エピソード2*魔王さまと我が家
「えーっと、よく分からないのですが世界征服しちゃったりします?」
「興味ありませんね、面倒臭い」
「なら良かったです」
私は花を引っ込めた。よくよく見れば確かに花は先ほどまであった瑞々しさを失っているような気がする。
「それよりも土倉さん、君……隣に越してきたと言っていましたがどういうことですか?」
「え?」
「この辺り一帯は黒須磨家の敷地ですし、誰かが来るようなことは聞いてないのですが」
「黒須磨さん……ですか?」
「そうです。申し遅れました、俺は黒須磨雪一、黒須磨家の次期当主です。よろしくお願いしたくもないですが」
「よろしくお願いします!」
なんだか嫌そうに言われてしまいました。でもめげない。
「それで、君の家はどこですか? 黒須磨家の者としてはきちんと住人の把握はしておかなくてはいけませんから」
「ご、ご案内します!」
家ができて早々の初お客様です! ちゃんとご案内しないと。
うきうきと先ほど組み立て終わったばかりのマイダンボールハウスに黒須磨君をご招待しました。
お屋敷のすぐ隣にある広い野原の中にパンダ模様の小さなお家がちょこんとあった。風で時折ぐらりとする。
「我が家へようこそです!」
「…………ああ、これが君の家だったんですか。すいません、風で飛ばされてきたゴミかなにかかと思いました」
「さっきできたばかりでなんのおもてなしもできませんがっ」
「いえ、おかまいなく。すぐにこの君のダンボールハウスは撤去させていただきますので」
「なぜです!?」
「鉄季、撤去なさい」
「……ハイよ」
いつの間にいたのか灰色の髪に表情が浮かばない三白眼の金目をした少年が返事をした。彼はちゃっちゃと私が丹精込めて作ったダンボールハウスを持ち上げてしまう。
「きゃーー、なにするんですか止めてください!」
「……って言ってるが?」
「無許可不法侵入です。同情の余地はありません」
「だってさ」
「鬼ーーー悪魔ーーー!」
「俺は魔王だと言ったでしょう。そんなちんけなものと一緒にしないでください」
「ちなみに俺は魔法使い」
黒須磨君に鉄季と呼ばれた少年はダンボールハウスを天高く放ると真紅の石を胸ポケットから取り出すと同じように放った。
「開け『ポルタ』灼熱の元、灰塵と化せ――――火蜥蜴サドラ!」
声高に言葉が流れると放られた真紅の石が粉々に砕け散った。眩い赤い光に思わず目を閉じてしまったが、次に開けた時には私のダンボールハウスは真っ赤に燃え盛り、一瞬にして灰となって空に消えてしまった。
残ったのは空中に浮遊する何やら奇妙な物体。
「土倉さん、もしかして魔法は初めて見ましたか?」
「魔法……あれが」
「鉄季の魔法は召喚魔法といって特殊なものですが」
「俺の精霊、火蜥蜴のサドラ。火を吹くから気をつけろよ」
ふわりと目の前に燃え盛る炎の尾を持つ蜥蜴が舞い降りた。時々呼吸する時に火の粉が飛んでくる。
これが精霊、初めて見ました……。
そっと手を伸ばし、そして――――ぎゅむーっと両の頬をつまみ上げた。
「私のダンボールハウスーーーー!」
『ぎゃぴゅあ!?』
「あ、サドラの頬が伸びた」
「助けてあげなさいよ、お前の精霊でしょうに」
初めて見る精霊に感動している余裕はなかった。丹精込めて作ったばかりの我が家を燃やされてしまったのですから!
火蜥蜴は泣き声を上げながらしばらく暴れていたが気が付くとすぅーっと空に溶けるように消えてしまった。
「与えた魔力が切れたから精霊界に戻ったんだ。気にしなくていいぞ」
「いいえ気にしてください。彼は貴方の命令に従っただけなんですから何も悪くありません。悪いことをしたのは君ですよ」
「…………ごめんなさい」
さすがにあれは可哀想でした。でもでも私の新居が!
「しかしなんででまたこんな所にいぬご――いえ、家を建てようとしたんですか?」
「それはですね、ここがとても素敵な場所だと思ったからです!」
「……そうですか?」
「はい、桜の木とか花がたくさんあります!」
「けれど俺の屋敷の周囲はあまりいい雰囲気ではないでしょう」
確かにここは周囲の森の雰囲気と違って暗くよどんでいる気がするが、別に嫌になるほどではない。
「あ、ガーゴイルとか怖くねー?」
「ガーゴイル? あの魔よけの銅像ですか? ああいうのは家にもありましたよ、怖い顔のお面!」
「ふぅーん平気なんだ。同じくらいの女子はコレ見ただけでピーピー泣くけどな。でもお隣がこんな怖い奴じゃ、さすがにもう居たくはないよな」
「怖い……ですか?」
まったく表情が変わらない無の顔のまま鉄季君は黒須磨君を無遠慮に指さした。黒須磨君は黙ったまま鋭い銀の瞳で鉄季君を睨んでいる。
冴え冴えとした美貌を持つ黒須磨君ではあるけど、怖いとは感じませんが。
私がぽけっと首を傾げていると、鉄季君はふぅーんと言葉を漏らした。
「ユキ、この子すごいぞ。魔王を恐れてない」
「……すごいというよりは鈍――――バカなんだと思いますが」
「はい! 黒須磨君は怖いというよりとっても失礼だと思います!」
「君も大概失礼だと思いますけどね。で、君の本当の住所はどこですか」
「な、なぜそれを聞くんです!?」
「もちろん親御さんに連絡するに決まっているでしょう。こんな所に一人、ダンボールの家を作って住もうなんて家出人くらいですからね」
「それだけはご勘弁をーー!!」
「お、住所と電話番号発見」
「きゃーーーー!!」
野原に転がったままの私のリュックを手早く拾った鉄季君がネームプレートを引っ張りだして裏側に書いてあった住所と電話番号を発見してしまった。
ちょ、なんて手が早い人でしょう!
失礼な人と一緒にいる人は同じように失礼な人でした!!