第1話 『大和撫子』
どうも、フュージョニストです。
今回は、前回の予告通り戦闘が入ります。短いですが。
それではどうぞ!
いきなり僕の前に現れ、僕を助けた和人形と、それに対峙するフランス人形と黒豹のぬいぐるみ。
一触即発の空気の中で和人形は両手に鉄扇を持ち、舞を踊るかの様に緩やかに構える。
フランス人形は右手の五寸釘をドレスの中に仕舞い、もう一度ナイフに持ちかえて、左手の金槌と共にいつでもに攻撃できるように構えている。
黒豹も牙を剥き出しにして唸り、姿勢を低くしていつでも飛び掛かれるようにしている。
「……大丈夫?」
「え?」
いきなり和人形に声をかけられ、戸惑う僕。
和人形の声は、10歳くらいの女の子のような、少し高く幼いカタコトの声だった。
「額と、左足。怪我、してる」
「あ、うん。な、なんとか」
「……少し、待ってて。すぐに、片付ける」
和人形は小さい声だったけど、はっきり言い切った。
それを聞いていたフランス人形と黒豹のぬいぐるみは。
「スグニ、カタヅケル……? モシカシテ、アタシタチヲタオスツモリ?」
「グルルルルゥ!」
……彼女の言った事に、物凄くお怒りのようです。
「……そこから、動かないで」
彼女にそう言われた瞬間。
「無視、スルナァァッ!」
「グルオオォォォッ!」
フランス人形が右手のナイフを投げて、黒豹が牙をむき出しにして彼女に飛び掛かる。
「あ、危ないっ!」
僕は思わず声を上げる。
だけど、彼女は。
「……大丈夫」
と静かに呟いただけで、全く動じていなかった。
むしろ、見てる僕が怖いくらいに落ち着き払っていた。
そして。
――――ふわっ。
そんな擬音が一番ぴったりと合う、すごく綺麗で洗練された動きで音も立てずに鉄扇を開き、衣擦れの音を立てずに腕を振るい、金属同士のぶつかる音を出さずにナイフの軌道を逸らして、軌道が変わったそれが黒豹の首に突き刺さる。
「ゴグワァアァァツ!?」
「!? ロ、ロッテ!?」
自分の身に何が起こったのかわからずに飛んできたナイフによって壁に縫い付けられた黒豹と、離れていたために彼女のやったことが見え、信じられないといったような表情のヘイト。
「イ、イッタイ、アナタハナンナノ!?」
「……私の名前は、『大和撫子』。それが、あねさまからもらった名前」
「ヤマト、ナデシコ……! クッ――!」
忌々しげに和人形の名前を呟いて、ドレスの裾の中に右手を突っ込むヘイト。
再び取り出したその手に握っていたのは、大量の五寸釘。
それを空中にばら撒き、2本目の金槌をドレスの中から取り出して――――。
キンキンキンキンキンキンッ!
見えないほどの手の速さで、空中に浮かぶ五寸釘を『大和撫子』と僕に向かって連続で撃ち出してきた。
「アハハハッ! コノ数ノ五寸釘、ソノ武器デドコマデ防ゲルカナ!?」
狂ったように嗤う。
いや、実際狂っているんだろう。
自分の名前を『憎悪』と名付けるくらいなんだから。
「――誰が、私の武器が、これしかないって言った?」
大和撫子は鉄扇を閉じて両手を着物の袖の中に入れ、直後に腕を振る。
――――ギギギギギギィィンッ!
