが、ゴミ置き場の前にいる彼は相変わらず虚空を見ていました。もう一度話す機会が欲しいのですが、アオイ様に無線で尋ねてみたらピザパウダーを買い足す必要が出来たらしく、これから夕食をボクが用意するのにピザを食べたらしいアキラ様の体調を気にしながら、重い荷物を両手でしっかりと持ち、寄り道をせず真っ直ぐ家へ向かいました。

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