第5話 『五寸釘』
どうも、フュージョニストです。
だいぶ遅くなってしまいましたが、第5話です。
お待たせしてすいませんでした。
それでは、どうぞ。
水月、鏡花さんと別れてから20分程。
僕はショッピングモールの中を歩いていた。
市内中心地に近い場所にあるここは、必要な物は此処に来れば大概揃うと言われる大型のショッピングモールで、事実、僕の探していたパンク修理用のキットもすぐに見つかった。
思った以上に早く買い終わって少し暇になったからたまにはいいか、と思いながら製菓コーナーに向かう。
色とりどりの和菓子と洋菓子を見ていると何となく心が踊る。
女々しいって思われても、趣味なんだから仕方ない。
ここのショッピングモールに来る度に製菓コーナーに来るから、男性店員さんとは顔見知りになっている。
「お、坊主。今日は何か買ってくのかい?」
「あ、店員さん……。そうですね、いつもの栗羊羹ありますか?」
そんなことを考えてたら、件の店員さんに声をかけられ、ならと思ってよく買う栗羊羹を頼んでみた。
「よし、ちょっと待ってな。」
と言い残して、カウンターの奥へ在庫を探しに去っていく。
あの店員さん、身長180cm位でかなり厳つい顔してるけど製菓コーナーに居るんだよね……。
そんな事を思いながら見送り、製菓コーナーの他の店のお菓子を見て時間を潰す。
10分程して。
「坊主、5本あったがどうする?」
大体のショーケースを見て戻った僕に、まだコンテナに残っている羊羹を見せてくる。
「5本かぁ……。なら、3本貰えますか?」
「あいよ、3本で2400円だ」
値段を聞き、財布から千円札を3枚取り出して渡す。
「ええと、はい」
「3000円お預かり、600円のお返しになります、っと」
店員さんはそれを受け取り、レジ袋に栗羊羹を入れてお釣りと一緒に渡してくる。
「ありがとうございます。それじゃあ、また来ます!」
「おう、毎度あり〜」
僕はそのまま、ショッピングモールを後にした。
◆
「ただいま〜。」
時刻は、午後6時。
バイトがある時よりは帰ってくるのは早いかな。
とりあえず羊羹を冷蔵庫にしまおうと、リビングに続く扉を開けそのままキッチンに向かおうとした時だった。
ドサッ、パリィンッ!
と音がして振り向く。
リビングにあるソファーでテレビを見ていた母さんが、胸を押さえて倒れていた。
「か、母さんっ!?」
荷物を投げ出して、母さんに駆け寄る。
そして直ぐに母さんを抱き起こす。
「ゲホッ、ゲホッゴホッ!」
でも、僕の声は聞こえて無いみたいで、苦しそうに胸を押さえ、顔を反らして吐血した。
どうしよう!?
パニックになりかけた時だった。
「……ただいま。……絢人、姉さん、いる? 」
玄関の扉が開く音がして、女性にしては少し低く落ち着いた声が聞こえた。
この声……!
「巡姉さんっ!!」
母さんの実の妹で、滅多に帰って来ないこの家のもう一人の住人の先守巡。
何を考えているかイマイチわからない、母さん至上主義の研究者だ。
何で今日帰って来たのかと思ったけど、でも、今はありがたい。
「母さんが、母さんがっ!」
「絢人……? っ! 絢人、すぐに救急車呼んで!」
部屋を一目見るなり状況をおおまかに把握して、そう指示をくれた。
お陰で、パニックになる前に対処出来た。
十数分後、到着した救急車で母さんは搬送され、僕は救急車に同乗し、巡姉さんは自前の大型バイクに乗り病院へ向かった。
◆
「そんな、原因がわからないってどういうこと!?」
「お、落ち着いて、巡姉さん」
医師に掴みかかる勢いで身を乗り出す姉さんをなんとか宥める。
治療を終えた母さんは精密検査の為に数日入院が必要になり、今は別室で眠っている。
「は、はい、最近の先守さんの体調は安定していたようですから。
いきなりこのような事態になるとは思えません。なんらかの要因があるとしか思えないのですが……」
「その要因がわからない。…そう言うこと?」
巡姉さんに聞かれ、はいと頷く医師。
「とにかく、治療には全力を尽くします」
「……姉さんを、よろしく頼みます。……絢人、今日は帰ろう」
「……うん」
巡姉さんに促され、診察室を後にする。
母さんの眠っている病室の前を通るとき、胸ポケットにある1枚のカードを思い出した。
「!」
「? どうしたの、絢人?」
「ちょっとだけ、母さんの顔見てってもいいかな……?」
そう聞くと、2,3秒考えた後でコクッと頷く姉さん。
「ありがと!」
「でも、すぐに出てきて。でないと、送って行かないから」
「うん、わかった」
姉さんにそう返して、母さんの眠っている病室に入りそっとベッドに近づいて顔を覗く。
「…………ぅ」
今は落ち着いているみたいだけど、顔色はいつもよりも青ざめている。
呼吸も若干浅い上に、時折咳き込んでとてもつらそうだった。
「(……東雲先輩、ごめんなさい)」
胸ポケットから青いカードを取り出す。
それは、東雲先輩が僕に″お守り″として手紙に同封してくれていた、1枚のカード。
それを、母さんの手に持たせる。
「(少しでも。気休めでも、楽になりますように……)」
そう祈って、僕は病室を出た。
廊下では、姉さんが壁に背を預けて目を閉じ、腕組みをして立っていた。
「……もういいの?」
「……うん」
「そ。なら、帰るよ」
