過崎初希の日常2
第8話です。今回はちょっと長いです。
よろしくお願いします。
「お兄ちゃん、早く起きないと遅刻するよー」
「うん……わかってるよ……」
僕こと過崎初希はベッドの心地よさに縛り付けられ、全く動けなくなっていた。
(ここから外に出れば僕は負ける……ゲームオーバーってやつだ……。どうすればここから出ないで学校に遅刻しないかを考えるんだ。そうだ。簡単なことじゃないか。夢の中で学校に行けばいい。うん、そうだ)
などと、思考が全く働かない脳内でわけのわからない持論をいろいろと展開していった。が、そこで
「ふーん。起きないんだ。じゃああれ、やっちゃおうかなー……」
「すいませんでした! 起きます!」
3日ほど前、僕が全くベッドから出ようとしないときに、妹は僕の大事なファーストキスを奪おうとしてきた。
あれ……とは恐らくそのことだろう。せっかく3日前にゲームオーバーも顧みずにその恐怖から逃れたというのに、その努力を無駄にすることは僕にはできなかった。
確かに妹はかわいいほうだ。学校でも1か月に2,3回はラブレターをもらってくるほどだ。
だが正直血のつながった妹とのキスはやばい。たとえその相手がいくらかわいかろうとここでそういうことをしてしまうときっと将来後悔することになると思うからだ。
「はい、起きたんだったら顔洗って、歯磨いて、朝ごはん食べて学校行く!」
「はい!」
僕は軍人のような威勢のいい返事をしてから顔を洗い、歯を磨き、朝ごはんを2分で食べ、登校した。
-30分後-
やばい! という言葉を心の中で連呼しながら僕は自転車を走らせていた。
僕の行っている学校は桜村市の中心にある国立桜村中学だ。中高一貫であり、学力も低くはないが、2年前の戦争以降に設立された学校なので歴史は浅いし、生徒もそこまで多くない。
桜村市にはこの中学のほかに郊外の近くにある国立桜村第2中学があり、あずさはその学校に通っている。
なぜ僕がそっちに行かなかったかというと第2中学が女子高だったからである。
(くそ、遅刻まであと2分……。学校までの距離は約300m。……いける!)
僕は全力で自転車を走らせた。
-2分42秒後-
「過崎、2秒遅刻だ」
「な、なん……だと……」
担任の声と僕の悲しみの声がクラスのみんなが静かに座る3-2の教室に響く。
そして、僕の悲しみの声が発せられて一瞬後、教室がクラスのみんなの笑い声に包まれた。
「おいおい、過崎ーまた遅刻かよー。1学期はじまってから2回しか間に合ってねーじゃんw」
「ドンマイドンマイ、あと2秒ー」
など、さまざまな声が教室の中をかけめぐる。
(くそー、あと2秒かよー……)
この学校はチャイムが鳴り終わるまでに着席さえすれば遅刻は免れることができる。
この学校のチャイムは40秒間鳴り続けるので、それまでに着席すればいいということだ。
だが僕はそれに間に合わなかった。
無念だ。
5分後、朝の会が終わり、休み時間になった。すると、ある人物が声をかけてきた。
「ハツキ。やっぱりあたしが起こしに行こうか?」
声をかけてきたのは隣の席の霧科祈だった。
2歳ぐらいの時からの友達であり、僕の初めての友達である。
ピンク色の髪にツインテールという、あるアニメのヒロインに似た雰囲気を持っている。
ちなみに僕の住んでいるマンションと同じマンションの一つ上の階に住んでいる。
「いや、いいよ。僕のこと起こすの時間かかるし」
「え、でもあずさちゃんが最近お兄ちゃんを起こす秘技があるんです、って言ってたよ」
(……あいつまた余計なことを……)
「秘技ってなに?」
いのりが興味津々に聞いてきた。起こしに来たいんだろうか。
「え、あ、いや、とにかく、大丈夫だから! ほら、授業はじまるぞ!」
「まだ授業始まるまで9分ぐらいあるよ?」
「……」
(言えない……キスされかけることだなんて、言えない……)
僕は初めて休み時間というものを恨んだ。
「と、とにかく、ちょっと僕あいさつしに行ってくるー」
「あ、ちょっと……」
僕はそさくさと教室を出て行った。
(さて……授業終わるまでどうするか)
僕はとりあえず4組の教室に行った。
「あ、ハツキ。今日は遅刻しなかった?」
「いや、今日も安定の遅刻だよ」
声をかけてきたのは4組の銅鈴だった。
すずは僕が3歳の時にいのりを介して出会った人物である。
「また? もっと早く来ないとだめだよ?」
「わかってるって」
僕はそっけなく返事をした。
「そういえば、昨日はお疲れ様だったね。一回捕まっちゃったんでしょ?」
