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風の時代  作者: velvetcondor guild


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33/42

第三十三話

――外島ウェド海上農園ツアー。

外島ウェド海上農園ツアー


早朝/ホテル出発

まだ完全に朝になりきらない時間。

ロビーの照明は夜の名残を引きずったままで、

チェックアウトではない客たちが、

それぞれの目的地に向かって静かに集まってくる。

スニーカー、ウインドブレーカー、

少しだけ大きめのリュック。

今日は「歩く日」だと、

服装が、最初から教えてくれる。

「集合は、七時半です。

外島ツアーのお客様、こちらでお待ちください」

日本語、続いて韓国語、

最後に、簡単な英語。

赤い旗を持った案内人が、

人の流れを、ゆっくりまとめていく。

「母さん、酔い止め、飲んだ?」

「飲んだわ。

……一応ね」

「船、揺れる?」

「今日は波、穏やかですよ」

案内人が、笑顔で言う。

父は、何も言わず、

ロビーの大きな窓から、

朝の海を見ている。

バス移動/港へ

バスが走り出すと、

街は、少しずつ目を覚ます。

通勤の車、

朝市の準備、

港に向かうトラック。

案内人の声が、

マイク越しに流れる。

「本日向かいます外島ウェドは、

個人所有の島でして、

“海上農園”として整備されています」

「1969年、

嵐で漂着した夫婦が、

この島を買い取り、

何十年もかけて、

今の形にしました」

「島内は、

決められた順路のみ、

自由行動時間は約一時間半です」

後ろの席で、

日本人の年配夫婦が、ひそひそ話す。

「昔、ドラマのロケで有名になったのよね」

「冬ソナじゃなかった?」

「違うわよ」

前の方では、

若い韓国人カップルが、

スマホで写真を見せ合っている。

英語が、少しだけ聞こえる。

「Is it like a botanical garden?」

「Yes, but on an island」

港/乗船

潮の匂いが、強くなる。

船は、思っていたより大きい。

白い船体に、

ツアー名が書かれている。

「滑りやすいので、

足元ご注意ください」

甲板に出る人、

中に入る人。

果歩は、

外の席を選ぶ。

「寒くない?」

「平気」

父は、風を受ける場所に立つ。

船が、

低い音を立てて、動き出す。

海/移動中

陸が、ゆっくり遠ざかる。

波が、船腹に当たるたび、

規則的な音が響く。

案内人は、

景色に合わせて、話を続ける。

「右手に見えますのが、

巨済島コジェド方面です」

「天気が良い日は、

対馬が見えることもあります」

母は、

手すりを握りながら、

海を見ている。

「……昔より、

海、ほんとに綺麗」

「そう?」

「うん。

油の匂い、しない」

父は、

小さく、うなずく。

近くで、

外国人の男性が、声を上げる。

「Wow, look at that color」

海は、

青でも、緑でもない。

その間の、

名前のない色をしている。

外島到着

島が、近づく。

断崖の上に、

白い建物。

その周りを、

緑が覆っている。

「外島に到着しました」

「帰りの集合時間は、

十三時四十分です」

「時間厳守でお願いします」

桟橋を渡ると、

足元の感覚が、

少し、陸に戻る。

島内散策/案内付き

最初は、

案内人の説明を聞きながら進む。

「こちらは、

地中海風の庭園です」

「オリーブ、

ブーゲンビリア、

季節の花が植えられています」

風が、

花の匂いを運ぶ。

石段を上ると、

視界が、急に開ける。

「……わあ」

思わず、声が漏れる。

海と、庭と、空。

境目が、曖昧だ。

「写真、撮ります?」

「お願いします」

知らない誰かと、

カメラを渡し合う。

自由行動

ここから、

各自の時間。

人の流れが、

ゆっくり、ばらける。

母は、

花の名前を一つずつ確かめるように歩く。

「これ、

日本で見たことないわね」

「韓国でも、

ここだけらしいよ」

父は、

高台のベンチに座り、

海を見る。

「……贅沢だな」

誰に言うでもなく。

近くで、

韓国人の家族が話している。

「엄마, 여기 유럽 같아」

「그래, 근데 너무 오래 앉지 마」

少し離れたところで、

日本語が聞こえる。

「坂、結構きついわね」

「でも、来てよかった」

島の奥へ

果歩は、

順路の一番奥まで行く。

観光客が減り、

風の音が、前に出る。

岩に当たる波。

鳥の声。

「……静か」

ここは、

作られた場所だけれど、

自然に、負けていない。

集合/帰路へ

集合時間が近づくと、

人が、戻ってくる。

「楽しかった?」

「歩いたわ……」

「写真、撮りすぎた」

船に乗り込むと、

皆、少し疲れている。

でも、

顔は、明るい。

帰りの船

島が、また遠ざかる。

誰かが、

うとうとし始める。

案内人の声も、

帰りは、少ない。

「本日は、ありがとうございました」

母は、

海を見ながら言う。

「……いい島だった」

「うん」

父は、

それだけ。

バス/ホテルへ

街に戻ると、

現実が、戻ってくる。

信号、

人、

建物。

でも、

身体の中には、

まだ、海が残っている。

ホテル到着

ロビーに入ると、

朝とは違う光。

「お疲れさまでした」

エレベーターに乗り、

部屋へ戻る。

父が、

カードキーを差し込みながら言う。

「一日分、

ちゃんと使ったな」

それが、

このツアーの締めだった。

外島は、

観光地だった。

でも、

思い出になる場所だった。

――釜山の旅は、

まだ、続く。

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