ピンチはチャンスを作る媒体
お待たせいたしました。次話です。今回もそこそこ長いですが、よろしくお願いします。
捕まった。
その一言に限る。
俺は今、ほんの20分くらい前に知り合った少年、過崎初希と共にマフィアのビルに潜入している。なぜそうなったかは話すと長くなるので前の話を見てくれ。
そうしてマフィアのビルに丸腰で潜入して、さっきエレベーターに乗って14階まで来たのはいいが、エレベーターから降りる際にエレベーターについてあった監視カメラのせいで潜入がばれて捕まり、今はマフィアのボスの部屋でマフィアに囲まれてどう処分するかを話し合われている、という状況だ。
マフィアのボス部屋は結構広く、シャンデリアが部屋を照らし、その横に景観をつぶさない程度の大きさのスプリンクラーがあり、その他には机が一つあって、何枚か絵や写真が飾ってある、というような部屋だった。
ちなみに先ほど入り口にいたマフィアから入手した自動拳銃2丁は取り上げられ、今は奴らのボスが持っている。
その部屋の中はこいつらなんで雨でもないのに合羽を着てるんだ? みたいな雰囲気だった。
「聞こう、君たちは何をしにここに侵入した?」
黒服スーツに英国風の帽子をかぶっている小柄な男……マフィアのボスであるセハルド・グレゴリオがそう問いかける。
「友達の家と間違えましたー」
ハツキがおどけた様子で答える。
「ではいつからここに侵入していた?」
グレゴリオがまた問いかける。
「1万年と2千年前くらい?」
ハツキがまたおどけた様子で答える。
てめぇふざけたこと言ってんじゃねえええぇぇぇ! という顔で俺はハツキを見つめていた。
それに気づいたハツキは
「大丈夫だからちょっと待ってって」
と言った。
いくら小説のタグに主人公最強っていうタグがあるからと言ってこんな状況、打破できるもんなのか……
と俺が思っていると、グレゴリオがあきれた表情で口を開いた。
「けっ、まったく、最近のガキどもはみんなこんな風にマフィアをなめていやがるってのか」
グレゴリオがつぶやく。
俺はかなり恐怖していた。
なぜなら今この瞬間マフィアのボスであるこの男が手に持っている拳銃の銃口が俺のほうに向いて火をふくかもしれないのだ。怖がらずにいられる者などこの世にいるのだろうか。
「ふふふ、まあそりゃ、本国の武器卸売り競争に負けたせいでクライアントに追い回されて、こんな小さい国に逃げ込んで来て威張り散らしている中学生みたいなやつはなめられて当然じゃないのか?」
ハツキがグレゴリオをばかにするような口調で……いや、完全にばかにした口調で言う。
俺はその時、地獄に落とされて永遠の苦しみを与えられる直前のような、そんなどう表現していいかもわからないくらいの恐怖を持った。
「……ほう。なぜそれを知っている」
「それは言えないけど、一つだけ言えることは、僕たちが君たちを拘束したがっているっていうことと、それを僕たちに依頼したのは他でもない君たちの元クライアントさんだっていうことだよ」
……僕たち? ちょっと待て、それってまさか俺も入っているのか?
「おいハツキ、僕たちって、まさか……」
ハツキはにっこり笑ってこっちを見た。
……ふざけんなああああぁぁぁぁ!
「ほう……まあ確かに偶然ガキが二人同時に俺たちのビルに乗り込んでくるなんておかしいと思ったが、お前ら仲間同士だったのか。さっきエレベーターで初対面のような会話をしていたが、あれは俺たちをだますためのフェイクだったってわけか」
いや、何のフェイクだよ! そんなことしてもどうせ俺も殺す予定だったんだろ!?
