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旋律の少女  作者: やーた
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第5話 会議室にて

 突然エナドに頭を下げられて歓迎された私達は、話したいことがあるからと城の会議室らしき所に連れていかれた。エナドが円形の机に座ると、私はその向かい側に座った。もちろん優希は私の隣だ。


「さて、ここで色々と話さなければいけないんだが...なにせ話すことが多すぎて何から話したらいいか分からないんだよ。そういうことで君達にこの世界で分からないことを質問してもらって私達がそれに答えることでこの世界について知ってもらおうと考えているんだが...それでいいかな?」


 エナドがそう言うとその隣に座っているベリッツが頷いた。グラニスは扉の辺りで腕を組み壁に寄りかかっていた。


「ああ、構わねーよ。その前に一つ聞いていいか?」


 優希が言った。優希は相手が一国を治める王だというのに敬語を使う気は全くないようだ。というかエナドに会ってから彼女が不機嫌そうなのは気のせいだろうか?


「何だい?ユウキ君」

「これはあれか?凛が何かよくわからねーけど特別な奴だからこんなに丁寧な対応なのか?わざわざさっきの部屋から移動したのは何か理由があるんだろ?」


 エナドが微笑んで言った。


「これはこれは。随分と鋭いお嬢さんだな。その通りだよ。本来ならあの部屋で軽く挨拶をしたら帰ってもらうつもりだったんだがね、彼女が選ばれた人材だからこそこういう対応をしてもらっているんだ。あ、もちろん君、ユウキ君に対しても同等の対応をさせてもらうからその辺は安心してもらっても構わないよ」

「そうか...ああ、後聞きてー事っていうか頼みてぇんだけど」

「何だい?」

「その、『ユウキ君』って呼び方やめてくれ。呼ぶなら呼び捨てにしてほしい」


 エナドは少し笑って言った。


「構わないよ」


 優希はやはり気に食わなさそうな顔をして腕組みした。このまま変な空気になるのは嫌なので、私は何かを質問しようと口を開いた。


「あ、あの!私達って帰れるんでしょうか?」


 とっさに出た言葉が、それだった。優希が私に目線で「いきなりそれ言うか!?」と訴えている。


「その事かい?...いいけど一応...ね」


 見え見えの対応だった。


「ベリッツ、頼む」

「...はい。私は今までにあなた方のような人々を何人か見ています。その大半の方々がある日突然消えてしまう...恐らく元の世界に戻ったのでしょうが、一人だけ例外がいました。...リンさん、実はあなたのほかにもう一人神奏器を扱うことのできる『演奏者』の方...『演奏者』については後々説明させてもらいますが、その方だけが元の世界に戻ることはなく、この世界で生涯を終えてしまっています。ですからはっきりとした事は言えませんが、リンさん、あなたに関しては非常に残念ですが帰れる可能性は低いと考えざるを得ません...」

