第1話 謎の旋律
夕焼けに染まったとある地方普通レベル高校の音楽室。
部活も終わり静かになっているそこでは、私を含めた3人の生徒が箒を動かしていた。
「はあぁ...掃除だりぃよぉ...」
箒をぶんぶん振り回しながら優希が言った。
「しょうがないでしょ…今週は私達が掃除当番なんだから。早く終わらせて帰ろう?」
「凛先輩の言う通りですよ優希先輩」
今にも面倒さで倒れそうになっている優希に私は言い、後輩の康太もそれに同意した。
「わかってるけどさ...」
「だったら早く終わらせちゃおうよ。私だって早く帰りたいし」
そこまで言うと優希は嫌々といった感じだが再び箒で床の掃き掃除を始めた。そのまま音楽室の隣の楽器庫に入っていったが、私はそこの掃除をするのかなと思い、それ以上優希に声はかけなかった。
そうしてまた、音楽室には箒と床がこすれる音だけが静かに響いていた。
しかし、その静寂は優希の声によって断ち切られることとなる。
「なんだこれ?」
掃除が再会されてから5分程経ったところで優希の声が楽器庫から唐突に聞こえてきた。
その声が妙に気になってしまった私は、箒を床に置いて楽器庫へと向かった。
楽器庫の中では様々な楽器の楽器ケースがあちこちに散乱していた。
「何?この状況...」
「あ、凛か」
優希は楽器庫の奥の方でこちらに手を振っている。
「優希、掃除してたんじゃなかったの?」
「最初はやってたんだけどさ、面倒くさくなってな。なんか面白いものねぇのかなーって」
私は少し呆れながらも、優希の方へ歩きながら言った。
「はあ…それで?何かあったの?」
「ああ。ちょっとこれ見てみろよ」
楽器ケースの隙間を縫って歩かなければいけなかったせいか、思ったより優希に近づくのは時間がかかった。やっとの思いでたどり着くと、優希は木製で古めかしい楽器ケースを見下ろしていた。
「何これ?」
「わからねー。私も初めて見た」
「中、見てみた?」
優希は首を横に振り、言った。
「まだだ」
「開けてみる?」
「そうだな」
私はその場にしゃがみ込んで、楽器ケースのロックをはずし蓋を開けた。中には木製の管楽器のような物が入っていた。
「これは...?」
それは私達が見たこともない楽器だった。私は小さい頃から音楽が好きで色々な楽器を見てきたし、優希はこの学校の吹奏楽部で一番知識が豊富だ。そこ二人ともがわからない楽器が、そこにある。
私は好奇心からその楽器を持ち上げた。大きさはソプラノサックスより一回り小さく、重さはアルトリコーダーよりも少し重いくらいだろうか。クラリネットに見えなくもないが、リード楽器ではないようだ。
「吹いてみよっか?」
「ここまで出したんだしな。私もどんな音がするのか聞いてみたい」
という訳で、私はその楽器の吹き口らしき所を咥えると、ゆっくりと息をその楽器に吹き入れた。どうやら奏法が難しいということは無く、息を入れるだけで音が鳴った。
その音色は柔らかく、美しいものだった。
とりあえず音を出した事に満足した私が楽器から口を離そうとした時だった。突然私の意識に聞いたこともない曲の旋律が飛び込んできた。美しくも、どこかに哀愁を感じさせる旋律だった。
気づけば私は、運指も分からないはずのその楽器で頭に浮かんだ旋律をただ無心に奏でていた。
「...い、凛!」
しばらくしてから私は、優希の声で我に帰った。
「...あれ?私、今何して」
「凛!それより何だ!その体!」
優希はやけにうろたえているように見えた。
「体?」
私が優希の言っていることを理解できないでいると今度は後ろ、楽器庫の入り口の方から声が聞こえてきた。康太だ。
「先輩、何して...先輩!?」
先程の旋律を聞いてやってきたであろう康太も、私の姿を見たとたん驚いたようだった。
「二人とも、どうしたの?」
「凛!自分の体見てみろ!」
「ふぇ?」
言われたとおりに自分の体をみた私は思わずおかしな声を出してしまう。
「ひ、光って...!?」
私の体は白く光っていた。いや、正確には光に包まれていた、が正しいかもしれない。とにかく、私の身に何かが起こっているのは明らかだった。
「な、何これ!?あ...」
体が光に包まれていくにつれ、私の視界は白く塗りつぶされていく。意識が遠くなってきた。
「凛!」
優希が私の名前を叫び、肩に手を置いた。と同時に、床が無くなったような感覚に襲われ、私は意識を手放した。
音楽に関連した小説を書いてみたかったんです。文章力は皆無かもしれませんが頑張っていきたいです。