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こちら神撫学園人形部!  作者: フュージョニスト
第1部:出会いの4月
3/8

第2話 『部室の扉』

どうも、フュージョニストです。


今回は、絢人の心情……みたいな感じになります。


それでは、どうぞ。

 あれから、何とか投げ出した鞄を探しだして家に帰ってきた。


 帰る途中にある公園のトイレで顔に付いた血を洗い流す為に寄り道していたら、もう日付が変わりそうな時間になっていた。


「……母さん、心配してるかな……?」


 そう思いながら『先守』と表札のある家の鍵を開ける。


「た、ただいま〜」


「あ、絢人。お帰り……ゴホッ、ゴホッ……」


 大きな音を立てずに家に入って鍵を閉め、2階の自分の部屋に行こうとすると、右手側のリビングに続くドアが開いて、青いパジャマの上に半纏を来た女性が出てくる。


 一般的な女性より少し痩せた感じのする体躯に長い黒髪を三つ編みにして垂らしているこの人は、僕の母の先守要(さきもりかなめ)


 ここ数ヶ月体調を崩していて、ほとんど家から出ていない。


「あぁ、母さん、無理に待ってなくてもよかったのに……」


「何言ってるの。いつもよりも帰りが遅いんだもの、心配しない親はいないわよ」


 そう言って笑う母さんは、本当に心配していたみたい。

 とそこで、僕の額にある傷に気付いたのか、顔を近づけてくる母さん。


「……それで。この傷、どうしたの?」


 ジト目で見つめてくる母さん。


「か、帰ってくるときに転んで、頭を打った時に切ったんだよ。

帰ってくるのが遅くなったのは、その後で流れて固まった血を洗うのに公園に寄ってたからだよ……」


 それに若干気圧されつつ、なんとか答える。


 転んだのは本当だから、ウソは言ってない。

 ただ、正確には『人形に襲われて逃げる時』何だけど……。


 そのまま、しばらく見つめ合いになる。


「……」


「……」


「…………」


「…………」


「………………」


「………………っ」


 そして、先に折れたのは……。


「…………ふぅ、嘘は言ってないみたいね」


 母さんだった。


 あ、危なかった……。

 もうしばらく見つめ合ってたら、根負けして話してたかもしれない……。


「もう。左目も開かないのに、無理してバイトしてくるからだよ」


 と言って母さんは右手で僕の左頬を撫でる。


 母さんの言うとおり、小さいころに負った怪我のせいで左目にかかる感じで傷ができ、僕は左目を開く事が出来ない。

 昔はこれで色々あったけど、今はわかってくれる人がいるからそうでもない。


 ただ、どこで負ったのかは覚えてないんだよなぁ……。

 気づいたら、怪我をしていた感じだったから……。


 1分位そうした後、母さんは手を引っ込めた。


「取り敢えず、わたしはもう寝るわ。体が重いし……。

ご飯は作って置いてあるから、悪いんだけどあたためて食べてね?」


「うん、わかった。お休み、母さん」


 そう言葉を交わした後で、母さんは階段横の廊下を通って自身の寝室に向かった。

 それを見送った後、僕は。


「……取り敢えず。ご飯食べよう、かな……」


 そう呟いて、リビングに入った。



 ◆



「……さて、と」


 あれから、さらに1時間ほど。

 今は深夜1時34分。


 ご飯を食べ、バイト着を洗濯機に入れ、風呂に入ってから着替えて、自分の部屋。


 ベッドに腰掛けた僕は、鞄の中から1通の封筒を取り出した。

 それは、あの時『大和撫子』が落として(?)いった封筒。


 封はされていないから、見ても問題はない……のかな?


 そう思って、封筒の中をみる。 


「……便箋と……カード?」


 中に入っていたのは、二つ折りにされた便箋1枚と、変な模様の描かれた青いカードが1枚だった。

 

 よくわからないカードは置いておいて、二つ折りの便箋を開く。

 そこにはまるでパソコンのワードで打ったみたいにきれいな文字でこう書かれていた。


『明日放課後、神撫学園部活棟1階奥『人形部』にて待つ。


その際、この手紙と札を持ち来られよ。


来たときは、キミの知りたいことをお教えしよう。』


 その3行だけだった。


「……人形、部?」


 そんな感じの部活、あったっけ?


 そう思って、机の隣にまとめてある1年の時の教材の中から、入学時に貰った学園のパンフレットを取り出す。

 その中に書かれている部活動の部分のページを探していくと……。


「……あ、これかな?」


 そう呟く僕が見つけたのは『神撫学園人形研究部』。

 場所も、学園にある4つある棟の内の1つの部活棟の1階奥で、手紙の条件に当て嵌まる。


 活動目的なんかも書かれてる。


「活動目的は。……えーと、『世界各地に伝わる人形に関する伝承や成り立ちを調査する』ってなってるね……」


 けど、僕が知りたいのは昨日の夜に遭った、あの人形たちの事。

 それを教えてくれる、って事なのかな?


