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神のみぞ汁

作者: 変異した塊


年末年始も終わって、午後を少し過ぎた寂れた神社の境内に主人公の彼以外の人がいないせいなのか、少しの大声に近くで囀っていた鳥は逃げた。


「御願いしますから、今年こそ店を繁盛さしてください!何でもしますから!」


彼こと、こん ほたる は仕入れの際に見かけた、神社にて必死に祈っていた。

料理学校と一流ホテルを出た後、独立してスープバーを開いたがいまいち店は繁盛せず、何とか毎月過ごせるぐらいの売り上げて凌いでいた。

更に、その生活のせいなのか、もう既に20代後半に差し掛かっているのに浮いた話の一つも無い。

彼の料理の腕は良いが商才に関しては全くと言って良いほど無いに等しいが、その腕のせいなのか中途半端に生き残っている状態だ。

もしも、彼が少しだけ腕が悪ければ直ぐに店は潰れ、彼自身も雇われ店員となって再起する決心は着いただろうに。


「神様、仏様、キリスト様!何でも良いから神様!」

《嫌っ、待て!其れは管轄違いだ!》

「!」


彼の必死すぎる祈りが通じたのだろうか、何処からとも無くツッコミが聞こえた。

思わず今が回りを見渡すと彼の後ろでへべれけに近い程に、酒に飲まれてしまっている30位の中年男性が酒瓶左手に空いてる片手を上げていた。


「よっ!神様です!」

「・・・。」


見た目はジーパンに革ジャンを着た格好で、切りそろえられた髭に中肉中背を思わせる体格の酔っ払い。

彼からすると必死の願いが聞かれた恥ずかしさと、日中からたちの悪そうな酔っ払いに絡まれたことに軽く混乱したが、直ぐに持ち前の根性で立ち直った。

そして、軽い脳内会議の結果、触らぬ神に祟りなしと考えて無視して近くに止めた白のミニバンに戻ろうとしたが酔っ払いから呼び止められた。


「おいおい、触らぬ神に祟りなしなんて酷くないか?神だけに」


あまりに寒いギャグ。

酔っ払い特有のテンションに頭を抱えて彼は再度、車に向かうと近くにミニパトが停車しサイドポニーの婦人警察官が出てきた。



「この車の持ち主ですか?此処が駐車禁止だってしています?」

「あっ、いやっ、申し訳ありません」

「謝れば済む問題ではありません!」


女性にしては少し大柄になるのであろうか、175センチの彼より少し低い位の婦警は高圧的に返答してくる。

見た目が美人系なだけにより高圧的に感じ、人が人だったら確実に喧嘩を売っているのかと思えてくるが、彼はへたれだったので深々と頭を下げて言った。


「大変申し訳ありません!」

「きっ!」


それが多分彼女の燗に触ったのか、婦警の顔は益々怖い顔になっていった。

その時だった、


「まぁまぁ、ご婦人よ、某の顔に免じてこの場は治めなさい」

「なぁっ・・・、はい」


あの酔っ払いが、婦人警官の肩を叩き、彼女が酔っ払いの方を向いて顔を合わせると先ほどの事が何も無かったように怒りを治めた。

そして、駐車違反で点数を取ろうとしていた機械端末を腰のホルダーの収めて何事も無かったかのように去った。

もしかして、この人は警察に顔が利くほどのお偉いさんなんだろうか?そう彼が疑問に思っていると彼の酔っ払いが、彼の車の横を見て尋ねた。


「エリクシア?変若水とかの感じなんだろうが、薬の香りはしないし、何屋なんだ?」

「その下に書いてある通りのスープ専門店ですよ」


彼の車の横には彼の店の名前が書かれていたが、店の名前はカタカナ表記だが、内容はお洒落と思ったのか英語表記だった。


「まぁ、良く解らないが、ようは食物屋で良いんだよな?」

「ええっ、そうですよ?」

「よし!決定だ!若いの、お前の店でメシを食うから連れて行け!」

「はぁ?嫌っ自分の車はタクシーで「連れてけ!」」

「・・・はい」


さっきの恩も在るせいか、後ろめたさのせいで彼は押し切られてしまった。

そして、彼は酔っ払いを乗せて車を走らせることにした。


「あの、ご自宅は近いんですか?」

「あん?家?沢山、はっはっはっ!」


たちが悪いし、運転手の横で一升瓶をラッパしないで欲しい。

しかも、質問に対しての返答が滅茶苦茶だ。

さっきの警官に引き取って貰ったら良かったんだろうか?

