寄生人、宿主募集中 _ 第一話
当方、初めての小説執筆(?)となります。
一応、連載小説として投稿致しますが、不定期なものなので暇潰しに見て下さると嬉しいです。
作中の誤字はコメント等で報告して頂けると有難いです。
まず、寄生虫と言う生物は御存知だろうか。
知らない者の為、大雑把に説明すれば、其の名の通り…他の生物に寄生する虫の事である。
寄生虫に寄生された生物は宿主と呼ばれ、寄生虫の栄養源となる。
寄生虫なるものは、宿主に住み着き…楽に成長していく。
其の様に、誰かに頼り、自分は何もせず、楽をして過ごす。
そんな生活に憧れる男は、周りから " 寄生人 " だのと揶揄された。
「ああ、楽がしたい…」
大きな木の下の影の中。太陽の光を避ける様に一人の男が幹に凭れ掛かっている。
呪詛の様に、ひたすらに楽がしたいと呟く彼こそが、寄生人と呼ばれる男である。
名は [ エリー・ハイズ ]。肩までかかる長めの黒髪、寝不足でも無いのに見た者に不健康そうだと印象付けそうな隈を付けた三白眼、四肢は細く、口を開かずして力仕事が苦手だと主張している様にも見える。
そんな見た目にも関わらず、実際は元気は有り余っている。だが、余剰な運動は好まない彼はただぼーっと何もない空間を見続け、口を動かし続けていた。
其の思いが届いたのか、其れとも踏み躙られたか…彼は後に、思い知るだろう。
木に凭れ、怠惰に過ごす事すら、幸せに思える出来事が彼を…ひいては、彼の居る村を襲う事になった。
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「おい、エリー!起きてくれ!頼むから…っ!」
村の住人の一人が、相変わらず寝てばかりの彼の肩を激しく揺すり、起こした。
不意に揺らされ目覚めた彼は、不機嫌だと伝えるには十分な顰め面を向け、
「…何。寝不足で辛いんだけど…」
態とらしく欠伸をし、体を伸ばして返事をした。
流れのまま目を開けると、顔全体に汗を垂らし、絶望を語る表情を浮かべた村男が彼の肩をぐっと力強く掴みながら、上擦った声で起こした訳を話した。
「…此の村はもう、駄目だ。西の森に住んでいるゴブリン共に目を付けられた…」
ああ、成る程…と、エリーは頷く。此の男の慌て様も納得だ。
エリーの村は山村であり、周りには大きな森が囲む様に生い茂っている。
森の中には先程述べたゴブリンの他に、ウェアウルフやオーク、果ては魔法しか効かないスライムなどが生息している。
ウェアウルフやオークは知性が低く、村に食料を求めやって来ても、村に居る傭兵に容易く撃退された。
だが、ゴブリンは集団行動に長け、如何に経験を積んだ傭兵であろうと打ち破るのは困難とされている。更には人語を扱う程の知能を持ち、思考は人間とあまり変わらない。
故にゴブリンにも村などの住処があり、エリーの村が自分の村へ攻め込んで来ないだろうかと数匹のゴブリンが、御互い危害を加えない様にと安全を保障した上で村へ偵察へとやって来る。
其の際に、弓で遊んでいた傭兵の矢がうっかり偵察ゴブリンの喉元を抉ってしまったのだと、エリーに説明を終えた村男は、
「怒ったゴブリンは直ぐにでも総攻撃を仕掛けて来る…だから、早く荷物を纏めて麓の大きな街に逃げ込むんだ!」
半ば怒号の様な声で告げ、足早に自分の家へと去っていった。
其の傭兵を差し出せば許して貰えないのか、と一瞬考えたが首を振り、自答する。
相手は魔物だ。如何に正当な申し出であろうと、仲間を傷付けられた怒りの前には復讐心しか無いだろう。
しかし大きな街ともなれば、山に棲むゴブリンは手出しが出来なくなる。街には此の村の傭兵よりも数段強い冒険者が居るからだ。