「そう、ですか...」


 一応昨日の夜に優希に言われてはいたが、やはり実際にそう言われると現実味の無い絶望感が私を襲った。優希もかなりショックを受けているように見えた。


 ベリッツが私達の様子に気を遣いながら続けた。


「ユウキさんに関してはイレギュラーです...今まで二人同時という事が無かったので何とも言えません。申し訳ない...」


 少しの間、沈黙が流れた。


「凛」


 やがて、優希の声が聞こえた。


「優希...」

「その...」

「...分かってるよ。昨日優希が言ってくれたから。私は大丈夫。多分...」


 最後の「多分」は誰にも聞こえない位の声で言った。


「...まだ、質問してもいいですか?」


 私はこの空気を断ち切るべく、質問を続けることにした。


「あ、うん。いいよ」


 エナドが少し戸惑ったような顔をしたが、すぐに笑顔になった。彼も気を遣ってくれているのだろう。


「じゃあ遠慮なく...神奏器の『演奏者』って何なんですか?」


 この質問も、ベリッツが答えた。


「それですか。それについてはまずこの世界の魔法について知ってもらう必要があります」


 そう言ってベリッツが立ち上がった。


「この世界では魔法が発達しているのはお二人ともご存じですね?」


 私と優希は頷いた。


「魔法と言うのは実は俗称でして、本来は魔術といいます。あまり変わりませんけど...」


 そうしてベリッツが手のひらを宙にかざしそこに水の球を出してみせた。


「これが魔術です。この国の大半の人が使えるんですよ。個人差はありますけどね。そう考えると実戦で使える人はかなり絞られてしまいますが...」

「じゃあグラニスは魔術を実戦で使える数少ない人材ってことか?」


 優希がグラニスの方を向いて言った。


「数少ないっていっても十人に一人とかだけどな。その中でも俺は魔力は強い方だけど...」

「まあ、そんな位なんです。そしてですね、この世界には魔術に対して音術というのが存在するんです」

「音術...?」


 魔術ならまだ私達の耳にも馴染みのある響きだ。しかし音術というのは聞いたことが無い。


「音の術で音術です。その名の通り音...というか旋律にその、何というか、私も使えないので細かい事はうまく伝えられないんですけど...力を乗せる?感覚だと私は聞いています」

「ちょっと待て、あんたが使えねーって言うんだったらその音術って...」

「はい。使えるのは一つの国に百人もいないそうです...」

「そうか...凛はそんなすごい奴に...」

「いえ、リンさんの場合本当にこの楽器が吹けたとなるともっとすごいですね。この楽器は神奏器といいまして、このグラノゲルトのある予言に登場する特別な楽器なんですよ」

「予言、ですか...」

「そうです。古くから言い伝えられている予言にはこのようにあります。《世界が戦乱に包まれし時、東方から魔現れん。されど二つの神奏器と演奏者揃いし時、魔を討ち世界を救わんとす》」


 優希が少し不思議そうな顔で言った。


「...魔?」

「魔力を持った獣です。魔物と言われています。予言にあるとおり今この国で大きな問題にもなっています」

「その予言の通りなら戦争かなんかがあったのか?」

「はい。今から二十五年前の事です。グラノゲルトでもっとも力を持っているといわれる三つの国が三つ巴で戦ったのです。これを見てください。グラノゲルトの地図です」


 そう言うとベリッツは懐から折り畳まれた紙を取り出し、それを机の上に広げた。私は立ち上がってそれを覗き込む。


「...ん?これ...なんかどこかで...」


 地図をみた私は違和感というか同じものをどこかで見たような感覚がしていた。すると後から地図を覗き込んだ優希が驚きの声を上げた。


「...ああ!?これって...ヨーロッパじゃねーか!」


 それを聞いた私は自分の違和感に納得がいった。その紙に描かれているのは私達の住む地球でのヨーロッパにそっくりだ。


「ヨーロッパとは?」


 長い間何も喋らず、黙っていたエナドが興味を惹かれたように口を開いた。こういう話は優希の方が得意だと思ったので、私は優希に任せた。


「私達の世界にある地方の名前だよ。基本的に世界の中心だ。...ああ、けどまるっきり同じって訳ではねーのか。ユーラン半島がねーしシチリア島もねーな。細かいとこはちょっとずつ変わってるみてーだけどそれでもここまで似てるとは...」


