第三十四話
三日目の朝、ホテルの朝食。
果歩はコーヒーカップを置いて、父と母に言った。
「父さん、母さん。昨日のオプショナルツアー、けっこうお疲れでしょう。
私、一人で人魚台まで行ってくる。お二人はホテルのスパに行って、今日はごゆっくりおくつろぎください」
跳ね橋の時間迄には帰って来るから。
母は少し心配そうに、
「一人で大丈夫かい?」
と尋ねたけれど、果歩は笑って首を振った。
「もう子どもじゃないんだから。大丈夫よ」
朝食後、果歩はスニーカーを履き、軽装で人魚台を目指した。
空気の澄んだ朝の時間。
何十年ぶりかの坂道には、行き交う人々の姿も実にさまざまだった。
――あの頃と違って、押しつぶされることもない。
もうすぐ頂上、というところで、
大勢の子どもたちが勢いよく駆け登ってきた。
避けた拍子に、果歩は思わず体勢を崩し、転びそうになる。
その瞬間、頂上のほうから手が伸びてきた。
“May I help you? Are you all right?”
突然の英語に、とっさに答える。
“Thank you, I'm all right.”
そう言って顔を上げた瞬間、
果歩は息を呑んだ。
――どこかで、見覚えのある顔。
「……え……?」
“Yes, I am. Kosaku Matsuda. Long time no see.”
一拍遅れて、胸の奥がざわめく。
“ What are you doing here? ”




