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旋律の少女  作者: やーた
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第6話 音術

 しばらくの間部屋でぼーっとしていると、部屋の扉がノックされて城の使用人らしき少女が中に入ってきた。手にはなにやら布のような物を持っている。


「お洋服をお持ちしました。その格好では苦しいかなと思ったので...ここに置いておきますね」


 そう言うとその少女は持っていた服を扉の近くの棚に置いた。


 そういえば制服を一日中着たままだった。流石にそろそろ着替えたいとは思っていた頃だ。


「ありがとう。今着てるのは私が自分で持っておくから」


 着替えたくなっていたとはいえ、何故かこの制服を預けてしまうのは抵抗があった。


(もしかしたら私、まだ帰ること諦めてないのかな…)


 ついさっき話した事だ。まだはっきりと帰れる可能性は低いといわれたのを覚えている。ショックはショックだけれど受け入れていたつもりだった。


(...帰れないって言い切られなかったからかな?)

「...ん、リンさん?」

「あ、ごめんなさい。大丈夫だからもう戻っていいよ」

「はい。あまり気負わないでくださいね。きっといつか帰れますよ!」


 そう言うと使用人の少女は優しく微笑み部屋の外へと歩いていった。部屋はまた私一人だけとなり、少しの間沈黙が流れた。


(...そうだ。着替えなきゃ)


 私は棚に置かれている綺麗に畳まれた服を手に取った。正装とならない程度の気軽に着れるドレスのようだ。流石というべきか城で出された服だけあって肌触りはかなりのものだった。


「こんな服、いつもじゃ絶対恥ずかしくて着れないよなぁ」


 普段着仕様とはいえ、ドレスはドレスだ。日本の普通の女子高生が滅多に着るものではない。


「...うーん」


 身に付け、置いてあった大きな姿見で自分の姿を眺める。その姿だけ見れば部屋の雰囲気もありまるで貴族のようだった。


(うん。悪くはないかも)


 しばらく姿見の前に立って普段とは違う自分の姿を見ていると、再び扉がノックされた。


「凛、私だ。入るぞ」


 部屋の扉が開けられ、優希が入ってきた。優希も制服から着替えていて、私のものより落ち着いた色のドレスを着ていた。


「おっ...凛も着替えたのか」

「うん、優希も?」

「ああ。制服に飽きてたしな」


 優希がゆっくりと歩きながら窓際に立った。


「それで、どうしたの?優希」

「どうしたって、そりゃあ話があるから来たんだろ。」

「...やっぱりさっきのこと?」


 さっきのこととは当然私の力に関してのことだ。


「まあな。でだ、その事を考える前に一つ言っておきたい事があるんだよ」

「言っておきたいこと?」

「...この話を受けるにしても受けないにしても慎重になった方がいい」

「えっ...それはそうじゃない?だって要は私にこの世界の未来がかかってるって事なんでしょ?」

「それもあるけどな…お前、おかしいと思わなかったのか?」

「...?」


 優希が呆れたような目をして私を見た。


「マジかよ...お前素直なのか天然なのかわかんねーな...いいか、あの爺さんと王様何て言ってた?もう一人の演奏者のこと...」

「えーっと、今から二十年前にその人が現れたんだよね。でも一人で魔物のいるとこに乗り込んでって帰ってこなかっ...ん?」

「やっと気づいたか。おせーよ」

「...そうだよね、おかしいよ!」


 何故こんな事に気づかなかったのだろうか。ベリッツはこう言っていた。大半の方々がある日突然消えてしまう。恐らく元の世界に帰ったのだろう、と。そしてもう一人の演奏者についてはこの世界で命を落としたと言い切った。


「...だけどな、もう一人の演奏者はあくまで“帰ってこなかった″だけなんだよ。誰もそいつが死んだところをみたわけじゃねぇ」

「つまり山脈を越えた向こう側で突然消えて元の世界に帰っていったって事だよね」

「そういうことだ。あいつらがわざと本当の事を隠していたのか、それともそんな事も頭に回らないバカなのかどっちかは私にも分からねーよ...ただどっちにしたってそんな奴らに無警戒で近付くのは危ない気がする」

「うん…でも悪い人には見えないんだよなぁ」


 エナドはつかみ所が無いといえば無いがやるときはきっちりやるタイプの人間に見えた。ベリッツは温厚なお爺ちゃんという感じだしグラニスは優しい。裏で何か良くない事を考えているようには思えなかった。


「優希はさ、どうしたらいいと思う?」


 色々考えてみたがよく分からず、私は取りあえず優希に訊いてみた。


「うーん…まあ最終的には凛が決めることだし私はあまりあーだこーだ口出しする気はねーけどさ...強いていうなら断ってほしい気持ちもあんのかな?」

「どうして?」

「だって凛の力を貸すって事は凛を魔物と戦わせるってことだろ?そんな危ねーことさせたくねぇ。まあどっちにするにしろ私は絶対凛と一緒にいてやるから凛に何かあるって事はぜってー無いけどな」