片目を開けて僕が病室から出たのを見て、すぐにスタスタと歩き出す姉さん。
僕は置いていかれないように早足で追いかける。
それから二人で駐輪場まで行き、姉さんからヘルメットを受け取り、それを装着する。
そしてバイクの後ろに乗せてもらい、家まで送ってもらった。
ただ、その間。
僕は、何もできなかった無力感から。
姉さんは、何か考え込んでいたから。
――お互いに、ずっと無言だった。
◆
絢人たちの去った病院近くの電柱の上に、一つの影がある。
「アハハッ、ヤット見ツケタヨ、ゴ主人サマ!」
そう笑うのは、青いドレスを身に纏い金髪を縦にカールさせたドレスと同じ色のつばの広い帽子をかぶった、120cm位の少女。
瞳は水晶の様に澄んだ碧だが、込められた感情のせいなのか濁っているように見える
そして、彼女の声は機械の音声のように所々甲高く、人間の物とは思えない。
「アタシノコトヲ忘レテ、ノウノウト生キテルカラダヨ」
少女の手には、金槌と五寸釘の3,4本刺さりばらけかけている藁人形。
刺さっているのは、人で言う心臓と肺のあたりか。
「ダカラ、コウヤッテアタシノコトヲ思イ出サセテアゲルヨ!」
少女はドレスの裾の中から2本の五寸釘を取り出す。
しかし、その五寸釘は鉄色ではなく黒く染まっており、不吉さを感じさせるものだった。
「ウフフフッ、アッハハハッハハッハハハッハハッ!」
そう笑いながら、嗤い続けながら、藁人形へ釘を打つ。
黒い釘だけでなく、先に刺してあった釘も叩く。
その度に、釘によって藁人形がボロボロになっていく。
「フフフフ、今日ハコノ辺デヤメテオイテアゲル。スグニ死ナレテモオモシロクナイシ、ネ……」
そう言って、電柱の上から飛び上がり、近くの家の屋根へと着地する。
何度か同じように跳躍し、ふと足を止めて去ってきた方角を見ながら。
「……アノママイレバ、マタ厄介ナ人形が来ルダロウシ、ネ」
先ほどまでの嗤いとは違い、少し静かな声でつぶやいた。
その方角へ、少年を襲うのを妨げた和人形が来ていることを確信しながら。
◆
「……一歩、遅かったか」
「あら、お探しの敵さんはいなかったのかしら?」
「うん、もう離れた後と思う」
少女が飛び去ってから数分後。
3人の人影が1本の電柱のもとにたどり着いた。
スーツ姿の東雲椿姫、嘲笑じみた笑みを浮かべている夢神更紗、和服姿の和人形『大和撫子』。
標的に追いつけなかった事で椿姫は唇を噛み、更紗は残念そうだが笑みを浮かべ、撫子は無表情のままだが内心では悔しく思っている。
「……それで? ここから追いかけるのかしら?」
「どうだろうな。既に離れすぎているだろう」
椿姫の内心を知ってか知らずか、この後の方針を聞く更紗。
それに対し椿姫は、曖昧な返事を返す。
「なんとなくこの辺が一番強く『感じる』のだが、な……」
「わたしも、おんなじ。でも、やっぱりわからない」
腕を組みながらやはりどこか悔しげに言う椿姫と、その足元で肩を落とす撫子。
そんな二人を見て、更紗は。
「椿姫と撫子の感覚頼り、ってのも若干きついのかしらね…………あら?」
と呟きながら二人の案内で来た電柱の周りを眺めていた。
その時、足に何かが当たり、キンッと音を立てて塀にぶつかった。
音のした方を見ると、半ばから砕けている直径5mm程度で長さ4cmほどの鉄の欠片を見つけた。
一方が尖っていることから、おそらくは……。
「……釘、ってところかしら?」
そうあたりを付ける更紗。
「落ち込んでる所悪いけど、ちょっと来なさい」
「……む、なんだ?」
「さらさ?」
二人を呼び、自分の見ていたものを見せる。
撫子は更紗の横に座り、椿姫は上から覗き込む。
「……これは、釘の欠片か?」
「端の尖り方からしてそうでしょう。サイズは……そうね、五寸釘あたりかしら?」
「ごすんくぎ……くぎ?」
椿姫と更紗の推測に、思い当たることがある撫子。
それを、彼女は言う。
「あねさま。これ、あやとを狙った人形の武器、と思う」
「! 本当か、撫子?」
「うん、まちがいないよ」
その言葉に驚き聞き返す椿姫。
それにはっきりそうだと答えた。
「……となれば、少年の身の回りで何か起こっている可能性があるな」
「そうだとすれば、どうするのかしら? ねぇ、椿姫?」
「あねさま……」
「明日だ。明日、少年の家に向かってみるとするよ。今は少しでも、手掛かりが欲しいからな」
椿姫は、そう更紗に言いながら撫子を抱き上げ、更紗に背を向ける。
更紗も微笑を浮かべながら椿姫に背を向け、お互いにそのまま歩き出そうとして、ふと椿姫が振り向く。
「それから更紗。明日、お前は来るな」
「猫たちに餌やりもあるし、構わないわ。それじゃあ、また来週会いましょう。……よい週末を」
「あぁ、またな」
最後にそれだけを言い、二人は反対の方向へ歩き出した。
1時間ほど歩き、自分の家の扉を開ける前にふと足を止め、空を見上げる椿姫。
空は曇り、浮かんでいるはずの星は見る事が出来ない。
「……少年、無事でいてくれよ」
――心配そうな椿姫の呟きは、抱かれた撫子にも聞こえないほど小さなものだった。
と言うわけで、第5話でした。
ここから、物語が進んでいくかと思います。
お楽しみいただければ嬉しく思います。
ご意見・ご感想、誤字・脱字の指摘などお待ちしています。