「ああ、うん。まあね。あれも作戦の一部だけどさ」
「そうだったんだ。捕まったからびっくりしたよ」
「ああ、ごめん。すずには言ってなかったね」
作戦とはもちろん昨日のグレゴリオファミリー拘束戦のことだ。
なぜすずがそのことを知っているかというと、彼女もマジックギミックスの一員であるからだ。
コードネームはギミックである。
ちなみにいのりもマジックギミックスの一員であり、コードネームはマジックである。
「ううん、いいよ。心配もしてなかったし」
「う、ひどいな……」
「あ、いや、そうじゃなくて、ハツキなら大丈夫だろうっていう意味だよ」
「すずに言われるとそっちの意味で捉えられなくなるよ……」
なぜキツイ意味で捉えてしまうかというと、すずはドSであり、普段からなかなかキツイ言動をするからである。
「ほんと、髪の色と同じで冷たい奴だよ……」
「だから違うってばー!」
というのも、すずの髪の色が銀色であるからだ。すずは長い髪をうなじの少し上のあたりで束ねていて、その銀髪のさらさらした感じが特に後ろから見るとよく目立つのである。
今日はすずが珍しくSモードではなかったので、からかったが、いつもならキツイ言動でねじ伏せられていただろう。
僕はすずが頬を膨らませて怒っているのに対して、はは、と小さい声で笑い、時計を確認した。
「もうそろそろ授業始まるから、また後で」
「うん、またね」
僕は2組の教室に戻った。
1時間目は社会だった。しかも、興味のある……というか、聞いておかなければならない単元だ。
「さて、今日は聖剣戦争の説明をするぞー。教科書1123ページをあけろー」
2016年に生きる読者の皆さんは「教科書のページ多くね?」と思うだろう。だが、歴史に関してはこれが普通なのだ。
というのも、2年前の戦争で日本がなくなったので公民は勉強することが半分以上なくなり、地理に関しては世界がもうほとんど住めない状態なので、この太平洋上の新大陸のことしか勉強することがないからである。
なので、その分歴史の授業が増えて今のページ量となっている。
「聖剣戦争は2年前に起こった戦争だ。世界中に突然現れた魔術師たちが聖剣と言われる剣を探し求めて争ったもので、別名「孤児戦争」ともいわれるものだ。なぜ孤児戦争と言われるかというと、その戦争で争った者たちは皆親などの肉親がいない18歳以下の子供だったからだ。まあ本当に孤児の者だけかどうかはわからんがな。だが、この戦争で争った者たちの中には今もどこかで生き残っている者たちもいるらしい」
静かな教室の中に教師の声だけが響いていた。
僕はその戦争をよく知っている。なぜなら僕自身がその戦争で戦った魔術師の1人だったからだ。
その戦争にはマジックギミックスのメンバーが全員参加していた。だが、メンバーのみんなはなぜかその戦争のことを全く覚えていない。
それどころか、戦争を生き抜いた魔術師の全てがその戦争に関する記憶を一部、またはほとんどなくしている。
僕もそれの例外ではなく、戦争後に知り合った魔術師とマジックギミックスのメンバー以外の魔術師は1人も覚えていない。
そうやって色々なことを僕は考えたが、そうしているうちに50分が過ぎ、授業が終わった。
-6時間後-
「やっと全部終わったー」
「疲れたねー」
僕といのりはのびをしながら言った。
と、そこで
「おーい。ハツキ、いのりー」
と、すずが僕たちの名前を廊下から呼んだ。
僕といのりはすずのもとへ走っていき、
「どうしたの?」
と聞いた。
「ミカが今日は集まるのかーって言ってるよ」
すずがそう言ったので僕は自分の携帯にメールが届いているかを確認した。
なぜならミカ(インフォ)は、マジックギミックスの集会があるかどうかまず僕にメールして聞くからだ。
「え、僕の携帯にはメールは……届いてた……」
「もう、昨日も気づかなくてミカに怒られてたじゃん」
いのりが子供に小言を言うような口調で言った。
「そ、そうだったね」
「で、なんていえばいい?」
「今日は話したいことがあるから、集会あるって言っといて」
「はいはーい」
話したいこと、とはもちろん透哉のことだ。
それに、透哉とも話すことがある。
もちろん2年前の戦争……孤児戦争についてのことだ。
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ドラクエをやりすぎて小説を書くペースが遅くなって1話が短くなるかもしれない……