なんとも言えないドライブを20分ほどしたら彼の自宅兼仕事場についた。

最寄駅から徒歩15分の立地で、住宅街の真ん中にあり、近くには高校もあるが流行らない彼の城だ。

横に5人ぐらいしか座れない小さなカウンターと受け渡し用の小さな窓があるぐらいの店だか、木目調を生かした店の雰囲気はとても良い。


「とりあえず、何か出しますから飲んだら家の番号を教えてくださいよ」

「うぃ~す」

「・・・リクエストとかありますか?汁物で」

「じゃぁ、神だけに神の味噌汁、って俺のギャグ最高に面白い!」


酔っ払いには付いていけない・・・。

取り合えず彼は、昨日の晩から準備していたアゴダシの一部を小さな鍋に移し変え、具材に選んだ豆腐を慎重に沸騰させないように煮込んだ。

すると、リクエストした酔っ払いは店内の居心地の良い雰囲気に眠くなったのか、カウンターに突っ伏して眠る体勢に入っていた。

寝られると流石に困るので、彼はなるべく話しかけて起こすようにした。


「なんで、あんな所で酒瓶片手にいたんですか?」

「うん?ああっ、飲み会があってかなりの量を飲んだから、知り合いに良い覚ましの粥か汁でも作って貰おうと思ったんだがいなかったんでなぁ」

「酔いを醒ましたいんだったら、そんな定期的に飲むんじゃなくて水でも、白湯でも飲んでくださいよ!」

「うん?これも水、般若湯ね!」

「結局、酒じゃないですか!」

「まぁ、それは言わぬが仏、はっはっはっ!」


駄目だ、この酔っ払い。

取り合えず彼はだしも良い感じに暖まったので、残りの具であるワカメと小ねぎを入れて白味噌を溶かした。

後は器に入れるだけで完成だが、リクエストした酔っ払いは少し彼が集中した為か無口になったので、寝息を立てていた。


「起きて下さいよ!出来ましたよ!」

「う~ん、ヤガミよ、私はどちらも愛しているんだからゆるしてくれ・・・。」

「そんな、どうでも良いですから、起きてください!」

「お前!スセリの怖さ解ってないだろ!」


酔っ払いが飛び起きたが、それよりも彼はせっかく作った料理が冷めてしまう事に注意した為、外で起こったとある出来事を見逃した。


「取り合えず、出来ましたんで食べて下さいよ、冷めても美味しいですが出来立てが美味しいので」

「うっ、うぅん」

「あと、ご自宅の番号を教えて貰ってもいいですか?」

「えっ、番号?今は×××の0003」


その時、彼は番号を書き取る事だけに集中していた為に、気づいてはいなかった酔っ払いが言った番号が、電話番号ではないことに。

そして、聞いた番号に電話を掛けようと固定電話の前に行こうとしたらタイミング悪く、酔っ払いの感想が聞こえた。


「この味噌汁、美味いなぁ・・・。」

「ですよね!和から洋、果てはマイナーなアフリカのスープで勝負しようと開いたのに、何故か流行らないんですよね?」

「ああっ、それか?少しこの店に厄が溜まっているからじゃないか?」


また、酔っ払いの良く解らない戯言が始まったと思い、彼は少し頭を抱えてまた電話の前に行こうとしたときだった。

背を向けた時だった、酔っ払いの声が店内に響いた。

大声ではないが、不思議と染み渡る声が店内に響く。


《我はここに命ずる!地霊は此処を速やかに浄化し、祝福を!おっ、七福の熊手が有るじゃないか!では、更に夷三郎の神よ、この地に祝福を頼みたい》

《おおっ、大国主!スセリヒメが何時ものごとく怒り出したぞ!早く帰ってやれ!》

《なっ、飲み会の後は何時も遅れるとスセリは解っているではないか!》

《そう言って《貴方!其処にいたのね!早く帰ってきなさい!》》

《・・・。》


なんなんだ!この状況はと彼は混乱した、頭に響く神々しいと感じられ畏怖さえ感じる声、しかし内容は何処にでもあるような家庭の事情が垣間見える会話。

だが、なんとも言えない畏怖のせいでそれに対して何を言うことも出来ない。


《今帰るから、怒りを納めてくれんか?スセリよ?》

《早く帰ってきてね!》

「そういうわけだから、帰るわ」

「えっ、あっ、はい、またのご来店を」


彼が呆気に取られて、あいまいな返答を返したところ、酔っ払いは目の前で消えてしまった。

そして、店内には飲み干した味噌汁の器とアゴダシの良い香りが残された・・・。




それが、彼の祝福と混乱と不思議なものを混ぜた物語【スープ】の始まりだった。

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