奈津美
最後です。
読んでくださりありがとうございます。
奈津美とのお喋りもいつもの事だが、今は私のいくつかの楽しみの一つである。
今流行りのファッションやグッズについて話していた。
まだ多少打ち解けていない部分もあるが2年の時と比べれば段違いだ。
心の中ではあともう一歩、そう思っているが行動に移すとなるとまた変わってくる。そんな小さいことだが気にしている。気にせずにはいられない。また離ればなれになるのではないかという不安が頭をよぎる。
そんなことは絶対にない。そう信じていたい。
先生が教室に入ってきて、HRが始まり、最近は不審者がいるから気を付けなさい、とか最近は風邪でやすむひとが多いから気を付けましょうなどといったあまり関係ことばかり。
少し興味が湧いたのは転校生が来ると言う話だったが、ちがうクラスでしかも違う階だったので、そこで興味を失ってしまった。
そこからは退屈な授業の始まりだ。
私はあまり手を積極的に挙げるタイプではないのでひっそりと授業を受ける。
逆に奈津美の方はじゃんじゃん挙げるので私と真反対だ。
「じゃあここ、鹿目さん読んでください」
「いま、私達は生きている。いきるってなんだろうー」
女子特有の高い声が教室に響く。
黒板に板書されていく。教室は静かだ。もう受験生だし意識しているんだろうか。
私もうかうかしていられない。
「この部分はーでこういう風に感じられます」
先生の説明が続く。
私は窓から景色を見る。窓側席の特権だ。海が見える。太陽から降り注ぐ陽が反射する。確か空の青も反射してるんだっけ。ここ、森海中学校は海に近く周りにたくさんの自然があるからこの名前にしたそうだ。
そんなことどうでもいいけど。
そんな授業も終わりやっと昼食の時間になった。屋上にいっていつも奈津美と一緒に食べている。たまに戸部くんも来るけど。
今日のお弁当は私が早起きをして作ったのだ。いつもはお母さんにつくってもらうが今日だけは自分で作った。
今日はいつもとちがうから。
「奈津美、今日も自分で作ったんだ!そんなに毎日作っててつかれない?」
「全然、私料理するの好きだし家でも結構作るからもうなれちゃった。お母さんいない時とか自分で作るんだー」
全くこれが今の高校生か。私なんか全く料理ができないのでお母さんに手伝ってもらったのに。いいな。そう思いながらもめんどくささが勝ってしまう。
「お前らも来てたのか、よ!」
そういっておにぎりを投げる。
「これ作ってきたからあげるよ」
急な登場だがいつものことなので普通だ。他の女子がこれを知ったら皆欲しがるだろう。しかし味を知ってしまったら、欲しくはなくなるだろうか。毎回作ってきて味見をしてほしいというのだが…
なんといっても塩味が濃いのだ。いつも言えないでいるが。前もいったが戸部くんはイケメンだ。多分学年一。
でも私は戸部くんに恋愛感情は抱いてないし、奈津美も抱いていない。異性というより友達感覚がつよいのだ。
そんな戸部くんのきもちは知らないが。
昼食の時間もおわりまた授業が始まった。6限目は私の得意な体育だ。この授業だけ頑張っている。逆にいうと他の授業は手を抜いている。
今はハードルなので、私の得意な種目だ。
空の下先生の声、生徒たちの掛け声が響く。
タイム測定では速い部類に入ると思われるタイムだった。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、HRの時間になった。係や委員会の知らせがあったりとききながしている。
「一緒に帰ろ!」
「いいよ、多分戸部君もついてくるけど」
案の定戸部くんもついてきて3人で校門を過ぎ見慣れた町が見えてくる。
この学校の近くにはパン屋があり『魔法のベーカリー』という名前だ。少し安直な感じもするがそこのパンはとても美味しい。学校の近くにあるので購買としてよく買っている。そこのパン屋は老婦人が経営しておりたまにサービスとしておまけをくれるときがある。優しいおじさん、おばさんという印象だ。
幸い私達3人は家が近いので最後まで同じだ。
「奈津美、今日はどうだった?」
「うーん、ダメだったよ」
奈津美は陸上部に所属していて短距離をやっている。ダメだったとは100Mで12秒前半が出なかったというのだ。中三だと十分すぎるくらい速いと思うのだが、奈津美はこの結果に満足していない。インターハイには出場したそうだが入賞止まりで優勝はしたことがない。私は11秒なんて夢でいつも14秒後半だ。
やはり陸上部に入ってると違うのか、差がついてしまう。
それは当然のことなのだろうが私も速く走りたいなと思う。
「戸部君はいいよね。サッカー部で速くてモテモテだし。私なんか恋愛の一つもしたことないからなぁ」
「そうかぁ。俺、モテてないと思うけどなぁ。でも一応好きな人はいるけど」
何と!戸部君に好きな人がいたとは初耳だ。いつもそんな雰囲気出してないし、てっきり恋愛にはあまり興味ないと思ってたのに。いたのかー。
「え、だれだれ。言ってみ、ほら。誰にも言わないから」
ちょっと赤くなり言わねーよバカ!と言いつつも照れている。
一瞬私の方を見たのかと思ったが、また違う方を向いた。
私?いやいや。それはないだろうと思う。
角を曲がり公園が見えてくる。
懐かしい。奈津美とあの花を拾った場所だ。あの花の名前は何だっけ?
もう2年も前になるのか。初めて奈津美と遊んだ場所であり忘れられない思い出の場所。
もう直ぐか。
戸部君も気づいたのか少し離れて行く。そんなことは知らない奈津美はというと楽しそうに歩いている。
心臓の鼓動が聞こえてくる。脈がどっくん、どっくん波うっていて汗が出てくる。
「あの、公園。懐かしいね〜。初めて遊んだ場所だったよね。なんかー」
「あの!奈津美!」
びっくりしたようにこちらを見る。目がまん丸だ。不思議がっているように見える。
「何、急に大声なんか出しちゃって。どうしたの?」
心配そうにこちらを見てくる。なんか心の中を見られているみたいで気持ち悪い。本当は絶対にそんなことじゃないと思うが今の自分にはそう見えてしまう。息を吐き、その後たっぷり吸い込む。
すると心が落ち着く。波うっていた脈もおさまっていく。緊張が膨らんでいく。
「奈津美とまたあの公園であの花を拾いたい!またあの頃みたいになりたい。あの楽しい時間を過ごしていきたいよ」
言い切った。緊張がおさまっていく。ずっと言いたかったこの気持ち。やっと言えた。やっと行動に移せた。
よかったと思うと同時に返事がきになる。
うーんと考えるそぶりを見せると
「ごめん。それは無理だよ私と二人だけっていうのは」
え、頭の中が真っ白になる。え。何で。どうして
「どうしてなの」
やっとの事で声が出る。てっきりいい返事がもらえると思ってたのに。
「だって今はさ『私たち』だけじゃなくて戸部君もいるんだよ。置いてけぼりにしたらかわいそうだよ。
私たち3人で行こう!あの場所に」
そっか。考えてみればそうだった。あの頃と今は違うんだ。戸部君がいる。それを考えていなかった。
今では戸部君も大切な『友達』だった。
よかった。よかった。思わず涙が出てくる。またあの場所で奈津美と花が拾える。願っていたことが叶った。
「じゃあ今日、帰ったら準備して直ぐここ集合ね」
そういうと自分たちの家へと帰っていった。
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空の街もう直ぐ更新です!