狂った怪物
少し遅れました。すいません。
16話です。
よろしくお願いします。
ユーリは涼の手の中でグシャグシャになったマーサカーを見つめていた。そして唐突に口を開き、心の中の言葉をそのままつぶやいた。
「どういうことだ……何が……起こった?」
「そういえば、透哉にもあんたにも言ってなかったな……俺の魔術は体の一部の原子構造を変えるっていうもんだが、体の一部という認識は何も最初から体にある物だというもんじゃない。こうやって、体とマーサカーを血を介して繋げれば、俺の体はマーサカーを俺の体の一部だと認識する可能性がある。義足や義手を体の一部と認識するみたいにな。そうやってマーサカーの原子構造を変えてこんな風にしたってことだ」
涼は先ほどマーサカーで撃たれて血が出続けている右手をユーリに見せて、鈴から聞いた自分の魔術についての話を少し今の状況と合わせただけの話をした。
ユーリは少し悔しげに顔をゆがめると、すぐにその場を離れ、後ろに下がって口を開いた。
「ははは……やるじゃないか。マーサカーを1丁潰されたのは少し悔しいが、まだもう1丁ある……。あの茶髪のガキはどうやら俺の思惑に気付いたらしいが、逃がしちまったな……。まあいい、あっちにはツァギールさんがいる……。俺はこっちを潰すことに専念したほうがいいな」
ユーリは懐からもう1丁のマーサカーを取り出し、銃口を涼に向けた。
(もう1個あるなんて聞いてねーぜ……。さっきもそうだったが、弾丸を体の一部として認識する方法で奴の攻撃を回避しようとしても魔術の起動が追い付かない……鈴から物質の硬さについて聞いといてよかったぜ……)
涼は左手を構え、次の銃撃に備えた。
「無駄だ! 左手も潰れろ!」
ユーリが叫び、銃口から1発、弾丸が撃ちだされた。
「なあおっさん、知ってるか? クロムっていう物質は……鉄の2倍硬いんだぜ!」
涼はそう叫んで左手を思いきり振った。
ガキンッ! という音が響き、マーサカーから発射された弾丸が弾かれた。
「は、はは、嘘だろ?」
ユーリは信じられないという顔で涼のことを見た。
「よっし! 反射神経には自信があんだよ! もう使っちまうか。あれ」
涼は突然自分の右手に開いた弾丸による穴にナイフを刺し、痛みに耐えながら中の弾丸を取り出した。そしてポケットから針にふたのついた緑色の液体が入った注射器のようなものを取り出し、ふたを外すと、手首に突き刺し、中に入った液体を注いだ。
すると、涼の右手の傷が回復していき、5秒もたたないうちに完全に修復された。
「おお、祈にもらった回復薬、本当に効いたぜ……」
その注射器に入った液体は、事前に祈からもらった彼女の魔力がはいった傷薬であった。
祈の固有魔術は他人のけがなどの治療であり、その魔力は人以外にも注ぐことができるらしく、傷薬に注いだものがその液体だ。
「ははは、最っ高にクレイジーだな! お前……!」
ユーリはなぜか高揚したように言った。
「俺は! お前みたいな! クレイジーで、アメイジングな奴に会いたかった! 戦いたかったんだ!」
ユーリは完全に自分を見失ったように言った。
「地の文で自分を見失ったとか書いてるが、これが俺の本質なんだ!」
「おいおい、このおっさん、メタいにもほどがあるぜ……。地の文にまで文句つけるとはな……」
涼は新しいメタ発言に少し負けたような気がした。
「親父から教えられなかった感情……戦いによる高揚……。こんなに高ぶるとは……。でも、もう少し早くお前に会いたかった……もう少し早かったら、俺は人間のままお前みたいな純粋な怪物に会えたのになぁ!」
ユーリはマーサカーを懐にしまい、その場にかがむと、突然ものすごいスピードで涼に突進し、拳を涼の顔面に向けて突き出した。
その後、空気が揺れた。
「は? うおっ!」
涼はそれを間一髪でかわし、ユーリから距離をとった。
(なんだ今の……魔術……か? それにしてもこいつ、マジでイカれてやがるな……)
涼が疑問に思っていると、その答えがユーリ自身の口から放たれた。
「これが不思議か? ははは……魔術だよ。俺の固有魔術……一定の運動量を認識したときにその運動した部位の向いている方向の延長線5m以内の空気を無差別に、乱雑に振動させる……簡単に言うと、俺の突き出した拳や足の延長線上にいると、空気に切り刻まれるっていうことだ……。あと、まだ20代中盤だからおっさんじゃなくてお兄さん、だ」
ユーリは涼をにらんで言った。
(やっぱり……。あの魔術……見たことある……。だが、おかしいな。あいつは今24歳といったところだろう……だが、2年前……魔術師が現れた時、あの戦争の時に戦っていたのは、当時19歳以下の孤児だけのはずだ。……あいつのさっきの言葉からすると、多分あいつは……)
「さあ……純粋な怪物と作られた怪物……どっちが勝つか、戦おうじゃないか」
ユーリは子供のころからおさえてきた、自分が戦いを愛しているという感情をおさえず、涼にありったけの戦意と殺意を向けた。
(人工魔術師だ!)
涼は作られた魔術師を目の前にして確信した。
透哉は洞窟の通路をひたすら走っていた。
(入り口で水の音がしていた……たぶんあれは、ここがエジプトやロシアの生活水が確保される場所……地底湖が近くにあったからそんな音がしていたんだ。しかも壁の色が変わっている場所もあった。きっとこの洞窟も元々は地底湖の一部だったんだ。それが砂が落ちてきたとか、何らかの理由でふさがってしまって、この洞窟と地底湖に分かれてしまった……。俺の推測が正しければ、ユーリの目的は独裁政治を作るために水源に毒か何かを流して自分に逆らうやつを見定めて殺そうっていうものだろう。……絶対にとめないといけない)
透哉は入り口の色が変わっている壁の前に立ち、魔術補助演算用デバイスの銃口をその壁に向けた。
(この先だ……)
透哉は引き金を引き、魔術を発動させてビームを放ち、壁を崩した。
(よし、恐らく毒を流す機械があるから、あとはそれを止めるだけ……!)
「……? あれ、2人じゃなかったか? ……まあいい。とりあえず迎撃するか」
崩した壁の奥から、見知らぬ人物が現れた。
(ったく……デジャヴだぜ……)
透哉は話の終盤に新しい登場人物が出てくるという展開をいつものパターンだと、普通に受け止めてしまった。
読んでくださり、ありがとうございました。
最近サブタイトルを付けるのに困っています。
たびたび遅れたりしてしまうのは本当にごめんなさい。
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