 優希がどこの事を言っているのかはすぐに浮かんではこないが、優希が言うのならそうなんだろう。


「なあベリッツさん。もしかしてこの国ってこの辺だったりすんのか?」


 優希が指差したのはドイツの辺りだ。一応私もある程度は分かる。高校の授業でも地理もとっていた。


 ベリッツが驚いた顔で言った。


「その通りです!」

「そうだろ?やっぱり気候とか文化も似てるらしいな」


 そう言えば優希が「ドイツっぽい」と言っていたのを思い出した。


「そうですか。それではこの辺りの気候とかは説明しなくてもお分かりいただけるでしょう。それでですね、先程言った三つの国と言うのはこの線を境にして分かれています」


 ベリッツは地図上に引かれた線を指でなぞりながら言った。


「まずは我が国、アグレナードです」


 範囲はドイツからエストニアの辺りまでだと優希が言っていた。南はカフカス山脈の東側辺りまであるようだ。


「そして魔術大国、イペリスです」


 こちらはフランスやスペインなど、ドイツ以西のラテン語系の言葉を話す国々が多いようだ。


「最後に軍事国家のフィノウェルです」


 こちらは北欧プラスウラル山脈の辺りまでと広めの領土だ。


「この三国が南方の未知の大陸を巡り争ったのです」


 未知の大陸とはアフリカのことだろう。


「戦いは互角で、三国とも死力を尽くしていました。そんな中で、突然フィノウェルが壊滅状態に陥ったのです。理由は魔物です。東方にある山脈を越えて来たのです。フィノウェルが突然倒れてしまったために強力な魔物の大群が三国を襲ったので三国は急遽一時休戦し、協力して魔物を食い止めることになったのです。それは今でも続けられていて、フィノウェルの東端の山脈の麓には三国の連合軍の巨大な砦があるんですよ」

「なるほどな...それで?」

「魔物が現れてから五年後のことでした。予言にあった神奏器の演奏者が現れたのです。予言にあるとおり彼はとてつもない力の持ち主でした。しかし予言には神奏器の演奏者は二人必要だとあります。彼は自分がグラノゲルトを救えると知りながらもう一人を待っているだけなのは耐えられないと一人で山脈を越えて魔物の地へと乗り込んでいったのです」

「...それで二度と帰ってくることは無かったってことなんだな」

「はい...しかし不幸はそれでは終わりませんでした。彼が現れた頃から急に魔物の力が増してきたのです。彼がいるうちは辛うじて耐えることができていたものの、いなくなるとそこを一気に突かれてしまいました。そしてフィノウェルの北部の半島部分までもが進行されてしまったのです。ですからこの地図では北部の半島部分はフィノウェルということになっていますが実際は魔物の巣窟です。最終的にここを取られてしまったことで海を渡り直接アグレナードに攻めてくる魔物まで現れたのです」

「それで?ちょうどいいとこに凛が現れたって事か」

「端的に言ってしまえば、そうなるかな…」


 ベリッツが答えるより先に、エナドが口を開いた。


「ここまで話せばもう察しはついているかもしれないが、どうか聞いてほしい。リン君」


 エナドが私の方を向いた。


「はい、何ですか?」

「この国、いや、この世界のためにどうか力を貸してはくれないだろうか。もちろん迷惑なのは百も承知だ。しかし...」


 頼まれたら、断れない。それは昔から私の長所でもあり短所でもあった。けれども今回ばかりはすぐには答えを返すことができなかった。


「あ、あの...私...」

「...王様さんよぉ、いきなりそんな事言われてもすぐには答えられねーと思うぞ?」


 優希が戸惑う私を気遣ってか、そう言ってくれた。それまで黙ってみていたグラニスも優希に続いて言った。


「俺も彼女と同感ですよ、陛下。まだ彼女達もこの世界に詳しいわけでもありませんし、今日この話を聞いた上で一日整理する時間を設けてもいいんじゃないですか?」

「...そうだな。それでは今日はこれで終わりにしよう。後は二人ともゆっくりしてもらってかまわないよ。城の部屋をあけておくから今日はここに泊まるといい。明日またしっかり話そう」


 エナドはグラニスに二人を案内してくれと告げると、会議室から出ていった。グラニスがその後部屋に案内してくれたが、その部屋はいかにもお城の部屋といった感じで豪華なものだった。部屋に入った私は置かれていたソファーに腰掛け、深いため息をついた。

 地理苦手な方、ごめんなさい!イメージしづらいという方は調べてみてください。

 後セリフというか、説明が多くなってしまったせいでこれまでより長い上に読みにくかったかもしれません。次はもう少し読みやすいような長さでいきたいと思います。

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