「ふーん...じゃあ任されてみようかな。とは言ってもどうやって術使うかも分からないけど」

「良いのか!?そんな簡単に決めて!」

「口出ししないんでしょ?それに優希が守ってくれるんだし」


 今の言い方は少し意地悪かったかもしれない。


「そうだけどよ...でも何で...」

「...勿体ないからね。帰れるかどうかも分からないけどそれで諦めて何もしないでいるよりも、今私がいるこの世界でできることをやってみたいなって思っただけ」

「...昨日と違って随分前向きなコメントだな」

「うん。昨日優希が言ってくれたように受け入れるのって難しいけどね...」


 私は先程渡さなかった制服の事を思い出した。


「でもね、受け入れないで諦めずにいるのも悪いことじゃないのかもって思ったの。別に帰れないって決まった訳じゃないし!」

「...そうか。なら私も全力で凛のために頑張ってやるか!」







 せっかくエナドに一日の時間を作ってもらった私だったが、昼にもならない内に結論がでてしまった。時間ももったいないと言うことで私達はエナドにそれを報告に行くことにした。


 エナドは少し驚いた顔をしながらも、少し笑って「そうか、良かった。期待しているよ」と言ってくれた。ただ、優希はやはり不機嫌そうだ。もちろんもう一人の演奏者の話はしなかった。


 その後、まだ自分が音術を使い方を知らないことを告げると、エナドはただ念を込めて楽器を演奏するだけだそうだと言った。


「...という訳でお城の中庭を借りてみたんだけど...本当に吹くだけでいいのかな?」


 今私は優希と一緒に城の中庭にいた。音術を試してみるためだ。ベリッツも様子を見ていてくれるらしい。


「私の知っている音術師はそう言っていますけどね…」

「取りあえず吹いてみりゃーいいんだよ」

「...そうやって何でもいいから吹いてみろって言われるのが一番困るんだけどな…ベリッツさん。音術師の人ってどんな術を使うんですか?」

「具体的にはですねぇ…例えば重力を強めたりしたりしているのを見たことがあります」

「重力を...」


 私は少し驚いていた。音術は精々気分を高ぶらせたりその程度のものだと思っていたからだ。


「すげーな。重力まで操るのか」

「それ、やってみようかな…」


 特に何も思い浮かばなかった私はそれをやってみることにした。


「えーっと、“念を込めて″ってやりたいことを想像しながらってことかな…?」


 私は楽器の吹き口を口に軽く咥えた。


(重く、重く...)


 そのまま私は息を楽器に吹き込んだ。その時だ。私の指が勝手に動き出し、ブレスまでもが無意識に行われていた。あの時と同じだった。頭の中に旋律が流れ始め、知らないはずのその旋律を無意識の内に奏でている。ただ、前回と違うのは私の頭に流れている旋律がとてつもなく重々しい旋律だという事だ。それと、この前よりは意識がはっきりしている気がする。


 だからこそ、その声は聞こえた。


「が...り、凛...!苦し、いっ...」


 優希のそんな声が聞こえた私は楽器から口を離した。周りをみると優希とベリッツが地面に倒れていた。


「え...?」


 私が驚いていると、優希が立ち上がった。


「今の、凛がやったんだよな…?」

「...今って、どうなってたの...」


 どうもこの楽器を吹くときは多少意識が朦朧としてしまうらしい。そういうものなのか単に自分が音術に関して未熟なのは分からないが、とにかく私がこの楽器を吹いている間は周りで何が起こっているかを私は認識する事ができない。


「突然でけー岩みたいなのが乗っかってきた感覚だったよ。なぁベリッツさん」


 ベリッツもようやく立ち上がった。


「いやはや、驚きました。まさかこれほどの力をお持ちとは...」

「なんかごめんなさい、ベリッツさん。後、それから優希もね。...そんなに凄かったんですか?ベリッツさん」

「以前私の知り合いの音術師に同じ様な音術を受けたことがあります。彼もこの世界ではトップクラスの音術師でかなり熟練もしているんですけど...はっきり言ってしまうと比べ物にならないです」


 私は手に持っていた楽器がただの楽器でないことを思い出させられた。それを少し持ち上げ、見つめる。


「これが、音術...神奏器の力なんだ...」

「...それもありますが、やはりリンさんの音術を操る力...音力が並ではないのだと思います。神奏器は消費してしまう音力が凄まじいですから」

「凛...お前本当にすげーな」


 まだ完璧に操ることはできないが、どうやら本当に私には力があるらしい。


 まだしばらく時間はかかるだろう。けれどもこの力を使いこなし、私にできることを精一杯しよう。そんな事を私は手に持った神奏器を見つめながら考えていた。

 ようやくそれっぽくなってきました。けれども頭の中で考えている設定がかなり不安定なのでどこかで変な矛盾が出てきたりするかもしれません...

 後、今更ですが凛と優希の名前は彼女達が呼び合うもの以外はカタカナになっています。一応漢字の概念はグラノゲルトにはないので。(じゃあ何で日本語で普通に会話してるのかと言われると答えられません...そこはなんとなくイメージしていただければと...)

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