傭兵と冒険者の違いは大きく分けられる。
まず、冒険者には《ギルド》と呼ばれる組合に登録される。登録後、此の世界を作った等とうたわれる神を崇める教会にて《潜在能力覚醒》の儀式を受け、《スキル》と呼ばれる能力を習得出来る。更には衣食住も無償で提供されるのだ。
だが誰しも冒険者になれる訳でも無く、ギルドへと登録する際のテストにて《ステータス》が規定値に達しないとなれない。ステータスとは、スキルへと昇華する潜在能力を含めた、腕力や魔力…それぞれ分けられ名称される力の総称であり、能力値と潜在能力レベルによってランクが定められる。
ランクは《カテゴリ》と称され、カテゴリ1~10までが存在。その中で能力に見合ったカテゴリレベルに配される。
1が最高冒険者であり、10は駆け出し冒険者とされ、カテゴリレベルによりギルドからの待遇も違ってくる。衣食住から、受けられるクエストの数。更にはアイテム支給など、様々な面で違いが明らかになる模様。
傭兵には、上記の待遇が一切無く、報酬が自分で決められる点を除けば冒険者の下位互換なのだ。
冒険者にもピンキリはあるものの、村規模の軍勢を率いたゴブリンを討伐するとなると最低でもカテゴリ6の冒険者で構成されたパーティに依頼しなければならない。
エリーの村中の財を掻き集めれば冒険者に依頼出来る…が、今まで其れをしてこなかったのは理由がある。村を数日以上空ける事により、人の居なくなった村を拠点とする他の魔物が出てくる可能性も否めなかったからだ。
その魔物を討伐する為に依頼する財は無い。故に、せめてゴブリンだけでも倒して貰おうと、話し合いの末に村を出る事を決意した。
「…命は惜しいなぁ」
呑気な様子のケニーはよっこらせ、と気怠げに立ち上がり、重そうな荷物を抱えたり荷車を押したりと大慌てな村人の間を悠長に手ぶらで歩いて行った。
街に行き、暫く其処に滞在する。其れはいいが、宿に泊まる金は無い。きっと野宿だなと溜息を吐きながらも、外での睡眠に慣れている彼は然程気にはしないだろう。
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『ル・エヌカ』と、街の名前が書かれ看板として掲げられている木板を通り過ぎ、村の住人達はほっと安堵の息を漏らした。
まだ助かった訳じゃ無いだろう。そう思案しながらも、面倒事は嫌いなエリーは口を閉じ、村人の列に大人しく並んでいる。列が停滞しているのは、街へ入る際に申請する為の書類を代表者…村長が書いているからだ。
暫くし、街の近くではあるが未だ外に居る村人達へと村長が声を張り上げて伝えた。
「ワシらは暫く此の街に世話になる。幸い、大きな宿は空いていて、尚且つ無償で宿泊して良いとの事だ」
其の言葉に、村人らは歓喜の声を次々にあげる。助かった、ああ神様…と、口々に自らの不運が救われるのだと喜んだ。
だが、次の村長の言葉で村人は喜びの表情を浮かべた儘、絶望した。
「______だが、村人全員に《ギルド》にて、テストを受けて貰う…との事だ」
此の時点ではまだ、村人らは何だ其れ位なら…と思って居た。
「しかも、テストに合格せぬ者が居ないなら…クエストの依頼すら、させて貰えない…と」
この言葉に、皆は一様に思った。
冒険者になれる程、優れたスキルの持ち主等…ただの村人にある訳がない、と。
エリーは、
「兎に角、其処らへんの藁草の上で良いから…休みたい」
と、誰に向けてでも無くぽつりと呟いた。
取り敢えずは此処までとなります。
次回更新は、前書きの通り不定期なのであしからず。
楽しみにして頂けるととても嬉しく思います。




