第七話
チチチチ・・・チチチチチチ・・・・
「・・・・ん」
鳥の囀りで俺は目を覚ます。
「ここは・・・」
視界に入るのは、見慣れた天井。ここは俺の部屋だ。
(確か俺は樹海で黒炎と戦って、それから・・・)
「!!」
ハッキリと覚醒した頭で思い出す。
黒炎との戦い。そして俺は気を失った筈だ。なら、何故自室に居るのか・・・。
状況を確認しようと起き上がろうとしたが、身体が動かない。まぁ、あれだけの怪我をしたんだ。身体が動かないのも・・・・怪我?
確かに怪我をした。それもかなりの怪我だった・・・。にも関わらず、今の俺には怪我らしい怪我は無い。
「どうなって・・・痛っ・・・」
ゆっくりと上体を起き上がらせると、胸部に痛みが走る。
「・・・・・あぁ、そういう事か」
視線をずらすと、俺のベッドに突っ伏して寝息を立てているエルフが居た。
「ん・・・・んぅ・・・・」
俺が起きたので、それに気付いたのか寝ていたエルフが目を覚ます。寝惚け眼を擦りながら・・・。
そんな姿を見て、俺は自然と笑みがこぼれた。
「おはよう・・・・フォー」
「・・・・キョウ・・・・・スケ?」
俺の顔を見てキョトンとするフォー。
だが、次の瞬間フォーの瞳からポロポロと涙が溢れ落ちた。
「お・・・おいお「バカァッ!!」・・・・」
「どれだけ心配したと思ってるのよ!!あんな無茶してっ!!」
「あ~・・・・いや・・・・・」
「黒炎に単独で挑むなんて死にに行く様なモンじゃない!!あんなに・・・あんなに怪我・・・ヒッ・・・怪我まで・・・・グス・・・してぇ・・・・・・」
もの凄い剣幕で怒り出したフォーに、俺はしどろもどろになるが、次第にフォーは力無く俺の胸をポフポフと叩き出す。
「もう・・・・死んじゃうかと思ったんだからぁ・・・・・」
フォーの言葉遣いがギルドマスターのソレではなく、昔の口調に戻っていた。
「・・・・ゴメン」
俺はそう言ってフォーの頭を優しく撫でてやる。
「ウッ・・ヒック・・・・グス・・・」
これじゃどっちが年上か分かんねぇな・・・。
落ち着いたフォーから大体の事情を聞いた。
俺が倒れていたのを他の冒険者がギルドまで運んで来てくれた事。
怪我を治癒させるのに結構な人数の治癒術士が集まってくれた事。
怪我は治癒出来たが、意識が戻らない為、フォーが付き添ってくれた事。(ギルドの仕事はいいのか?と聞いたら、どうやらこの部屋でやっていたらしい)
「色々と迷惑掛けたみたいでスマンな・・・」
「まったくよ・・・」
腕を組んでプンスカと怒っているフォーを見て、俺は苦笑する。
「もうあんな無茶しないでよね?」
「ああ・・・。自重するさ」
「・・・で?」
「ん?」
「今度は誰の為に戦ったの?」
「・・・さぁな」
俺は窓から空を見上げる。
後ろで「また女なのね!?」とか「ムキー!!」とか言ってるが、触れずにしとこう。
青い空に雲がゆっくりと流れていく。
「今日も良い天気だ・・・」
「ちょっと、聞いてるの!?キョウスケ?キョウスケ!?」
あれから一週間が過ぎた。
俺は世話になった冒険者や教会の人達にお礼を兼ねての挨拶廻りをしていた。
皆、俺が元気になったことを喜んでくれていた。
そうそう。噂だが、カティの姉は元気になったそうだ。いや~良かった良かった。
そして俺は今日も店を開けている・・・。開けてるんだが・・・・・。
「・・・・なんでお前が居るんだ?」
「ん?」
何故かフォーが入り浸っている。
「ギルドの仕事はどうした!?」
「終わらせてるに決まってるでしょ?」
「じゃあ、なんでココに居るんだよ!?仕事終わってるなら家に帰れよ!?」
「家に居ても面白くないし」
「お前は女子高生か!?」
「じょしこ・・・何それ?」
「・・・ハァ」
何なんだ・・・このやり取りは・・・。
「今日は話があって来たのよ」
「話?」
「えぇ」
フォーの表情に少し影が差す。
「黒炎を討伐したのは誰なんだって、問い合わせがギルドに来てるの」
「・・・マジか」
「私としてもギルドとしても秘匿にしときたいの。無用な混乱を避けるために・・・」
まぁ、そうだろうな。あの時ギルドには黒炎に対抗出来る面子は居なかったんだから・・・。
「でも、サリント伯が内密にで良いから会わせて欲しいって」
「・・・メンドくせぇ」
恐らく娘の件も絡んでるだろう。
「どうする?」
「拒否・・・と言いたいが、今回はフォーに色々と世話になったから・・・・」
「受けてくれるの?」
「面倒だからパス」
「ハァ・・・。貴方の事だから、そう言うと思ったわ」
そんな事があって、今回の黒炎を討伐した件は有耶無耶に終わった。
面倒な事は極力避けるに越した事はない。
カランカラン
「いらっしゃ・・・カティ」
「こんにちは、キョウスケ」
「どうした?」
「ねぇ、今回の黒炎・・・貴方が討伐・・・」
「さぁ?何の事だ?」
「フフ・・・。そういう事にしておくわ・・・」
平和なのが一番だ・・・。