芽生え
・・・・どうして・・・??
・・・・
・・・・
私は、自分だけで、道を切り開く。
誰の手も借りない。
・・・それで、十分だ。
「佐伯さんって、怖いよね~」
「そうそう。暗すぎるって~」
私は、友達のアッコとミツルと話していた。
「佐伯さん」っていうのは、うちのクラスの女の子。
顔は可愛いけど、雰囲気が暗すぎる。
ほとんど話さないし、前髪が、目を隠しているせいで、どこを見ているのかも分からない。
・・・彼女は、思いっきり、クラスから浮いていた。
「アッコ、今、同じ班でしょ??かわいそ~っ」
ミツルが、同情して言う。
「そうだよねぇ。あたし、クジ運悪いのかなぁ」
アッコも、笑いながら、そう言った。
私も、笑った。
「何言ってんだよ」
突然、「誰か」の声が、私達の後ろから聞こえた。
「何?」
ミツルが、思いっきり不機嫌そうに、その「誰か」を見た。
「何じゃねぇ!!佐伯の悪口は言うなっ!」
「誰か」・・・大宮くんは、それだけ、私達に言って、自分の席に戻っていった。
「何?あれ。感じ悪~」
アッコが頬を膨らませてそう言う。
・・・私は、後ろめたさを感じていた。
大宮くんは、明るくて活発な、クラスのリーダー格の男の子。
クラスの、学級委員を務めている。
そして、私の好きな人。
・・・・そんな事、言えっこないけど。
「大宮ってさ~、佐伯さんのこと、好きなんじゃない?」
ミツルがそうつぶやいた。
その一言で、私の心が固まる。
「だよねぇ??佐伯さんのことになると、いつも、ああだもんね?」
・・・・・。
私は、何も言えなかった。
そして、ふと、佐伯さんの方を見る。
・・・・・彼女は、いつものように、一人で本を読んでいた。
あんなに、暗い子を?
大宮くんが??
私の足は、無意識のうちに、佐伯さんの方に向かっていった。
「・・・・何??」
佐伯さんの冷たい声が、私の胸に重く響く。
『大宮くんのこと、どう思ってんの?』
そう聞きたいのに、言葉が口から出てこない。
そのときだった。
「何してんの?・・・・三根まで、佐伯のこと、イジメんの??」
大宮くんだった。
さっきまでの表情と違い、とても、寂しそうな顔をしている。
・・・・なんで、そんな顔するの??
そんなに、佐伯さんのことが好きなの??
「イジメられて、ないよ、聡史。私のところに来てくれたの」
佐伯さんが、そうつぶやいた。
・・・相変わらず、どこを見ているか分からない。でも、顔の向きは、しっかりと、大宮くんを捉えていた。
「そうか?・・・まぁ、三根は、優しいやつだからな?」
そう言って、大宮くんは笑った。
いつもは、大好きなはずの大宮くんの笑顔も、今は、不快なだけだった。
「・・・・大宮くん。佐伯さん、ごめん」
私は、そう言うと、アッコとミツルの元へ戻って行った。
「何?佐伯さんに、ケンカ売りにいったの??」
「やるじゃん、瞳っ!!」
もう、言い返す元気もなかった。
・・・なんで、大宮くんは、あんなに悲しそうな顔をしたのだろう?
どうせなら、怒った顔をしてくれたほうが、良かったよ。
私の胸に、小さな小さな、黒い何かが芽生えた。