その次の瞬間、僕らに向かって飛んできた大量の五寸釘が、何かに弾かれるようにあらぬ方向へ飛んでいく。
「「!?」」
これには僕もヘイトも驚いてしまう。
その間も、彼女の腕は動き続ける。
そして、すべての五寸釘を弾き終えた彼女は振るっていた両腕を止め、振るっていたものを指の間に挟む。
それは、鎖の先端に苦無の様なものが取り付けられた物だった。
左右3本ずつ、計6本の鎖付き苦無を絡ませることなく僕を襲いそうな釘だけを弾いて、自分は舞うように避けていた。
「――――っ! コノ借リハ、カナラズ返スヨ、『ヤマトナデシコ』!」
自分の攻撃がすべて効かない、そう思ったのかヘイトは狭い路地裏であることを利用して、左右の壁を蹴って三段跳びの要領で建物の上へと逃げて行った。
捨て台詞と共に。
大和撫子はそれを見逃して。
「……終わった。けど、まだ終わってない」
「え、それってどういう事? ヘイトは逃げたんだよね?」
僕の方を向く。
そのまま近づいてきて、僕の前にちょこんとしゃがむ。
「……怪我、治さないと。診せて」
「え…あ、うん……」
言われてようやく痛みを思い出し、左足の裾をまくり釘の刺さったふくらはぎを見せる。
まだ刺さったままだから、そこまで血は出ていない。
額の方はもうかさぶたになっているから、顔の上で固まりかけている血をぬぐえば大丈夫だと思う。
「……服の袖でも、噛んでて。……釘、引き抜くから。……痛いよ?」
「わ、わかった……」
そう言われて、ポケットに入っていたハンカチを強く噛む。
それを見た彼女は、釘に手をかける。
「……じゃあ、いく。……ふっ!」
「っ~~!! っ~~~~!?」
そして、一気に引き抜いた。
その瞬間、想像していたよりもはるかに強い痛みが走り、叫びそうになる。
あぁ、彼女が何か噛んでいろって言ったのは、こういう事だったのかと痛がりながら納得していた。
次に彼女は、懐から何やら読めない文字の掛かれた細長い布の様なものと小瓶を取り出す。
その小瓶の中に入ってる液体を傷口に2,3滴たらした後、その細長い布を巻いていく。
「……これで、大丈夫。明日まで、巻いてて。そうすれば、ほとんど痛みも痕も、残らないはず」
「あ、うん、ありがと……」
確かに、あの液体を垂らされてあの布を巻かれただけで、だいぶ痛みが引いて一応立って歩ける。
「これで、する事の1つは終わり。最後に――」
立ちあがって僕から離れた大和撫子。
彼女はナイフで壁に縫い付けられた黒豹に近づく。
「あ、危ないって――」
そう声をかけるけど、彼女は構わず進んで黒豹の目の前に立つ。
彼女は、着物の懐から1つの正三角錐を取り出す。
彼女の手のひらに乗るくらいだから、多分1辺が10cm位だと思う。
それを左手に持ち、右手で黒豹の首に刺さったナイフを抜き、抜いたナイフで黒豹の背中にある小さな結晶の様なものを抉り取った。
抉り取ったそれを、正三角錐に近づける。
すると、正三角錐の中にズルンッ、と結晶の様なものが吸い込まれた。
「……え、えぇと、何をしてたの……?」
「……封印」
と一言だけ言って、彼女もまたヘイトの様に三段跳びの要領で去って行った。
「……一体、何だったんだろう……?」
考えても分からない物は分からない。
考えるのを諦めた僕は、ふと彼女のいた場所を見た。
そこには、1通の封筒が落ちていた。
「……彼女の落とし物、かな?」
封はしてないみたいだし、見ても問題ないのかな……?
取り敢えず、僕はそれを拾い、逃げる時に投げ出した鞄を探しに歩き出した。
◆
「……戻ったよ、あねさま」
「ふむ、ご苦労だったな、大和撫子」
市内にある、ある建物の上。
そこに、先ほどの黒豹の人形と正三角錐を持って、大和撫子がやってくる。
その建物の上の貯水タンクに寄りかかり腕組みをして彼女を待っていたのは、黒を基調とした長袖・長ズボンのスーツに口元をマフラーの様なもので隠した女性だ。
釣り目気味の翠の目に、背中まで伸びる艶やかな髪は蜜の様な色をしており、月の光と夜の風を受けてきらきらとたなびいている。
鍛えられた体の中でも存在感のある女性特有の2つのふくらみは、スーツに押しつぶされて苦しそうだ。
「でも、あねさま。……1体に、逃げられた」
傍らに立つ女性に残念そうな表情で報告をする大和撫子。
「なに、少年を守りながらだったんだ、仕方ないだろう。
それに、今日再び出てくるという事もないだろう。元の姿で休んでいいぞ」
それを特に気にするでもなく優しく声をかけ、彼女の前にかがんで頭を撫でる女性。
大和撫子はそれをくすぐったそうに受け。
「うん。……それじゃ、おやすみ。あねさま」
「あぁ、ゆっくりと休め」
そう挨拶を交わし、大和撫子は30cm位の高さの和人形に姿を変えて動かなくなった。
「……さて、帰るとするか」
と呟き、女性は彼女の持ってきた傷ついた黒豹の類ぐるみと正三角錐を、持っていたナップザックに丁寧に入れてそれを背負い、大和撫子を左手で抱いて夜の街の屋根を跳び、駆ける。
「……明日から、忙しくなりそうだな」
月明かりに照らされながら呟く女性の目は、先ほど話していた穏やかな視線から鋭く厳しいものへと変わっていた……。
と言うわけで、ちょこっと戦闘シーン+次回登場予定の姐御に出ていただきました。
次回は、絢人が帰宅してからの一幕になると思います。
ご意見・ご感想、誤字・脱字の指摘などお待ちしています。
それでは、次回で!