 もし、そうだとしたら……。


「絶対に、『裏』があるよなぁ……」


 と考えつつも、『昨日の事を知りたい』と思ってる自分もいる。


 だったら。


「行くだけ、行ってみようかな……? でもなぁ……」


 行って何を言われたりするかわからないし……。


「あ、そうだ、授業で出されてた課題やらなきゃ……」


 そう思って、鞄からテキストを取り出して机に向かう。


 けど、昨日あった事と人形部の事で頭がいっぱいになって全く進まなかった。

 諦めてベッドに入ってからもずっと考えていたら眠れず、いつの間にか朝になっていた。



 ◆



 ――翌日、と言うか今日。


 何とか朝ご飯を食べて、重い体を引きずって睡眠不足のまま学園に向かう。

 母さんに心配されたけど、『ちょっと寝れなかっただけ』と言って家から出る。


 僕の通っている『神撫学園(かみなでがくえん)』は、神撫(かみなで)市内の中心部にある、来年度には創立120年を迎える伝統ある高校。


 敷地の面積は相当広く、各学年の教室のある"学園棟"、授業・部活で使用する実習施設のある"実習棟"、主に文系部の活動する"部活棟"、屋内系運動部の活動する"体育館"。

 さらにこの4棟に加え、グラウンド2つと寮棟のある巨大学園で、市内各地に学生がいるからか学園へ直通のバスが何本か出ている。


 今日だけはそのバスを使う事にして、バス停に向かって歩く。


 と、その途中。 


 足元から『ブチッ』と音がした。

 気になって下を向くと、まだ新しい筈の左足の靴ひもが切れていた。


「……不吉、だなぁ……」


 今日の授業に体育は無かったはずだから、多分大丈夫。

 そう考えてしゃがみ、靴ひもの切れた部分同士を結んで靴ひもを結び直す。


「これで何とか、今日1日保てばいいけど……」


 昨日の事もあるから、本当にそう思う。

 靴ひもを取り敢えず繋ぎ直した靴で学園行きのバス停まで着き、しばらく待ってから来たバスに乗り込む。


 それから20分程で僕や他の生徒を乗せたバスは学園に着く。

 他の多数の生徒が部活棟に向かう中で僕は自分の教室に向かい、若干鬱な気分で今日の授業の準備をする。


 それからしばらくすると、朝練の終わったクラスメイトが教室に入ってきて賑やかになってくる。

 だけど僕は、その間もずっと、昨日襲ってきた人形や人形部の事を考えていた。


 ……当たり前の事ながら、今日のホームルームや授業は全く頭に入らなかった。



 ◆



 放課後。


 他の生徒が部活に参加したり帰宅するために教室を出る中、僕は一人部活棟に向かって歩いている。

 特に部活に入っているわけでもないのに、だ。


 結局、昨日の事について詳しく知りたかったから来てしまった。


 この時間にはほとんど来たことのない部活棟だから、若干の気まずさを覚えながら進んでいく。


 そして、教室を出てから15分ほどで目的の部屋の入り口が見えてくる。

 そこに近づくにつれ、人の気配がしなくなって、代わりに息苦しい感じが襲ってくる。



 ――あそこに、近づきたくない。



 扉まで残り10m位で、そう思った時だった。


「――少年、私の居城(にんぎょうぶ)へ何か用か?」


「っ!?」


 いきなり、後ろから声を掛けられた。


 驚いて振り向くと、そこにいたのは一人の女子生徒。

 首元のリボンが赤だから、一個上の学年とわかった。


 彼女は右肩に小型のボストンバッグをかけ、左手で30cm位の大きさの和人形を胸に抱いている。

 胸は服越しでも大きいと分かり、制服に押し込められて若干苦しそうに見える。


 綺麗な蜜のような色の髪を背中まで伸ばしていて、瞳は釣り目気味の翠の目。

 前髪を一房、黒いリボンで縛っている。


 そこまで見て、ふと思い出す。


 学園内でトップクラスの容姿とスタイルを持ち、成績も上位と優秀だから、彼女を知らない人はほとんどいないはず。


 この人の、名前は――。


「東雲、先輩……?」


「ふむ、私の名を知っていたのか? その通り、私が東雲椿姫だ」


 東雲椿姫(しののめつばき)


 噂では、実家は和風人形の製作・販売の老舗らしい。


 と、そこまで考えて、引っかかる。



 ――和人形。



 昨日、襲われた僕を助けてくれたのは和人形。

 今日、目の前の先輩が持っているのも和人形。



 ――眼の前の光景と記憶の映像とで、何かがつながった。



「……もしかして」


「ん?」


 僕が何とか絞り出した声に反応する先輩。

 その表情は、どこか僕を試すような、そんな感じがした。


 一呼吸おいて、もう一度口を開く。


「もしかして、昨日僕を助けてくれた和人形『大和撫子』の持ち主って、……先輩なんですか?」


 僕の問いに、先輩はフッ、と笑いながら。


「それが知りたければ、人形部の部室の扉をくぐることだ。――ではな、少年」


 僕を置いて目の前の、『人形研究部』と書かれた扉を開けて中へと入って行った。

 それを見送って、僕は。


「……ここで止まってても、仕方ないよね。……なら」


 一歩、踏み出す。

 その度に、息苦しい感じがどんどん重くなってくる。


 でも、聞かなければいけないことを聞くために。

 確かめなければいけないことを確かめるために。


 僕は、『人形研究部』と書かれた扉の前までたどり着く。


 そして、部室の扉の取っ手に手をかける。

 一度目を閉じ、もう一度目を開いて。


「――行こう」


 そう呟いて、僕は『人形研究部』の扉を開いた。

と言うわけで、絢人の心情+姐御の本格的な登場でした。


次回は、姐御から絢人への説明会的な回になる予定です。


ご意見・ご感想、誤字・脱字の指摘など、お待ちしています。


次回も、よろしくお願いします。

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