夢想世界
綿あめが空に浮かんでいる。
いや、あれは雲だと、俺は声に出してみるが、やはり脳は綿あめだと認知している。
立っているところは大地だろうか。
それとも、たんに固い物体の上なのだろうか。
「俺は誰なんだ」
誰ともなく聞いてみるが、その声はどこにも反射することなく、遠くへ消えて行く。
綿あめに吸い込まれ、そして、綿あめは成長する。
歩いてみようと足を踏み出す。
固く感じる。
だが、見た目は苔のような感じだ。
「誰もいないのか…?」
同じように、響いていくだけだ。
誰も返事はない。
誰もいないのか。
そう思って、さらに足を出す。
ボスン、ボスンと煙を吐いて、苔が呼吸する。
それは、足元にまとわりついてくる。
「俺は、誰だ」
その答えは、だれも言ってはくれない。
綿あめは、ますます膨らんでいく。
苔から吐き出される呼気は、霧を構成し、それも、雲となり、綿あめと化する。
いよいよとアメが降ってきた。
アメは甘く、そして痛くない水滴だ。
「俺は……俺は……」
何も思い出されない。
そして、雷が落ちた。
俺の身体を貫いて、そして。
目が覚めた。