第二十八話
桐谷母
「果歩、どうしたの、その怪我……!
だめよ、そんなの、ばい菌が入るじゃない。すぐ消毒しないと。
ちょっと、見せなさい……もう、血、こんなについて……」
「……転んだだけ」
「転んだ“だけ”で、こんなになるわけないでしょ。
それに、このハンカチ……濡れて、血までついてるじゃない。
誰の? あなたのじゃないでしょう。
どこへ行ってたの、こんな時間まで……」
「……ごめん」
「泣きなさんな、もう……。
まったく、心配させて……。
ほら、とにかくお風呂場に来なさい。
話はあと、まず洗って、ちゃんと消毒よ」
「……うん」
松田母
「どこ行ってたの。
帰ってきたら家にいないんだもの、どれだけ心配したと思ってるの」
「……ごめん」
「それに、そのチョコパイ。
ぐしゃっと潰れて……ポケットに入れたまま走ったんでしょ。
もう……」
「……」
「ほら、今からお風呂で洗濯するから。
洗うもの、全部出しなさい。
上着も、ズボンも……」
「……はい」
「……ちょっと。
ハンカチは? いつも持ってるでしょう」
「……」
「ないの?
あなたのお気に入り、新世界で買ったあのハンカチ。
今日は持ってなかったの?」
「……忘れた」
「……忘れた、で済む話じゃないでしょ。
あれ、汚れてもいいって言っても、
ちゃんとポケットに入れて出る子だったじゃない」
「……」
「……まあ、いいわ。
今はいい。
早くお風呂。体、冷えてるでしょ」




