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風の時代  作者: velvetcondor guild


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第二十七話

「ねえ、耕作くん。

今日さ、あの店でおやつを買って、人魚台に行かない?」

突然そう言われて、耕作は足を止めた。

「お父さんが言ってたんだけどさ、

一人で行っちゃだめだって。

いろんな国の人がたくさん来るから、

人攫いに会うぞ、って」

少し間を置いて、彼女はすぐに続ける。

「でも、一人じゃないよ?

私と二人じゃん」

にっと笑って、畳みかけるように言った。

「大丈夫だよ。行こうよ」

耕作は少し考え込む。

「うーん……」

しばらく黙ってから、ぽつり。

「……すぐ帰ってくれば、大丈夫だよね」

彼女の顔が、ぱっと明るくなる。

「でしょ?」

「じゃあ……まずは、お菓子を買いに行こう」

そう言うと、二人は顔を見合わせて、

何でもないことのように歩き出した。


문방구 안.

두 아이가 조심스럽게 카운터로 다가온다.

(ムンバング アン。

トゥ アイガ チョシムスロプケ カウントロ ダガオンダ)

文房具屋の中。

二人の子どもが、そっとカウンターへ近づく。


아이 1:

「아저씨, 초코파이 하나 얼마예요?」

(アジョッシ、チョコパイ ハナ オルマエヨ?)

「おじさん、チョコパイひとつ、いくらですか?」


주인아저씨:

「응? 초코파이? 하나에 삼백원이야. 둘이서 하나씩 살 거야?」

(ウン? チョコパイ? ハナエ サムベグォニヤ。トゥリソ ハナッシク サル コヤ?)

「ん? チョコパイ? ひとつ300ウォンだよ。

二人とも一つずつ買うのか?」


아이 2:

「네… 저도 하나 주세요。」

(ネ… チョド ハナ ジュセヨ)

「はい……ぼくも一つください。」


주인아저씨는 웃으면서,

비닐봉지에서 초코파이를 두 개 꺼내 아이들 쪽으로 밀어준다.

(チュインアジョッシヌン ウスミョンソ、

ビニルボンジエソ チョコパイル トゥ ゲ コネ アイデゥル チョグロ ミロジュンダ)

店のおじさんは笑いながら、

ビニール袋からチョコパイを二つ取り出し、子どもたちの方へ差し出す。


주인아저씨:

「자, 여기. 떨어뜨리지 말고 조심해서 가라。」

(チャ、ヨギ。トロットゥリジ マルゴ チョシメソ カラ)

「ほら、これ。落とさないように、気をつけて帰れよ。」


아이들은 동전 몇 개를 손에 꼭 쥐고 내민다.

(アイドゥルン トンジョン ミョッ ゲルル ソネ コク チュィゴ ネミンダ)

子どもたちは、手の中の小銭をぎゅっと握って差し出す。


아이 1:

「여기요… 감사합니다!」

(ヨギヨ… カムサハムニダ!)

「はい……ありがとうございます!」


주인아저씨:

「그래그래. 맛있게 먹어라。」

(クレクレ。マシッケ モゴラ)

「はいはい。おいしく食べな。」


아이 둘은 초코파이를 들고 문방구를 뛰어나간다.

(アイ トゥルン チョコパイル トゥルゴ ムンバングルル トゥィオナガンダ)

二人の子どもは、チョコパイを手に、文房具屋を駆け出していく。


人魚台へ向かう道は、観光客でひどく混雑していた。

耕作たち子どもにとって、外国人の大人たちは、まるで巨人のように見えた。

言葉のわからない声、重い足音。

押され、流され、立ち止まることもできない。

頂上まで、あと少しというところで、

突然、後方の人々が一斉に走り出した。


「え……?」


その波に押されて、果歩が足を取られる。


「わっ——!」


果歩は前につんのめり、そのまま転んだ。


「果歩!」


耕作は必死で手を伸ばし、果歩を引き起こそうとする。

そして、周囲の大人たちに向かって、思わず叫んだ。


「危ない! 子どもがいる!」


もちろん、日本語は通じない。

誰も振り向かない。


耕作は、喉が張り裂けそうな声で、今度は韓国語で叫んだ。


「아저씨! 잠깐만요! 아이가 넘어졌어요!」

(アジョッシ! チャムカンマニョ! アイガ ノモジョッソヨ!)

「おじさん! ちょっと待って! 子どもが転んだんです!」


「밀지 마세요!」

(ミルジ マセヨ!)

「押さないでください!」


けれど、人の波は止まらない。

叫びは飲み込まれ、観光客たちは何事もなかったように走り去っていった。

耕作は、果歩を安全な端へ連れて行き、膝を見る。

擦りむいた膝から、うっすら血がにじんでいた。


「……痛い?」


果歩は小さく首を振る。


「だいじょうぶ」


本当は痛かった。

でも、自分が誘ったのだと思い、果歩は歯を食いしばって我慢した。

耕作は、ポケットからハンカチを取り出し、

そっと膝に当てて押さえる。

しばらくして、観光客の流れが途切れ、

二人は人魚台のほうへ、ゆっくりと近づいた。

その先には、

今まで見たこともない景色が広がっていた。

雲が海のように流れ、

高い場所を抜ける風が、驚くほど爽やかに吹いている。

果歩は、しばらく黙ったまま、その景色を見ていた。

そして、

膝に当てていたハンカチを外し、そっと畳む。


「……これ、洗って返すね」


そう言って、ポケットにしまう。

耕作は、少し慌てて言った。


「返さなくていいよ」


そのとき、

耕作の胸の奥に、はっきりとは言葉にできない何かが芽生えた。

帰り道。

果歩が、何でもないことのように言う。


「ねえ、また、ここ一緒に来ようね」


耕作は、うなずいた。


「うん」


けれど、その願いが叶うことは、なかった。



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