第4話 『放課後』
どうも、フュージョニストです。
遅くなってしまいましたが、第4話です。
それではどうぞ。
「――あぁ、ちょっと待ちたまえ少年。まだ説明していない事が1つあった」
帰る為に人形部の部室隠し部屋の入口(出口?)に手をかけようとして、後ろから東雲先輩に声をかけられた。
……と言うか。
「(呼び方が、『少年』に戻ってる……)」
……もう、気にしたら負けなんだろうか?
「何ですか、東雲先輩?」
「あぁ、昨日持って来るよう言った手紙とカードはあるか?」
そう聞かれ、僕は鞄を漁り折れないようファイルに仕舞っておいた封筒ごと取り出す。
それを見た先輩は満足げに頷き、
「その中にあるカード。それは魔除け……、と言うと重苦しいか。
まぁ、お守りみたいなものだからな。できる限り肌身離さず持ち歩くといい」
そう言って、自分も胸ポケットから朱色のカードを取り出して見せてくる。
少し色褪せた感じはするけど、大事にされてるのか折れや破れはないみたいだ。
「……まぁ、それだけだ。少年、帰るなら気を付けて帰れよ。……行くぞ、撫子」
「うん、あねさま。ばいばい、あやと」
「あ、はい。お疲れ様です」
言いたいことは言った。
そんな表情で先輩はボストンバッグを肩にかけ、元の和人形に戻った撫子を抱え、僕の横を通って隠し部屋から出て行った。
それから少しして思った。
「先輩、……入部届を明日持って来いって言ってたけど。明日は、休みだよね……?」
……間違えたのかな?
取り敢えず……。
「帰りながら、パンク修理のキット買わなきゃ……」
考える事はやめて、僕も帰ることにした。
◆
「お、絢人じゃん。お前がこの時間まで学校に居るなんて珍しいな」
「あ、水月。今日はバイトが無いからさ。ちょっと買い物して帰ろうと思ってね」
校門を出た所で会ったのは、1年の時にクラスメイトだった和泉水月。
僕よりも少しぼさぼさの黒髪に黒目で、結構活発な印象を受ける。
今でもこうやって話したりするように仲はいいし、バイト先が1ヵ所同じだからシフトが被るときに会ったりもする。
「買い物?」
「うん。いつも乗ってる自転車がパンクしてさ。修理用のキットを買いに行こうと思ったんだけど。
……暇なら、一緒に来る?」
そう聞くと。
「いいのか!?」
と嬉しそうに聞き返してくる。
「う、うん。最近会わなかったし、歩きながら話でもしようよ」
それに若干気圧されつつも答えて、並んで歩き出す。
「いやー、絢人はいい奴だなー。姉ちゃんとは大違いだぜー」
「水月のお姉さん?」
『初耳だよ?』と聞くと『話してなかったか?』と返される。僕はそれに頷き。
「水月のお姉さんってどんな人なの?」
それを聞いた水月は、少し考えてから話し出す。
「ん? んー、意外に後輩とかから人気があるな。俺には厳しいけど。
あと弟の俺が言うのもなんだけど、容姿も上の中位には入るだろうから、学園内でも割と有名だし」
「そうなんだ……」
「そうなんだ。でもな、家だと割とズボr――」
何か言いかけたところで、水月の声が止まる。
一歩進んでいたから振り向くと、一人の女生徒が水月の頭を片手でつかんで持ち上げていた。
胸元のリボンの色が赤だから上級生っぽいけど……。
彼女は背中まである黒髪を風に靡かせながら、さもそこにいるのが当然とばかりに、水月をアイアンクローしながら佇んでいる。
「あ、あのー、どちら様でしょうか……?」
目の前の光景に驚きながらも、何とか声を出すことに成功する。
その声を聴いた先輩女子は、水月を降ろして、にこやかに僕に話してくる。
「あら、ごめんなさいね。水月が余計なことを口走ろうとしたものだから、つい……」
「……だからって、姉ちゃん。後ろからアイアンクローは無いっ――」
「……あぁ?」