と、そこでハツキが唐突にお前もなんか言え、みたいな感じで俺のほうに顔を向けてきた。恐らく時間を稼げとかそういう理由でそんな無茶ぶりをしてきたのだろう。
くそ……もうこうなりゃやけだ。どうせだったら俺が今思ってることを全部叫んでやる。
「ははは、お前らこの街じゃ威張ってるくせに、他の国じゃガクブルで過ごしてやがったのかよ……。笑えるな、全く。本当に地元でいきがってるだけの中学生じゃねーか。ほんとダッセーよ。この低俗な犬がッ!」
……言っちまったー……
俺がもうちょっと穏やかなことを言うと思ったのだろうか、ハツキがポカーンと不意を突かれたような顔でこちらを見ていた。
なんだか俺は初めてハツキのそういう顔を見て、勝ったような気がした。が、そんな優越感は一瞬にして消えた。
「ふ、ふふふ、こんなガキにそこまで言われるとはな。貴様らがどんな組織の人間かは知らんが、ここで私の手によって死んでもらおうか!」
グレゴリオは自分の持っていた2丁の自動拳銃を俺たちに向け、引き金を引いた。
死んだ。俺はそう思ったが、現実は俺を裏切った。
グレゴリオが引き金を引いた瞬間、銃口からは何も飛び出してこず、代わりにグリップ(銃を握る部分)から横方向に2本の刃が飛び出し、グレゴリオの手を貫いた。
「ぐ、ぐああああぁぁぁぁ!」
あまりの痛みにグレゴリオは声をあげ、そしてそれを心配したグレゴリオの部下たちは俺たちの後ろにいた2人を除いて全員グレゴリオの元へと駆け寄った。
そしてそのマフィアたちはこのやろーという顔でこちらを見ている。
と、そこでハツキが
「透哉、すごいじゃないか。よくやった」
と言い、続けて
「でも無理だったよ、ごめん」
と言った。
「そりゃそうだろ! この人数を全員拘束するなんて……」
この部屋にはざっと30人くらいのマフィアがいる。恐らくハツキは今の仕掛けで相手をとまどわせてその隙に全員拘束するみたいな作戦を立てていたのだろうが、そんなことは小説の主人公みたいなヒーローではない限り無理だろう。だがハツキは……
「いや、そうじゃなくて、5分以内じゃ無理だってことだよ。10分ぐらいかかっちゃったね」
……は? 何言ってるんだこいつは? と思っていると
「ちょっと予定は狂っちゃったけど……」
ハツキはそう言って息をすうーっと吸うと手をばっ、とあげて……
「今だあああぁぁ!」
と言って、後ろにいた2人のマフィアを殴り飛ばして気絶させた。
そして次の瞬間、部屋に何か小さいものが飛び込んできて地面に当たり、跳ね返って壁に当たり、また跳ね返って、スプリンクラーに当たった。
パキンッという音とともにスプリンクラーのセンサーが割れ、警報が鳴り、同時に水が噴出された。
「な……なにが……?」
俺には何が起こったのかわからなかった。
ハツキが先ほどエレベーターの中でスプリンクラーを使う、と言っていたが、こういうことだったのか、と思ったが、同時にある矛盾に気づいた。
そう、ハツキはこいつらを拘束するためにスプリンクラーを使う、と言ったのに、スプリンクラーで水を流すだけでは拘束することはおろか、相手の動きを封じることさえもできないのだ。
だがそんな心配は無用だった。
「な……あれ、どうしたんだ……?」
俺の目の前には異様な光景が広がっていた。
グレゴリオとその周りをとり囲むマフィアたち全員が感電したように痺れて、全く動かなくなった。そしてその数瞬後、彼らは口をあけたまま、バタバタと倒れていった。
「終わりだ。観念しろ」
ハツキはそう言いながら倒れているマフィアが持っていた銃を全て取り上げた。そしてマフィアたちを一人一人縄で縛りあげていった。
そしてその作業が終わると、イヤホンのマイクに向かって、
「終わったよ。依頼主さんを呼んでくれ」
と言い、それから俺のほうに向いて言った。
「さ、帰ろうか」
俺は思った。
こいつ、本物の主人公じゃねーか。
俺は心の中でそうつぶやくと、安心してしまったのか、気を失ってしまった。
読んでくださり、ありがとうございます。
今回の事件で何が起こって形勢逆転したのかは次話で説明いたします。
今後この小説は毎週水、金の0時02分、日曜の5時02分(たまに土、月の1時02分に投稿する可能性あり)に投稿していこうと思います。
後、感想や文章の指摘などがあれば送っていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。