第六話
新学期の保護者の会は、
視聴覚室で行われた。
窓際のカーテンは半分閉められ、
プロジェクターの準備音だけが、
まだ整いきらない空気をつくっている。
桐谷果歩の母は、
後ろから二列目の通路側に座った。
隣の席は、空いている。
少し遅れて、
同じ列に、別の母親が腰を下ろす。
「失礼します」
声は低く、はきはきしていた。
配布されたプリント。
名前を書く欄で、
二人は同時にペンを取る。
桐谷。
松田。
書かれた文字を追うように、
視線が自然に交わった。
「あ……同じクラスですね」
桐谷の母が言う。
「そうみたいですね。松田です」
その返事には、
わずかな柔らかさがあった。
先生の話が続く。
海外校特有の注意事項。
行事は少なめで、
保護者の協力が前提になること。
話半分で聞きながら、
二人はプリントの余白に目を落とす。
「お子さん、何年生ですか?」
「三年です。桐谷果歩といいます」
「うちは松田耕作です。
今年、こちらに来たばかりで」
「そうなんですね」
その一言で、
説明は十分だった。
ここでは、
戻る人と、来る人が、
いつも同じ場所に混じっている。
会の終わり。
椅子を引く音が、いくつも重なった。
「……アクアリウム、行かれました?」
松田の母が、
ふと思い出したように言う。
桐谷の母は、
一瞬驚いてから、笑った。
「オープンの日に」
「やっぱり。
耕作も、あの日、すごく興奮していて」
その瞬間、
二人の中で、
子どもたちの姿が重なる。
同じ水槽。
同じ日。
同じ、知らない誰かの隣。
その場では、
それ以上、話は広がらなかった。
連絡先も、交換しない。
けれど、
母親同士は知ってしまった。
――あの子は、
同じ場所に、確かにいた。
そしてそれは、
子どもたちがまだ言葉にしない関係を、
ほんの少しだけ、
先に照らしてしまった。