「――な、何でもございません」
水月の反論を一睨みで弾圧したこの人を、彼は『姉ちゃん』と呼んだ。
……と言う事は。
「あなたが、水月のお姉さん……ですか?」
「えぇ。神撫学園3-Ⅰ、和泉鏡花です。水月からよく話を聞いてるわ。
よろしくね、絢人くん」
そう言ってたおやかに笑う先輩。
その眼は、吸い込まれそうに澄んだ綺麗な黒の目だった。
「あ、はい、和泉先輩」
「んー……。呼び方は『鏡花さん』でいいわ。和泉だと水月と一緒で紛らわしいでしょうし。
それに、先輩って呼ばれるのはなんか堅苦しくて嫌だから」
「わ、わかりました」
僕がそう返事をすると鏡花さんは頷いて、水月の方を向く。
「さて、と。あ、絢人くん。水月、借りてっていいかしら?」
「え、あ、はい、ど、どうぞ……」
「あ、絢人!? この、裏切ものぉー!」
……ゴメンよ、水月。
だって、鏡花さん、顔は笑ってるのに目が笑ってないから……。
だから、取り敢えず。
「水月……。グッドラック!」
サムズアップで彼を見送ることにした。
「ま、待ってくれぇ!」
「……さぁて、水月。絢人くんに何を話そうとしてたのか。
ゆっくりじっくり、時間をかけて聞かせて貰いましょうか……?」
そのまま、ズルズルと制服の首根っこを掴まれて引きずられていく水月。
……冥福を祈っておこう。
その時に、鏡花さんが右手に竹刀袋を持ってたように見えたのは、気のせいかな……?
そう思って歩き出し、しばらくして。
「……水月ぅ! …………あんたはどれだけ、人の秘密をばらせば気が済むんだぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、姉ちゃん!? それマジで死ぬから……ぎゃああぁぁぁっ!?」
そんな絶叫が聞こえてきた。
……うん、聞かなかった事にしよう。
そのまま僕は、買い物に向かう事にした。
うん。今度水月に会ったら、何かジュースでもおごってあげよう。
そんなことを考えながら。
◆
部室棟の屋上。
そこに、2つの影がある。
1つは、貯水槽に背中を預けて腕組みをしている、スーツ姿の椿姫。
その足元には、大和撫子がボストンバッグの上に座っている。
もう1つは、背中まで伸びる黒髪に紅いカチューシャをつけ、人を寄せ付けない氷のような美貌の女子。
手には双眼鏡を持ち、顔には嘲笑じみた微笑を浮かべて、貯水槽の上に腰掛けている。
「ふふっ、なるほど。彼が貴女の新しいお気に入り?
ふーん……、中々観察のし甲斐がありそうね、東雲?」
「……さぁ、どうだかな?」
双眼鏡をしまい椿姫に話しかける女生徒は、表情は変えずに、しかしどこか楽しそうに椿姫に話しかける。
「あらあら、つれないわね。わたしと貴女の仲でしょう?」
「……まぁ、友人の一人とは思っているよ、夢神」
「あら、それはどうも」
対して椿姫は、そっけなく答えている。
正直、やりずらそうだ。
「それで? また付いてくるつもりか?」
「もちろん。わたしの求めるモノは、貴女と居た方が見つかりやすそうですから」
「……やれやれ。一応、お前は私の友人なのだ。……くれぐれも、死んでくれるなよ?」
これから向かう先について来ようとする彼女に対して言う椿姫。
「さぁ? それは貴女次第ですよ、″椿姫″」
「……全く。お前と話していると、僅かばかり調子が鈍るよ、″更紗″」
そう軽口を叩き合い、二人の姿は見えなくなる。
残されたのは、赤く輝く夕日だけだった。
と言うわけで、以前行ったキャラ募集で投稿いただいたキャラのスポット参戦です。
和泉鏡花・水月の姉弟はチェトリーさん、最後に出てきた夢神更紗はアマネ・リィラさんに頂きました。
お二人とも、ありがとうございました!
ご意見・ご感想、誤字・脱字の指摘など、お待ちしています。